2017年05月05日 09:34 弁護士ドットコム
働き方改革の一環で、新しい働き方の1つとして注目されている「フリーランス」。ただし、業務委託の形で業務を企業から請け負う場合は、力関係があるため、フリーランスが弱い立場に置かれるケースも少なくない。
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弁護士ドットコムの法律相談コーナーにも、あるフリーランスのアニメーターが、「業務委託書というのはまったく発行されず口約束のみ」と投稿していた。また、あるフリーランスの翻訳者は、業績悪化を理由に、報酬の大幅な減額(5割減)を告げられ、「公正取引委員会に申告することは可能でしょうか」と相談していた。
フリーランスを守る法律としては下請法があるが、どういう場合に役に立つのだろうか。籔内俊輔弁護士に聞いた。
「下請法は、正式名称は『下請代金支払遅延等防止法』といいます。朝鮮戦争後の昭和30年代の不況時に、下請事業者に対する代金の支払い遅延が多数発生したことから、下請事業者保護のために作られた法律です」
アニメーターなども下請法の対象なのか。
「平成15年の下請法改正で、コンピュータープログラムやアニメーション等の作成を依頼するコンテンツビジネスも、『情報成果物作成委託』という類型で、下請法の対象にされました。
マンガ原稿を含め、コンテンツを作成する個人事業主のフリーランサーは、資本金額1000万円超の事業者との取引に関して、下請法上の『下請事業者』となります」
下請法が適用されると、どういった恩恵があるのか。
「まず、仕事を発注する企業(親事業者)は、下請事業者との取引で、必ず発注書面を出すよう義務付けられています(下請法3条)。『口約束』だけでの発注は違法です。
また、発注側企業(親事業者)の都合で、下請事業者に不利益を与える行為も下請法違反になります。たとえば、発注した成果物を受け取らないという『受領拒否』(下請法4条1項1号)や、納品から60日以内に代金を支払わないという『支払遅延』(4条1項2号)は、下請法で禁じられています。
こうした違反をした親事業者に対しては、公正取引委員会や中小企業庁等から改善が指導されることになります」
一方的な大幅減額の場合はどうなるのか。
「発注をする親事業者側が、発注書に書かれた代金を、発注後に減額する行為は、それが仮に下請事業者の同意を得て行ったものであっても、不当な『減額』として下請法違反となります。
発注後に減額できるのは、下請事業者の責任による瑕疵や納期遅れ等があった場合に限られると公取委は解釈しています。それに違反する減額を行っている場合、親事業者は、減額した部分を下請事業者の返金するように指導を受けることになります。
また、発注をする前の段階で一方的に採算が取れないような安い発注金額を指定して発注したり、発注金額を明確にしないまま作業を進めさせておいて同様に安い発注金額を指定したりすることは『買いたたき』として、こちらも下請法違反になります」
新しい働き方としてのフリーランスが注目されているが、まだ下請法の知識が十分に知られているとは言い難いのではないか。フリーランスが今後大幅に増加した場合、どのようなことが大きな課題になるのか。
「フリーランスは、会社に雇われる従業員とは異なり、仕事の自由度は高いですが、その反面として独立した事業者として様々なリスクを負う面はあると思います。しかし、発注側企業(親事業者)との間では、業務上の取引関係にあるわけですから、取引上の約束を明確化することや、約束を反故にするようなことをしないといった下請法上の規制は最低限守られるべきです。
もっとも、現状では、取引上の力関係として、発注側が強いという状況から、なかなかフリーランサー側から下請法の遵守を求めることは困難かと思われます。例えば、公取委は平成27年7月29日に『テレビ番組制作の取引に関する実態調査報告書』を公表しています。そのなかでも下請法や独禁法上の優越的地位の濫用にあたるような行為が把握されたようですが、受注者としては問題を指摘しづらいとの声があるようです。
フリーランサーの増加や、相互間での問題意識の共有により、社会に対して広く問題を訴えていくことも必要でしょう。
また、公取委等の規制当局に、違反事例の申告を適切に行っていくということも1つの方策だと思います。実際の摘発事例において、不当な減額等について発注側企業(親事業者)が指摘を受けて、多額の下請代金を返還するように指導されるといった事例が公表されれば、発注側にも強いインパクトを与えることにはなるでしょう。
こうした事例がでれば、フリーランサーと取引する発注側企業(親事業者)においても、下請法遵守に本腰をいれざるを得なくなると思われます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
籔内 俊輔(やぶうち・しゅんすけ)弁護士
弁護士2001年神戸大学法学部卒業。02年神戸大学大学院法学政治学研究科前期課程修了。03年弁護士登録。06~09年公正取引委員会事務総局審査局勤務(独禁法違反事件等の審査・審判対応業務を担当)。
事務所名:弁護士法人北浜法律事務所東京事務所
事務所URL:http://www.kitahama.or.jp