2017年05月06日 10:23 弁護士ドットコム
アダルトビデオ(AV)出演強要問題をめぐって、政府は、進学や就職などで生活環境が大きく変わる4月を「被害防止月間」と位置づけて、スカウト行為に対する取り締まりを強化した。
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この問題では、NPO法人ヒューマンライツ・ナウが昨年3月、若い女性たちが街中でスカウトから「モデルにならない?」などと声をかけられて、プロダクションで契約を結ばされたうえで、意思に反してAVへの出演を強要されたという被害実態を公表し、大きな注目を集めた。
AV監督歴32年の斉藤修さんは「撮影現場では、できるだけ丁寧に女優の意思を確認してきたが、女優とトラブルになったこともある」と話す。インタビュー前編では、「女性を気持ちよくすること」をテーマに、いわゆる「イカセモノ」を撮ってきた斉藤さんが、撮影現場で気をつけていることを聞いた。
−−AV出演強要問題が報告されてから、現場では、撮影の仕方が変わりましたか?
現場は、ほとんど変わっていないと思います。昔の単体女優(≒トップ女優)は、1年くらいで消えていく人が多かったけど、今は少なくても4、5年はいます。彼女たちは、真のプロフェッショナルですよ。一緒に仕事しても楽だし、トラブルも起きません。現場的に混乱はほとんどないと思います。
−−撮影のときに気をつけていることはありますか?
事前に、本人の意思を丁寧に確認して、その子にできることだけをやってもらうようにしています。だけど、「やってみて大変だった」「想像してたのと違った」ということはあります。また、初めて出演する女の子と、何十本も出ている女の子では、当然違うわけです。そういうところに認識のギャップが生じるということはありますね。
−−撮影の裏で、女の子が泣いているかもしれないのでは?
僕たちは、現場に来た女の子は「出演自体には承諾している」と考えて、撮影をすすめます。そこに至るまでに、何があったかは、うかがいしれません。だけど、女の子によっては、すごく塞ぎ込んでいたり、ほとんど撮影にならないこともあります。そういうとき、僕は、帰らせるようにしています。プロダクションに電話して「この状態では無理だ」と伝えるなど、状況を見て対応しています。
−−たとえば、レイプモノなどの撮影のときは、トラブルが頻発しそうな気がします。
レイプモノの場合、いったん撮影が始まってしまうと、「イヤ」と言うのも演技のうちに入ってしまう。だから、本当に「イヤ」なときのために、あらかじめ「ストップ!」「待った!」など、撮影を止めるワードを取り決めて、「本当に無理だったら言いましょう」と約束しています。
ただ、そのワードが発せられなければ、撮影側は「OKだ」と思ってすすめてしまう。だから、女の子が「やめて!」と言えないままことが進んでしまって、終わってから「無理やりだった」となると、「あちゃー」ということになります。そういうことは、現場で山ほどあると思うんですよ。
−−無理やりすることは?
現場の人間が一番おそれているのは、プロダクションなんです。女の子のNG事項(例:アナルセックスNGなど)に違反すると、プロダクションから「違反金」を請求されたりするわけです。だから、女の子が「嫌だ」といえば、それ以上やらない。女の子のNG事項は守るようにしています。トラブルを防ぐために予防線を張っているわけです。撮影後に「無理やりやらされた」と言い出されると、「強姦」と言われかねない。
−−監督自身もトラブルに巻き込まれたことはありますか?
過去に何度か、撮影が終わった後、マネージャーから「困るじゃないか」「どうしてくれるんだ」と電話がかかってきたことがあります。
あるとき、女の子に健康器具に逆さにぶら下がってもらう撮影をしようとしたことがありました。「一度、試しでぶら下がってみて。ダメだったらやめるから」と言って、女の子をぶら下げてみた。
でも、女の子が「やっぱり、ダメ」となって、じゃあ「やめましょう」と。試しただけなんだけど。そっと降ろしたはずなんだけど。現場も和気あいあいとすすんだと思ったんだけど。あとから、そう言われた。僕はそのプロダクションの監督NGとなりました。
こちらが丁寧に説明しているつもりでも、撮影が始まったら、女の子もなかなかいえない状況がある。だから、我慢して乗り切っちゃうということが起こりうるんですよ。
−−女優との人間関係をきちんと構築しないといけない気がしますね。
それはありますね。だから、女優が現場で見せている顔と、プロダクションに帰ったときの顔は、こちらの扱い次第で全然違いますよね。ちょっとしたことでも、不満が溜まっていくと、トラブルになるということが往々にしてありますよね。
−−撮影以外で、女優と接する機会がありますか?
今は監督面接くらいですよね。昔は、撮影が終わったらご飯を食べに行ったりもしたんですけど、今は撮影後10分くらいで、女の子は「おつかれさまでしたー!」って帰っちゃいますから。
−−普段の顔はわからない?
わからないですね。どういう性格かわからない。何回も撮っていたらわかるが、初めてだとわからない。だからこそ、ハードなことをやる現場は、女の子のケアをきちんとしているはずです。それをやらないとトラブルになるし、女の子も撮影を乗り切れないです。
−−具体的には、どんなケアをしているんでしょうか?
事前に「どんなプレイができるか?」をきちんと聞きます。「ごっくん」が平気な子がいれば、NGの子がいる。「生」が平気な人もいれば、そうじゃない人もいる。大丈夫かどうか、丁寧に確認しています。
一般の人が見たら顔をそむけたくなる内容かもしれないけれど、マニアが見たら「すげー」「ここまでやるんだ」というくらいにしないと売れなくなってきています。だから、そういうのができる人、好きな人にしかさせないようにしています。
−−監督は丁寧に聞いているけれど、プロダクションから「断わるな!」と言われている可能性は?
それは・・・あるかもしれないけど、わからないです。「あまりNGを多くすると、仕事がないよ」とか「セックスは好きと言っておきな」とか、プロダクションから指示が出ているかもしれない。
経験上、自分で「淫乱です」と言っている子に淫乱はいません。「営業淫乱」と言っていますけどね。「わたし淫乱なんです」「エッチすきなんです」と言っている子は、たいしてエッチのことが好きじゃない。そういうところは、かなり念入りに確認しています。
−−ヒューマンライツ・ナウの報告書では、女性が撮影現場で想像以上にハードなことをさせられたという事例もありました。
撮影では、通常の性行為じゃなくて、ハードなことをやってみせるということが多い。痴漢にしても、レイプにしても、本来だったら犯罪になるようなことを架空の物語の中で、代わりにやってみせているわけです。
だからこそ、ハードな撮影現場では、女の子と安全にできるようにする工夫はかなりしているんです。他の組(撮影チーム)でも、そういう工夫をしていなければ、年間何千本と撮影されている中で、「レイプされた」という事件がもっとすごい数で出ているはずだと思います。毎回トラブルを起こしていたら、そんな本数は撮れないですよ。
(<ベテランAV監督が語る強要問題(下)>は近日公開予定です)
(弁護士ドットコムニュース)