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LA市庁舎で大規模イベント開催! 『ラ・ラ・ランド』に見る、映画と政治の関係

2017年05月04日 10:03  リアルサウンド

リアルサウンド

LA市庁舎での“『ラ・ラ・ランド』デー”の様子

 「本日4月25日を『ラ・ラ・ランド』デーと制定します!」。早朝のロサンゼルス・ダウンタウンの市庁舎前広場でそう宣言したのは、先日第二期目の再選を果たしたエリック・ガルセッティ市長46歳。この若き政治家が『ラ・ラ・ランド』に多いに思い入れているのは、昨年のプレミアの時点から明らかだった。ロサンゼルス周辺数十カ所でロケを行った『ラ・ラ・ランド』を、「これ以上の観光案内はないね!」と大絶賛、市内交通の要所であるフリーウェイを2日間にわたって封鎖し撮影したオープニング・シーンに大満足の様子だった。そして、4月25日のアメリカにおけるDVD/ブルーレイ発売日を“『ラ・ラ・ランド』デー”とし、市庁舎前で大規模なイベントを行った。


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 『ラ・ラ・ランド』は、女優を目指すミア(エマ・ストーン)とジャズ・ミュージシャンのセブ(ライアン・ゴズリング)が“スターの街”ロサンゼルスで夢を追う姿を描き、今年のアカデミー賞6部門を受賞した。アカデミー賞の前哨戦ゴールデングローブ賞では史上最多7部門を受賞し、オスカー最有力と言われていたにもかかわらず、大トリの作品賞で世紀の大どんでん返しが起きたのは記憶に新しい。批評家やメディアによる過大な高評価の裏に、バックラッシュ(揺り戻し)が起きていたのは間違いない。インド系コメディアンのアジズ・アンサリがホストしたサタデー・ナイト・ライブで放送された、「『ラ・ラ・ランド』を評価しない男を尋問する警察官」というコントが全てを物語っている。


 そのバックラッシュは、今現在も続いている。「白人が衰退するジャズを憂うな」「『理由なき反抗』を観ていない女優志望?」などといった内容に関することから、今回の『ラ・ラ・ランド・デー』に関しては、「DVD/ブルーレイ発売を行政とタイアップするなんて、魂を売ったも同然」という論調になっている。そもそも映画はビジネスと芸術の両側面が微妙なバランスで成り立っている文化であり、どのどちらかに傾くとバッシングを受ける(もしくは興行的失敗)ことになるのは仕方ないのだが、“『ラ・ラ・ランド』の悲劇”に関しては、批評家からのあまりの高評価にハリウッド界隈が過剰に反応した結果だったのだろう。世論がそうなってしまった今、ガルセッティ市長のはしゃぎぶりがさらなるバックラッシュにつながってもおかしくない。現に、『ラ・ラ・ランド』デーの1週間前に流れた、『ムーンライト』の舞台であるマイアミの公道が「ムーンライト・ウェイ」と名付けられたというニュースにネガティブな反応を示す人はほとんどいなかった。


 そんな世知辛い空気のなか、式典はどうだったのか。出勤前の人々や物見客らおよそ300人が集まるなか、ガルセッティ市長、アカデミー賞監督賞を最年少で受賞したデイミアン・チャゼル監督、プロデューサーのジョーダン・ホロウィッツ、作曲賞を受賞したジャスティン・ハーウィッツ、振り付け師のマンディ・ムーアらが式典を行った。約30分間の式典のメイン・イベントは市庁舎の上からつる下げられた空中舞踊専門のダンス集団The Bandaloopによる空中ダンス。映画のサウンドトラックにのせて、華麗に空中を舞った。


 その後、楽曲賞受賞曲「City Of Stars」の演奏にガルセッティ市長がピアノで参加し、市長の“『ラ・ラ・ランド』好き”がオフィシャルになったところでイベントは終了した。ちなみに、ガルセッティ市長は日本の玉川大学高校に短期留学をしていた親日家。彼の日本好きは、元ロサンゼルス検察局長で現在は写真家としても活躍する父親ギル・ガルセッティの影響なのだそうだ。検察局長時代にはO.J.シンプソンの裁判を担当し、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞の『O.J.: Made In America』において、事件以来初めて公の場で語ったことも話題となった。そもそも、このドキュメンタリーの監督は息子エリックの友人で、息子が出演交渉に一役買っていたとみられる。2月末に行われたアカデミー賞は、映画の都ロサンゼルスが世界中の注目を集める場。今年の3月に二期目のロサンゼルス市長選を控えたエリック・ガルセッティ氏が、『ラ・ラ・ランド』が見せるロサンゼルスの楽しく美しいイメージや、世界的に有名な父親の偉業を自身の売名に使ったとしてもおかしくない。だがそれだって、選挙を控えた政治家ならどんなロビー活動だって票の足しにするはずだ。


 では、『ラ・ラ・ランド』のバックラッシュとはなんだったのか。昨年の夏に海外映画祭でお披露目し、12月の公開までは順調満帆に評価を上げ、1月のゴールデングローブ賞7部門受賞、アカデミー賞最多14ノミネートで最高潮を迎えた。以降は、評価は上げ止まり、その瞬間にアカデミー賞の投票が行われた。「自分が入れなくても、他の人が『ラ・ラ・ランド』に投票するだろう」ーーーそんな風潮が風向きを変えてしまったのだ。同じことは、昨年世界を震撼させたBREXITやトランプ大統領の誕生にも現れている。ひょっとすると、今週末のフランス大統領選だって、二度あることは三度ある(アカデミー賞を入れると4度目)かもしれないーー。(小川詩子)