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ステージ上には“最新形”のローゼズがいた 熱狂の空間に包まれたThe Stone Roses武道館公演

2017年05月04日 16:02  リアルサウンド

リアルサウンド

The Stone Roses(写真=Mitch Ikeda)

 それはもう、最高の夜だった。武道館を満員にしたオーディエンスの誰もが踊ってて、唄ってて、笑ってる。場所によっては椅子からも通路からもハミ出て、肩を組んだりハグしながら大合唱というお客さんも。そんなハジけっぷりがおかしくてしょうがない……と、かく言う僕自身も、彼らと同じフレーズを口ずさんでるわけだが。とにかく、細かいことなんか誰も気にしていなかった。ステージの上には、間違いなくローゼズの4人。そう。あの夜の開放感というかバカ騒ぎは、とてもローゼズらしかった。


 僕が足を運んだのは、東京・日本武道館での2デイズの初日、4月21日。今回の来日はThe Stone Rosesにとって通算で5度目となるものだった。しかし単独ライブでの来日は、なんと1995年以来。これだけ熱狂的なファンが多数いるバンドなのに、日本でのフルセットのギグは22年ぶりだった。だから待ちわびたオーディエンスの爆発力はものすごかったわけだ。そりゃみんな唄いたいし、騒ぎたいし、飲みたくもなるだろう(終演後、会場の廊下には空になったビール缶を多数目撃した)。


 その肝心のローゼズは、文句のつけようがないほどの熱量を放っていた。高い一体感を終始キープしながら、リズム隊は鉄壁のグルーヴを、ギタリストのジョン・スクワイヤは鮮やかなフレーズやリフを紡ぎだす。そしてイアン・ブラウンは手を挙げながらステージに現れるや「元気デスカ?」とひとこと。この男の歌がうまいとは言えないのは相変わらずだが、その野太い響きとふてぶてしいたたずまいがバンドの起爆剤になっているのは明白。いや、むしろあの武骨なボーカルこそが、ローゼズの音楽に宿る「何でこんなにカッコいいんだ!?」という快感を増幅させてくれる。それに今夜のライブは音程が保たれていたほうだし、何よりもイアンの存在はアウトローでタフなこのバンドの象徴である。昨年のツアー以来バンドの目立った動きが途絶えていたので、果たして万全の状態で来日してくれるのか不安に思うところも若干あったが、まったくの杞憂だった。


 全体で100分強、アンコールなしの構成は、見どころの連続。「I Wanna Be Adored」で始まり「I Am the Ressurection」で終わるセットリストは、彼らのデビュー・アルバム『The Stone Roses』を模しているかのようだ。イアンは序盤からジョンのアンプの裏に隠し置いた棒状のタンバリンを時々持ち出し、唄いながら振り回したあとに、客席に投げ入れる。名曲「Sally Cinnamon」を唄い終えた時には、右肩を押さえながら「肩ガ痛イ」と言ってファンをどよめかせた。この来日に至るまでに何かあったのかと思わせたが、結果的に不調そうな気配はまるでなかった。“悪い奴”について言及した曲「Bye Bye Badman」の演奏前にイアンは「次の曲は、すべての場所のすべての政治家に捧げるぜ」と語った。中盤では日本国旗を掲げ、集まったファンに対しての感謝の意を示すような場面も。ついでに、日本向けにピコ太郎のマネをした? という話がTwitter上で飛び交ったほどの、謎の動きもあった(笑)。


 セットの後半でヤマ場となるのは、何といっても10分を超える「Fools Gold」の超絶グルーヴと、ラスト・ナンバー「I Am the Ressurection」の怒涛のビート攻撃だ。1989年にリリースされた先述のデビュー・アルバムは音楽ファンに衝撃を与えた……と言いたいところだが、現実には当時このバンドの革新性に気づいていたのはごく一部。むしろあの傑作に漂うサイケでファジーな質感は、少なくとも世界規模でのリアクションという点では、年を追いながら徐々に浸透していく感じだったのを記憶している。「Fools Gold」はそんな状況下に投下されたシングルで、「このバンドはやはりとんでもなかった!」という事実を突き付けた曲だった。今回、とくにドラムスのレニの超人ぶりが目いっぱい発揮されるこの曲のファンクネスの陶酔感は、メンバーがアラフィフになった現在でも破格の魔力を誇っていた。そして「I Am the Ressurection」が招く快感と混沌! この4人がガッシリと組み合ったサウンドは、本当に無敵だ。


 そしてもうひとつ特記しておきたいのは、サウンドにみなぎるソリッドでハードな質感についてである。それはジョンのギターに負うところが大きいわけだが、こうした傾向は2作目『Second Coming』に色濃く出ているハードロック的な要素……つまりはLed Zeppelinを参照したブルージーでハードなサウンドを思い起こさせる。この硬質な音の感覚は当然あのアルバム収録の「Begging You」や「Love Spreads」のプレイで顕著になるわけだが、決してそれだけでなく、バンドの出音のそこかしこにも表出していた。このことは、その前回の武道館を体験している自分としては感慨深かった。なぜならファーストの鮮烈さに対し、セカンドでハードロック志向を見せたローゼズにはどうしても違和感を覚えてしまい、それは22年前のライブの場でもそうだったからだ。もっともあの時すでにレニは脱退していて、バンド自体もその翌年限りで活動を停止してしまったわけだが。


 これは余談だが、そうしてローゼズが1996年に休止し、解散してしまったあと、何年も経ってから日本の音楽シーンにASIAN KUNG-FU GENERATIONが現れた際、彼らのライブのオープニングSEでこの『Second Coming』からの「Driving South」が使われているのを聴いた時には、うれしいような、困ったような気持ちになったものだ。そうか、君たちもローゼズ好きなんだ? でも、うーん、俺はもっと他に好きな曲があってさ……。今になってみれば、そんなふうに思ったのも素敵な思い出だ。ちなみに彼らは数年前に「ローリングストーン」という曲でもThe Stone Rosesのことを歌詞に織り込んでいる。こんなふうに時間が経過してもリスペクトを示し続けるアジカンの姿勢は、今では一点の曇りもなく、うれしく感じる。


 話を戻そう。そんなふうに現在のローゼズは、まるで息を吸うかのようにさまざまな時代のロック・ミュージックを体得して、ここにいる。The Byrdsのような繊細なフォーク・ロックも、Simon & Garfunkelのような美しい歌メロも、Sex Pistolsのような激しいパンク・サウンドも、だ。そう、ツェッペリンも、ジェームス・ブラウンも……。彼らは最初からそうしたものを内包した才能の集まりだったが、再結成した今、その豊かな音はよりいっそう濃いものとなり、自分たちの音を輝かせていると感じた。


 そして今回の来日では、そんな彼らの最新形を生で聴くことができた。昨年リリースされた新曲「All fou One」。結束や連帯を呼びかけるこの曲は、ローゼズの魅力を集約したかのようなフレーズとタフなサウンドを持つナンバーだ。まさに肩を組み合って大声で叫ぶのには最高の歌で、それだけに今夜のオーディエンスにもまったくナチュラルに受け入れられ、これまたあっちでこっちでの大合唱を呼んでいた。


 ライブは翌日の二日目も大盛況だったようで、ひさびさとなった日本でのローゼズの単独公演は大成功だったと言えるはずだ。ただ、ライブから1週間が経とうとしている今この原稿を書いていて、あの熱狂の空間から時間を置いてみると、いろいろと気になるところはある。3rdアルバムは果たしていつ出るのか? ということだ。


 去年は、先ほど書いた「All for One」のほかにもう1曲、「Beautiful Thing」という曲がリリースされている。こちらはグルーヴが主体のクールな楽曲で、言わば「Fools Gold」のアップデート版といった趣。これもライブで聴きたいところだったが、今回のセットリストには入っていなかった。


 この新曲2曲は昨年春に録音されたものだと思われる。プロデューサーはポール・エプワース。今やColdplayやアデル、ポール・マッカートニーまでを手掛ける、超売れっ子だ。彼らはここで、たとえばジョン・レッキーを指名して、過去の再現をするようなマネはしなかったのである。


 それだけにこの2曲ではローゼズ本来の魅力を活かすことに重点が置かれながら、サウンドの感触はきっちりコンテンポラリーなものに仕上げてある。その成果もあってか、2曲とも本国UKではチャートの上位にランクイン。次はいよいよ1995年の『Second Coming』以来となるアルバムが出るのか? と思いながら、すでに1年近くが経とうとしているのが現状だ。


 ここで、ちょっと唐突だが、ざっくりとおさらいをしよう。


 バンドの解散劇が1996年のこと。それまでに離れ離れだった彼らだが、マニの母親の葬儀でイアンとジョンが再会したのが2011年の夏のこと。再結成は急転直下でその年のうちに決まり、翌2012年から世界ツアーが始まったのだ。そして日本には同年の『FUJI ROCK FESTIVAL ‘12』、さらに翌2013年の『SONICMANIA 2013』と『SUMMER SONIC 2013』で来日。この年にはドキュメンタリー映画『ザ・ストーン・ローゼズ:メイド・オブ・ストーン』も公開されているが、バンドの活動自体はここでひと区切りとなる。


 そこから数年のインターバルを置いて去年再び動きはじめ、新曲リリースとライブがあった(ここで武道館公演も決まっていたが、レニの負傷によって中止になっている)。そして今年の来日があり、この後の6月からはウェンブリー・アリーナをはじめとしたUKでの大きな公演が予定されている。ということは、彼らはその合間に? あるいは一連のライブが終わってから? またスタジオに入るのだろうか……。


 ただ、こうした気持ちの一方で、心のどこかでは、3枚目のアルバムの完成をそこまで「早く!」と期待することはないかな、という思いもある。もちろん、聴きたいのはやまやまだ。だけど彼らは一度終わったバンドなのである。若い頃の、あの時代のローゼズでは、もはやない。


 そんなふうに思うのは、映画『メイド・オブ・ストーン』を観た時に、昔からのローゼズのファンの姿を見て感じることがあまりに多かったのもある。みんな、いい歳なのだ。たまたまこのトレイラーに、アルバムを週1回は聴いているというファンのインタビューがあるので、見てみてほしい。


 この映画には他にもたくさんのファンが出てきて、中には学校の副校長をしているという男性もいた。これがもう5年前のことなので、今頃彼は校長先生になっているかもしれない(笑)。


 それだけこのバンドは歳も重ねているのだ。もちろん演奏は冴えてはいるのだが、今回のライブを観ていて、イアンの白髪とお腹の出具合がちょっと気になったが、客席を見ていると、こちらも言えた義理ではないな、と思った。


 また、先ほどセットリストのことを触れたが、実は彼らのギグは大枠の流れがずっと変わっていない。今回の曲順も、去年のマンチェスターでのライブと同じである。だから僕は今回のライブで「Beautiful Thing」が披露されないことは予想していた。


 もちろん新作アルバムは待望する。時代も変わってきていて、生前のプリンスが「アルバムって覚えてる?」と言ったことまでが脳裏を巡るが、それだけじゃなくて。何よりも、The Stone Rosesが、あの4人がこうして今もライブをやり、観衆を沸かせているという事実が一番大切だと感じるからである。


 何しろローゼズはずっとトラブル続きだったバンドだ。かつては契約や移籍の問題がつねにあったし、騒動やケンカだって絶えなかった。90年代にはそんなニュースをしょっちゅう聞いていたもので……もっとも当時はインターネットが普及する前なので、あくまで雑誌で情報を確認していた時代だったわけだが。だから去年の来日中止も、不謹慎ながら、心のどこかで「ああ、ローゼズらしいな」と思ったりしたものだ。


 だからアルバムなんて、ほんとに気の遠くなるような話である。それだけに今回のようにライブがしっかりと実現されたのは、最上の喜びなのだ。


 人生は、一寸先はわからない。それは音楽もしかりで、ここからのローゼズがどうなるのかも、わからない。ただ、当面はポジティブな方向に行くであろうことは期待できる。


 そしてもう一度、彼らの音に接する瞬間があるとしたら……そこでまたあの屈強でしなかやなグルーヴが轟いていることを心から願う。今はあらためて、あの4人がまた日本に来てくれて、素晴らしいライブを見せてくれたことに感謝したいと思う。(文=青木優)