「ビックリしてる。嬉しい誤算」
予選後、GT300クラスのポールポジションを獲得したグッドスマイル 初音ミク AMGの谷口信輝と片岡龍也、さらにチームスタッフまでもが口を揃えたのがこのセリフだ。開幕戦のウイナーだったグッドスマイル 初音ミク AMGは、このラウンドに40kgのハンデウエイトを積む。
さらに、公式練習の走り出しではセクター3を中心にバランスが悪く、「アドバンコーナーでスピンするんじゃないか」というほどだったという。
チームは富士ということもあり、ダウンフォースを減らしたセットで予選日に臨んでいたが、その後ダウンフォースをつける方向にセットを変更。これが功を奏し、ポールポジション獲得に繋がったかたちだ。午前の状況が悪かっただけに、先述の「ビックリ」というセリフが出てきたのだろう。さらに、タイヤは長丁場のレースを見据えたかなり“硬め”のものだというから、その言葉もうなずける。
では、ライバルたちはどうだろうか。上位陣のさまざまなチームに取材を重ねたが、結局どのチームもセットアップはレースを見据えたもので、予選で前に行くことを想定していたチームはひとつもなかった。当然と言えば当然なのだが、ますますレースが読みづらい。
また、車種とスーパーGTならではと言えるタイヤの銘柄の組み合わせによって、予選順位が分かれたのも間違いなさそう。予選日の富士は各メーカーの想定よりも路面温度が低めで、この温度なかで“当たった”チームと“外れた”チームがあったという。
■大事なのは「タイヤのパフォーマンスを引き出すこと」
ただ予選順位について、あるタイヤメーカーの担当者は「タイヤの実力ももちろんありますが、大事なのはそのタイヤが持っているパフォーマンスを、いかに引き出すことができたか」だと教えてくれた。それはチームが施したセットアップでもあり、ドライバーの力でもある。谷口、片岡というふたり、そしてセットアップ変更を施したグッドスマイル 初音ミク AMGの河野高男エンジニアの力もあるだろう。
「午前は苦戦が予想されていたけど、午後に向けて河野さんに言いたいことを言った結果、フィーリングが改善されていた」と片岡は言う。
この「パフォーマンスをいかに引き出すことができたか」については、今回予選2番手につけたGULF NAC PORSCHE 911の峰尾恭輔が興味深いことを明かした。
「今シーズンに向けて、開幕前のテストでやってきたことは『タイヤにクルマを合わせること』なんです。乗った段階で乗りやすかったですが、もっとタイヤのパフォーマンスを引き出すにはこうした方がいい、といじらせてもらったんです」と峰尾。
「ずっとヨコハマでやってきましたし、自分の強みだと思っていたんです。これでタイムが出なかったらヤバいかな、とは思っていて、開幕戦の公式練習までは危機感がありました。でも、その後は決勝も含めて速いので、間違いないと思っています」
「特にポルシェについては、リヤタイヤのパフォーマンスが上がっています」
この峰尾のコメントを聞いてから、リザルトを見比べてみると、タイヤメーカー、そして車種が入り乱れている予選順位にも納得がいく。加えて、公式練習から予選まで、上位は驚くほどの僅差だ。ほんのわずかな気温のズレや、コンディションの変化によって、当たり外れに明暗が出て、タイヤのパフォーマンスを引き出し切れたか、切れなかったかが分かってくる。
ちなみに、峰尾と同じポルシェ勢では、タイム抹消となってしまったものの、D’station Porscheが速さをみせた。特に四輪脱輪のペナルティを受けてしまったスヴェン・ミューラーは、なんと今回が初めての富士の走行、スーパーGTのアタックだ。四輪脱輪というのはある意味日本独特で、そのペナルティを防ぎきれなかったのは痛いが、D’station PorscheもGULF NAC PORSCHE 911と同様のパフォーマンスをもっているのは間違いないだろう。
■レースはまた違った展開に?
迎える決勝は、これまでのコメント同様、「タイヤのパフォーマンスを出し切った」ところが上位に来るのは予想ができる。ただ、500kmというレース距離に加えて、2回のピットイン義務づけがあることが予想を難しくする。
特にGT300の場合は、車種によって給油にかかる時間が異なるのがポイントだ。ブランパンGTシリーズ等では、それを避けるためにピットレーン滞在時間を一定にしている。ここで優位になるのはやはりJAF-GT勢か。GT3のなかでも給油が早い車種、燃費がいい車種もあり、気付いたら順位が大きく変わっていることもある。「片岡にマージンを20分くらい作ってもらわないと(笑)」という谷口のコメントは誇張だが、ポールからスタートするグッドスマイル 初音ミク AMGは、ハードめのタイヤで高いアベレージを築きつつ、なるべくピットイン時に失うタイムを稼いでいく作戦だ。
また、500kmというレース距離では、セーフティカーが出たりという可能性もあり、それがまだレースを左右するかもしれない。いずれにしろ、タイムも僅差であるGT300のレースは、まったく読めない。