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ちゃんみな、あっこゴリラ、スダンナユズユリー……若手フィメールラッパーの快進撃

2017年05月05日 16:03  リアルサウンド

リアルサウンド

スダンナユズユリー『OH BOY』

 若手フィメールラッパーの快進撃が止まらない。本国アメリカにおいても男性社会だったHIPHOPシーンだが、80年代後半からクィーン・ラティファやMCライトといった女性ラッパーの台頭によってその市場は少しずつ切り開かれた。そして90年代にはローリン・ヒル、リル・キムやフォクシー・ブラウン、イヴなどの活躍が次のシーンを担い、今ではニッキー・ミナージュといった新しい世代のフィメールラッパーが活躍している。ここ日本でもRUMIやCOMA-CHIが2000年代に活躍したことによって手本となる例が生まれ、そして『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』(BSスカパー!)が普及したことによって次々と若いフィメールラッパー達が現在誕生している。そんなフィメールラッパー達を集めた『CINDERELLA MC BATTLE』が開催されたのは記憶に新しいだろう。今もっとも盛り上がっているフィメールラッパーの中から、注目のアーティストを紹介したいと思う。


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■あっこゴリラ


 『CINDERELLA MC BATTLE』で優勝したのがこのあっこゴリラ。白い肌に緑の髪、そのビジュアルに目が引かれるが、小回りの利く鋭利な高速ラップと巧みな言葉遊びが特徴的。MCバトルやクラブイベント出演で名を上げながら発表した1stアルバム『TOKYO BANANA』はヒラサワンダや観音クリエイションがトラックを提供しているほか、自作曲も含まれており、独特のジャングル感を構築して注目を集めた。同じくヒラサワンダとコラボしたコンセプトEP『Back to the jungle』を出し、『CINDERELLA MC BATTLE』の頂点に輝いた後は他のアーティストと次々とコラボ。「夜を使いはたして feat. PUNPEE」で注目を集めたSTUTSと共作した「黄熱病 -YELLOW FEVER- × STUTS」は人気を博した。SIMI LABのOMSBとCharisma.comのいつかをサウンドプロデューサーに迎えた「PETENSHI × ITSUKA (Charisma.com)」ではローリン・ヒルの「Lost Ones」をサンプリングして新境地を開拓。よりHIPHOPサイドに寄ったサウンドで新たなファン層を掴んでいる。


■ちゃんみな


 『高校生RAP選手権』でのReichiとのバトルで一躍有名になったちゃんみな。この春高校を卒業したばかりの彼女が遂にメジャーデビューを果たした。18歳という若さからあどけなさが残る表情に反し、勝気な目をしているのが印象的。練馬のビヨンセを自称し、MCバトルでも「自分はSIMI LABのMARIAより上手い」と虚勢を張って会場を沸かした。その可愛さゆえに同年代の女子からも支持が多い。3月に発売されたアルバム『未成年』もMs.OOJAやHappinessのトラックを手掛けたRyosuke "Dr.R" Sakaiを制作陣に従え、トレンドを抑えながらちゃんみなのキャラクターを活かした曲ばかりを揃えた。特にシングル曲の「FXXKER」はバウンシーなビートの上でちゃんみなのシャウトが炸裂するダンスチューン。芯のある低音ボイスだが躍動感のあるフロウが楽しめる。他にもTeddyLoid「ダイキライ feat. ちゃんみな」はTeddyLoidとDAOKOのコラボで制作された「ダイスキ with TeddyLoid」のアンサーソング。元JKラッパーだったDAOKOのガーリーな声質とほんわかしたフロウの真逆を行くちゃんみなの毒々しさを味わうことができる。


■スダンナユズユリー


 E-girlsからHIPHOPユニットが飛び出した。その名もスダンナユズユリー。E-girlsのボーカリスト・武部柚那とHappinessのYURINO、須田アンナの3人で結成し、この春シングル『OH BOY』で華々しいデビューを飾った。安室の「Stranger」も手掛けたSKY BEATZによるトラックを、ニトロやTOKONA-Xなどでもお馴染みのD.O.Iによってmixされた本格パーティーチューン。リリックは「あなた以外欲しくないの」という女子の赤裸々な思いがメンバーによってしたためられている。曲を彩るのは、武部の華やかで伸びのある歌声。須田の隙あらばえぐろうとする鋭利なラップに対し、ファニーなYURINOのラップが対照的だが、決してボーカルの引き立て役として終わるわけではない。ボーカルもラップもそれぞれ曲の主役として輝く。また、90年代のTLCを彷彿とさせるカラフルなファッション、E-girlsらしさが光るスタイリッシュなダンスも見逃せない。『OH BOY』収録の「First Time」はさらにポップな仕上がりになっているので女の子受けもばっちりだが、「こんにちWhat's up!」はフロア栄えするラップソング。スダンナユズユリーは洋服を着替えるように様々な表情を見せてくれる、稀有なガールズHIPHOPユニットと言えるだろう。


■S7ICK CHICKs


 ISH-ONE率いるTEAM2MVCHが世に送り出した4MC&1シンガーのガールズユニット、S7ICK CHICKs(スリチク)。『CINDERELLA MC BATTLE』での健闘も話題になったFUZIKO、DABOとの共演も果たしたAYA a.k.a.PANDAなどメンバー一人一人がソロもできる実力を持っており、それぞれの声質やフロウの違いを堪能できる。音源をリリースするほか、インターネットラジオWREPの番組『S7ICKROOM』でナビゲーターを務めるなど精力的に活動しており、2ndアルバム『G7OSS』はiTunes ヒップホップ/ラップアルバムランキングで見事1位に輝いた。『G7OSS』はシングル曲「DROP GEM ON YA」というキラーチューンや、マライア・キャリーの「Honey」でもお馴染みのWorld's Famous Supreme Team「Hey DJ」をサンプリングした「GONE GIRL」を収録するなど、男性にも負けないストリート感溢れるアルバム。そして、スリチクは何よりチームワークに長けており、WREPなどでその仲の良さが伺えるのも魅力の一つである。


■もつ酢飯


 MC歴は短いながらもそのビジュアルと実力から『戦極MCBATTLE×池袋パルコ ROOFTOP MC BATTLE』でReichiの相手役に抜擢されたワッショイサンバ。そんなワッショイサンバと「花火と花火師の関係でありたい」とブレイン役を務める無能。その二人組ユニットがもつ酢飯だ。二人とも『CINDERELLA MC BATTLE』では一回戦で敗退したものの、その悔しさをバネにフリーEP『もつ酢飯EP』を発表し、ライブを重ねる。そしてこの春、MC松島主催レーベル<トウキョウトガリネズミ>への所属が発表された。Lil'諭吉プロデュース曲「She's a hero」が注目を集め、術ノ穴YAVと製作したミニアルバム『エモい』がiTunes ヒップホップ/ラップアルバムランキングで1位に輝いたMC松島。そんな彼のレーベルオーナーとしての手腕が問われる。もつ酢飯は新曲MVを近々公開予定、そしてもつ酢飯としてのEPも制作予定とのこと。さらに、<トウキョウトガリネズミ>のコンピレーションEPにも楽曲が収録される予定だ。まだまだ活動歴が浅く、ラップのスキルも伸びしろを感じるもつ酢飯だが、これからの動きに目が離せない。


 この他にもエナジーアルコール飲料SPASAとのコラボ曲を発表したMARIA(SIMI LAB)、『高校生RAP選手権』でも話題になったReichi、SUUMOのCMソングにてスピッツの「空も飛べるはず」をカバーして話題になっている泉まくら、精力的にライブを続ける椿などといった新世代フィメールラッパーたちの台頭が顕著な日本HIPHOPシーン。かわいいだけではなく、かっこよさを兼ね備えた彼女たちの、メッセージとオリジナリティ溢れるラップにぜひ耳を傾けてもらいたい。(鼎)