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ゆずは“Jポップの概念”そのものだーーオールタイムベスト収録曲から感じたこと

2017年05月06日 17:03  リアルサウンド

リアルサウンド

ゆず『ゆずイロハ 1997-2017』(通常盤)

【参考:2017年4月24日~2017年4月30日のCDアルバム週間ランキング(2017年5月8日付・ORICON STYLE)】(http://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2017-05-08/)


 売り出し中の若手バンド、ポルカドットスティングレイが7位に初登場。約8,500枚のセールスを記録し、新人のロックバンドとしては申し分ない滑り出しを果たした。ネットを起点にうまく話題を作って実売につなげる手法は鮮やかとしか言いようがなく、「楽曲やMVなどクリエイティブ面での魅力×情報発信の的確さ」という構造は多くのミュージシャンにとって参考になる部分があるように思える(もちろん「前者があってこそ後者が生きてくる」という話で「後者があれば売れる」ということではない)。この勢いを持続させることができるかどうか、今後も注目していきたい。


(関連:ゆずが最新チャートで体現した、“ライブ時代における音源の価値の高め方”とは?


 さて、今回取り上げるのは初動170,000枚というぶっちぎりの強さで初登場1位を獲得したゆずのオールタイム・ベストアルバム『ゆずイロハ 1997-2017』(2位のVAMPSは25,000枚)。20年のキャリアを3枚組全50曲で振り返る今作は、公式サイト(http://www.senha-yuzu.jp/special/yuzuiroha/)にもあるようにコアなファンからグループの名前くらいしか知らない人たちまであらゆる層が楽しめる作品になっている。以前当連載において「ベテランアーティストが3枚組ベストアルバムを出すことが増えている」という趣旨の原稿を書いたことがあるが(http://realsound.jp/2016/05/post-7391.html)、今回ゆずも同様のパッケージをリリースすることとなった。リスナーが好きな曲だけを選んで配信で購入することが一般的になったこの時代にベスト盤を出すのであれば、このくらい豪華にしないと価値がないということなのだろう。さらに今回のアルバムは単に50曲を時系列順に集めて機械的に3枚に分割するのではなく、1枚ごとに設定されたコンセプトに応じた選曲がなされており、曲順の妙を楽しむこともできる。


 収録されている50曲を見渡して改めて感じるのが、彼らの音楽のレンジの広さである。「栄光の架橋」「Hey和」といった壮大なバラード、「サヨナラバス」「センチメンタル」のようなポップさと切なさが同居する楽曲、さらにはフォークロック調の「嗚呼、青春の日々」や文字通り歌謡テイストの「恋の歌謡日」……指摘していくときりがないが、これだけでもあらゆる方向にアプローチしていることがわかる。また、アコースティックギターをかき鳴らすタイプの楽曲に限っても、「夏色」「月曜日の週末」のようなアッパーな曲もあれば「雨と泪」のようなしっとりと聴かせるナンバーもある。「2人組」「アコギ×歌」という非常にミニマムな編成をベースに様々なタイプの楽曲を違和感なく消化していく彼らのスタンスは、その時々のトレンドに応じて多様なジャンルを取り込んで進化し続ける「Jポップ」という概念そのものを体現しているようにも見える。


 今作にはいきものがかり、back number、SEKAI NO OWARIという以前よりゆずからの影響を公言している面々とのコラボ楽曲も収録されている。普遍的な歌詞とメロディを自由な解釈でアレンジしてキャッチーな楽曲に仕立てあげるゆずの職人技にリスペクトを寄せているアーティストは本当にたくさんいるのだと思う。特に現在30代前半~半ばのミュージシャンへの影響力はかなり大きいようで、前述の3組以外にもクリープハイプの尾崎世界観やceroの高城晶平も自身のルーツとしてゆずの名前を挙げている。次の節目のタイミングでは、今回のようなベスト盤と合わせて現役ミュージシャンによるゆずのトリビュートアルバムのリリースもお願いしたい。(レジー)