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面接で「都内配属」と言われたのに、片道2時間の職場に配属された! 拒否できる?

2017年05月07日 10:43  弁護士ドットコム

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自宅から電車とバスで片道2時間がかかる職場に配属され、職場の近くに引っ越そうにも、住宅手当も出ないーー。ネットの掲示板にこのような投稿が寄せられた。投稿者は不満をあらわにし、「配属を拒否したらどうなるのか」と疑問を投げかけている。


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面接時には「基本的に都内だ」と聞かされていたのに、実際には都外で働くことになってしまったという。具体的な配属場所についての希望は聞かれなかったそうだ。


投稿者は「通えるわけないじゃん」と不満をこぼしているが、このような場合、配属を拒否することはできるのだろうか。岡村勇人弁護士に聞いた。


●勤務場所を限定する合意があったかどうか

面接で「基本的に都内」と言われているので、投稿者の配属場所は東京都内に限定されているのではないか。


「会社(使用者)と従業員(労働者)との関係は、労働契約という契約関係です。会社と従業員との間で、『勤務場所を東京都内に限定する』という合意がなされている場合、その合意が勤務場所に関する契約内容ということになりますから、会社はその従業員の意思に反して、『東京都外』で勤務することを命じることはできません。この場合、従業員は東京都外での勤務を拒否することができます。


ただ、勤務場所を限定する合意があったといえるかどうかは、面接でのやりとりだけで判断されるわけではなく、勤務場所を限定すべき事情があるかどうかといったことや、採用までの経緯、募集時の求人票や労働契約締結の際に会社が交付した書面で勤務場所がどう記載されていたのか、なども判断材料とされます。投稿者のケースでも面接でのやりとり以外の事情を検討する必要があるでしょう」


●合意がないと判断された場合は?

では、その合意がなかったと判断されるのであれば、会社は勤務地を指定することができるのか。


「多くの会社では、就業規則等に『会社は業務上の都合により配置転換または転勤を命じることがある』というような規定を設けています。初任地の配属についても同様と考えられます。就業規則等にこのような規定があって、先ほど述べたような勤務場所限定の合意が認められない場合には、会社は、就業規則等の規定を根拠に、従業員に対して勤務場所の指定や変更を命じることができます。


ただし、就業規則等に配置転換や転勤を命じることができる旨の規定がある場合であっても、会社はどんな命令でもできるというわけではありませんので、注意する必要があります。


業務上の必要性がないのに転勤などを命じることは権利の濫用として許されません。また、転勤などの命令が従業員に対する嫌がらせ目的でなされた場合やその命令によって従業員が『通常甘んじて受けるべき程度を著しく超える不利益』を負う場合なども、会社の命令は権利の濫用と評価されます。命令が権利の濫用に当たる場合、配属や転勤の命令は無効となります。会社の命令が無効の場合は、従業員は命令に従う必要はありません」


●片道2時間もかかる、住宅手当が出ないことの影響は?

では、通勤に片道2時間もかかったり、引っ越しても住宅手当が出ないというのは、先ほどの解説で出てきた「通常甘んじて受けるべき程度を著しく超える不利益」といえないか。


「命じられた配属先までの通勤にかかる時間や費用、転居した場合の住宅手当の有無や額も、『通常甘んじて受けるべき程度を著しく超える不利益』かどうかの判断にあたって考慮される事項ではあると思います。


ただ、裁判例で転勤の命令が無効と判断されたケースは、病気や障害のあるご家族の看護や介護をする必要があるのに、それができない遠方への転勤を命じられたというような、深刻な不利益が生じているものが多いです。


また、共働きの夫婦に単身赴任を余儀なくさせるような転勤の命令であっても、『通常甘んじて受けるべき程度を著しく超える不利益』を与えるものではないと判断されている裁判例もあるので、今回のようなケースで、従業員が受ける不利益を理由に会社の配属・転勤命令が無効とされるハードルはかなり高いように思われます」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
岡村 勇人(おかむら・はやと)弁護士
企業の法務部門などでの会社員経験を経て、2008年に弁護士登録。労働事件のほか、交通事故、相続などを中心に幅広い分野の案件を扱う。2016年10月に兵庫県西宮市に岡村法律事務所開設。
事務所名:岡村法律事務所
事務所URL:http://www.okamura-lawoffice.com