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墓地を求め、漂流する遺骨…独身中高年「明日は我が身」の不安〈孤独死大国・下〉

2017年05月06日 09:24  弁護士ドットコム

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自宅で誰かに看取られることなく息を引き取り、そのまま放置される「孤独死」が年々、増えている。「平成27年版高齢社会白書」によれば、東京23区内で一人暮らしで65歳以上の人の自宅での死者数は2013年に2869人。2002年には1364人だった。


【関連記事:亡くなる直前もラーメン、35年前に姿を消した父の「迷惑な」最期〈孤独死大国・上〉】


孤独死の要因としては、生涯未婚率の上昇だけでなく、非正規雇用の拡大など様々な要因が挙げられるが、単身世帯の増加に伴い、孤独死の数も今後増えていくと予想されている。未婚者だけでなく、たとえ既婚であっても死別によって最後は夫婦のどちらかが「おひとりさま」になる。そう、孤独死という結末はもはや、誰にでも襲いかかる現実なのだ。


前編では35年間会っていなかった父親が孤独死したケースについて、実の息子から話を聞いた。後編では、発見された後、孤独死した人の亡骸はどのような経緯を経て、埋葬されるのか。実際にある孤独死をした人の火葬の場をたずねてみた。(ノンフィクション・ライター 菅野久美子) 


●親族が誰も立ち会わない孤独死の火葬

孤独死の火葬はどのように行われるのか。2016年8月、私は都内のある火葬場で、孤独死の火葬の瞬間に立ち会わせてもらうことになった。亡くなったのは鹿児島県出身の70代の男性とのことだった。男性は、九州の出身だが、都内のアパートで孤独死して引き取り手がなかったという。その人の最期を見届けるのは、行政から依頼された葬儀社の女性職員だ。


女性によると、一般の火葬では亡骸は霊柩車で運ばれてくるが、孤独死や身寄りのない人の遺体は、ワゴン車の荷台に乗せられてひっそりと運ばれてくるという。


幸いにもこの男性は、腐敗の進行は進んでいなかった。しかし、孤独死の場合は、蛆(うじ)や虫まみれのことも多く、その場合は、チャック付きの袋で厳重に密封された状態で棺に入れられて、そのまま火葬となるケースも多いのだという。つまり、棺を開けることすらできない状態というわけだ。


ワゴン車の荷台から棺が下ろされると、火葬場の職員によってストレッチャーのようなものに乗せられて一列に並んだ炉の前まで運ばれていく。あっという間に、ストレッチャーは炉の前に到着し、葬儀社の職員と火葬場の職員が一礼をして、炉の扉が閉まり、火葬が終わるのを待つ。


しばらく経つと、葬儀社の職員に、収骨室へ呼び出された。かなりの高温に達した台の上に、跡形もないほどに崩れた骨が並んでいた。隣の部屋では、納骨室に入りきらないほど大勢の遺族で溢れ、すすり泣きの声が聞こえる。


家族に看取られた人も、孤独死をした人も、火葬は同じ場所で執り行われるからだ。


そのあまりに大きなギャップに、何とも言えないもの悲しさを感じた。骨を拾うのは、火葬場の男性職員だ。とても丁寧でありながら無駄のない動きで、それでも夏場とあって大量の汗をかきながら、職員は骨を一つずつ骨壺に納めていく。


「よければ骨壺を持ってみますか?」


あまりの手際の良さを見とれていると、葬儀社の職員の女性にそう言われたので、骨壺を両手で持たせてもらった。それは意外にもずっしりと重く、まだ熱を持っていてじんわりと温かかった。両手で抱えて包んで、男性の骨壺を業者の車まで運んだ。男性の遺骨は共同墓地で合祀になるとのことだった。


孤独死で遺族による遺体の引き取り拒否があった場合や、身寄りがない場合は、最終的に行政がその費用も負担する。早い話、これらの費用は我々の税金から支払われることになるというわけだ。


●孤独死者の「漂流遺骨」

孤独死は、このようにとりあえず火葬はしたものの、行き場のない「漂流遺骨」という形になって如実に現れる。


それを引き受けるのが、合祀(ごうし)墓と呼ばれる超低額の共同墓地だ。


3万円で遺骨を引き取る「終の棲家なき遺骨を救う会」(東京都世田谷区)には、引き取り手のない遺骨に関しての相談が毎日のように、電話やメールで寄せられる。その数は、月に約200件。さらにその中の3割が孤独死した親族の遺骨を持って、途方に暮れる遺族たちであるという。「終の棲家なき遺骨を救う会」の担当者は内情をこう語る。


「うちのお墓を利用されるのは、ほとんどが、生前は何らかの原因で疎遠になっていた人ばかり。家族関係は昔とだいぶ様変わりしたと感じずにはいられません。亡くなった方には、全く思い入れがなくて、本当にただただ遺骨を抱えて困っている、そんな人たちなんです。


だから中には、1000万円を超えるような車でドーンとうちの会社に乗りつけられる富裕層の方もいらっしゃいますよ」


よく知らない親族が孤独死し、さらに遺骨を押し付けられたので、できるだけ安く簡単に済ませたい――。そんな親族の心情が見え隠れする。孤独死した後の遺骨についての相談は、いずれも切迫したものばかりだ。


「離婚して、疎遠だった父が孤独死していた。生活保護受給者だったため、火葬は行政で行ったが、母は受け取りを拒否。骨が手元にある。できれば急いで手放したい」(50代男性)


「疎遠になっていた叔父(父の弟)が亡くなったと市役所からTEL。他に親類がいないため火葬等の面倒を見た。送骨(ゆうパックなどで、お骨を送ること)で埋葬をお願いしたい。市役所から直接骨をそちらに送りたい」(40代女性)


「叔父が孤独死したのですが、実子が引き取りを拒否したため、甥である私に警察から連絡がきました。送骨を検討としています」(60代男性)


「一年前に孤独死で亡くなり、最近発見された叔母の遺骨が手元にあるので、永代供養をお願いしたい。費用について聞きたい」


こうした相談内容からは、降って湧いたような自分には関係ない孤独死した身内の、いわば“お荷物”を押し付けられた、遺族の切実さが伝わってくる。


●孤独死予備軍の「縁なき人々」

また、最近多いのが孤独死予備軍ともいえる“縁なき人々”の生前からの相談だ。意外に思われるかもしれないが、40代や50代からの相談も少なくない。離婚、もしくは未婚で単身のまま生涯を終える可能性が高いと考える人々だ。子どもや助けてくれる親族、親しい友人などもいないことから、病気や健康不安などをきっかけに相談してくるのだという。


「50代独身です。最近、病気で体調を崩すことが多くなり、近親者もいないため事前にご相談したいと思ってメールいたしました」(50代男性)


「独り身のため、今後何かあったときのことが心配でたまりません。自身の生前契約を検討しています」(50代女性)


このような“縁なき人々”による生前の相談が、毎日ひっきりなしに押し寄せているのだ。


これは日本の社会が、何十年も前から顕在化していた「社会的孤立」の問題を、ずっと放置し続けていたことの結果といえる。未婚率の上昇や雇用の不安定化などの要因を伴いながら、この状況は加速度的に悪化しており、大げさな表現に聞こえるかもしれないが、いわば「視界ゼロ」の未知の領域に突入したといっていい。


担当者の言葉がそれを物語っている。


「ほんの数十年前は、生まれた時から宗教的な関わりを常に持っていたし、家には、仏壇があったり、お坊さんがきたりするのが普通だった。そんな時代は、死んだ後のことは心配する人はあまりいない時代でした。


しかし、人口の流動化、少子高齢化などによって、昭和の高度経済成長のときに上向いていたものが一気に下向きになったんです。もはや、かつての日本とは見える風景がガラッと変わったといえるでしょう」


実のところ、今の時代は以前と違って人間関係というものが「自然に」成り立たなくなっている。


世話好きおばさんに代表される隣人に関心を持つ地域社会の崩壊はまさにその一つだ。これまで自明だったものがどんどん揺らいでいく中で、実のところ、そのことの重大性に気付かない人が多いこともある。そして、縁なき孤独死者、漂流遺骨は私たちの目に見えぬところで着々と増え続ける。これが、今の社会を取り巻く現状だ。


その一方で皮肉なことに、見守りサービス、監視カメラなど様々な予防策は進化を辿っている。しかし、それでも最後に亡くなった人を見送るのは人である。生前から「助ける・助けられる」といった「つながり」を意識的に作って、もしものときの準備をしておくべきだろう。今日からでも決して遅くはない。


【著者プロフィール】


菅野久美子(かんの・くみこ)


ノンフィクション・ライター。最新刊は、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)などがある。孤独死や特殊清掃の現場にスポットを当てた記事を『日刊SPA!』や『週刊実話ザ・タブー』などで執筆している。



前編「亡くなる直前もラーメン、35年前に姿を消した父の「迷惑な」最期〈孤独死大国・上〉」はこちら。


https://www.bengo4.com/internet/n_6016/


(弁護士ドットコムニュース)