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スガ シカオ、“新しいことだらけ”で迎える20周年 新曲とマルチな活躍から現在のモードを読む

2017年05月05日 12:03  リアルサウンド

リアルサウンド

スガ シカオ

 デビュー20周年を記念した『スガフェス! ~20年に一度のミラクルフェス~』をさいたまスーパーアリーナで開催するスガ シカオが、その開催日の5月6日に、新曲「雨ノチ晴レ」と「ハッピーストライク」の2曲を同時配信する。


 「雨ノチ晴レ」は、ピアノとストリングスに導かれ、優しいメロディに乗せて〈勇気とは 誰かに誇るものではなく 自分の弱さと戦うための心の武器〉と歌い始める、スケールの大きなバラードだ。続く歌詞にも「希望とは」「夜空とは」「心とは」という言葉が並ぶ。淡々と、しかし力強い情感のこもった彼の歌声は〈なんでもない明日にも 挫折や不安が そっと潜んでいて ほんのちょっとのおまじないで それはウソみたいに光に変わる〉という最後のラインに辿り着く。


 一方「ハッピーストライク」は、直球のファンクナンバー。それも、シンセベースがギラギラと照り光る打ち込みの80sファンクだ。リズムマシンの音も、シンセブラスの音色も、かなり狙って選ばれている。曲調は陽気なパーティーファンクだし、曲のタイトルにも「ハッピー」という言葉が使われているのだけど、歌詞には〈何かが満たされると 不安でぶっ壊したくなる 何かが満たされないと 眠れなくてぶっ壊れる〉という、メンタル的にかなり危ういラインも出てくる。


 つまりこれ、まさにスガ シカオが持っている二つの側面をパッケージしたような曲になっているわけだ。ひとつは「アストライド」や、kōkua名義の「Progress」が象徴するような、聴き手の背中を押し勇気づけるようなバラード。もうひとつは、エグくて毒のあるファンク。それが「雨ノチ晴レ」と「ハッピーストライク」の2曲。まさに20周年を祝う『スガフェス!』のタイミングで放たれるのに相応しい新曲と言っていい。


 が、しかし――。


 いったん整理させてほしい。筆者としては「このタイミングで新曲が届いた」ということだけで、ちょっとした驚きの感情を持っているのである。


 なにせ、ここのところのスガ シカオは『スガフェス!』の準備や仕込みで多忙極まりない日々を過ごしていた。というのも、『スガフェス!』は単に彼と仲の良いバンドやアーティストを集めただけのフェスじゃない。後半にはkōkuaがハウスバンドとなり、SKY-HI、山村隆太(frumpool)&高橋優、水樹奈々、ポルノグラフィティとのスペシャルセッションが行われることが発表されている。もちろんトリはスガ シカオ自身だ。ステージだけでなく、フェスには「スガうた ダンジョン」など参加型企画も用意されている。すなわち、イベント制作にまつわる様々な作業を進めつつ、出演アーティストたちとの打ち合わせやセッションをしつつ、それと並行して曲制作やレコーディングを進めていたということになる。


 もうひとつあった。先日、スガ シカオは今夏にWOWOWプライムにて放送される連続ドラマ『連続ドラマW プラージュ~訳ありばかりのシェアハウス~』に出演することが発表された。主演は星野源。前科者を演じる彼を受け入れるシェアハウスのオーナーを石田ゆり子が演じ、スガ シカオは殺人罪で服役しながらも再審請求を行った男を演じる。俳優には初挑戦だ。つまり、これらの作業と並行してドラマの打ち合わせや撮影の準備に入っていたということになる。


 そして、4月26日には自身の音楽人生を語り下ろしたエッセイ集『愛と幻想のレスポール』が発刊された。筆者はその取材と構成を担当したので、実はここ数カ月の彼の動きは近い場所で見ていた。インタビューは10数時間に及んだ。ときにスタジオのロビーで、ときに映像制作会社の会議室で。分刻みで進むスケジュールの合間を縫って取材は設定された。さらにその合間のほんのちょっとした隙間にSNSをチェックし、自らTwitterを更新していた。


 その『愛と幻想のレスポール』の中にもある話なのだが、筆者がとても印象的だったのが、「3年くらい前から意識的にトレーニングをするようになった」と語っていたこと。ボイトレだけではない。「5日に1度くらい、パーソナルトレーナーを付けてウェイトトレーニングをハードにやっています」と言う。ギターのレッスンにも2週間に一度は行き、英語を学び、演技のワークショップにも通っていたのだと言う。今思えばそれが俳優デビューへの布石だったのだろう。


 ちなみに。「50歳までに自身の集大成となるようなアルバムを作る」と目標を掲げて制作した最新アルバム『THE LAST』がリリースされたのが2016年1月のこと。制作は2015年を通して行われていた。ということは、その頃から次のステップへの準備が始まっていた、ということになる。


 考えてみれば、彼のようなベテランアーティストがアニバーサリー・イヤーを迎えた時には、過去を振り返るタイプの活動が繰り広げられるのがよくある話だ。ベスト盤をリリースしたり、リクエストを元にしたベストセットライブを行ったり。もちろん、それはアーティスト側の意志だけでなく、ファンから求められていることでもある。


 そんな中、彼のような「新しいことだらけ」「挑戦だらけ」の20周年を迎えるアーティストは、とても稀なのではないだろうか。


 5月6日には「20年に一度のミラクルフェス」と銘打った『スガフェス!』が開催される。きっと見たことのない場所になるだろう。楽しみにしている。(文=柴 那典)