トップへ

トレンドは業界モノとファンタジー!? ライトノベル原作アニメの最先端に迫る!

2017年05月03日 18:54  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

(C)2016 伏見つかさ/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/EMP
今年もライトノベル原作のアニメが花ざかりである。
学園、SF、ファンタジー、戦記、ラブコメ、シリアスとバラエティに富んでいて、豊作と言える状況が続いている。もともとライトノベルはアニメと親和性が高い。文字情報なので自由に映像にしやすく、ユーザーの嗜好もかぶる部分が多いメリットがあるからだ。今回は2017年春クールに放映されているライトノベル原作のアニメをいくつか紹介しながら、最近の傾向を探っていくことにする。

■今期話題のラブコメ2作品、どっちも業界モノ!?

『エロマンガ先生』
ライトノベルの最大手・電撃文庫から刊行されているコメディ作品。商業ライトノベル作家の高校生・和泉正宗は、引きこもりの妹・和泉紗霧が、自分の作品のイラストレーターであることを偶然知る。一年ぶりの再会から、徐々に心を開いていく紗霧とのホームドラマが繰り広げられていく。※ちなみにタイトルの「エロマンガ先生」は、紗霧のペンネームのこと。
ライバルの山田エルフや千寿ムラマサたちラノベ作家とのドタバタなラブコメを描く側面もあり、いろんな切り口から楽しめるのが魅力だ。

原作は『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の伏見つかさ、挿絵担当がかんざきひろ。一世を風靡した『俺の妹』のアニメに続いて『エロマンガ先生』でも、かんざきひろ=織田広之がキャラクターデザイン・監修を担当している。そのため原作の絵柄の再現度については文句なし。一年ぶりに部屋の扉を開けて兄と再会した紗霧が、怒ったり恥ずかしがったり、笑顔を見せたり表情をくるくる変えて、キュートな可愛らしさを全面に押し出している。

『冴えない彼女の育て方♭』
原作はライトノベルの老舗レーベル・富士見ファンタジア文庫から刊行。オタクの高校生・安芸倫也は、桜の舞う季節に坂道で出会ったクラスメイト・加藤恵をヒロインにしたギャルゲー制作を決意する。美術部のエースにして隠れオタクの同人作家である澤村・スペンサー・英梨々。学年一位の才媛にして、シリーズ累計50万部を突破したライトノベル作家の霞ヶ丘詩羽。ボーカリスト兼ギタリストの非オタクな氷堂美智留。我の強いメンバーたちを時にはなだめ、時にはケンカしながらも、ギャルゲー制作に邁進する。

作者は丸戸史明。『この青空に約束を―』『WHITE ALBUM2』など有名美少女ゲームのシナリオライターによる、ライトノベルデビュー作である。ゲームを通じてプレイヤーにヒロインを惚れさせるのが美少女ゲームの定め。物語よりもキャラクターを立たせるライトノベルとも、やはり相性がいい。

(次ページ:ライトノベル業界が成熟した証としての「業界モノ」)

■ライトノベル業界が成熟した証としての「業界モノ」

『エロマンガ先生』の和泉正宗は、ライトノベルの主人公がライトノベル作家というメタ構造を備えている。
『冴えない彼女の育て方♭』の霞ヶ丘詩羽もまた、現役高校生にしてライトノベル作家に就いている。両作品に共通するのは、「ライトノベル業界モノ」という側面である。

去年のアニメでも『ガーリッシュナンバー』が、ヒロインの声優から見たアニメ業界やライトノベル業界を赤裸々に描いて見せた。原作者は渡航、大ヒットライトノベル『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の作者である。

なぜ、「業界モノ」ラノベアニメが増えたのか。
まずラノベ作家が自身の体験を盛りこむことで生まれるディティール描写が、物語にリアリティを与えることができる。霞ヶ丘詩羽がときどき口にするコンテンツ業界への愚痴は、作者の心情かと疑ってしまうほど生々しい。ファンとしても、興味を持っている業界の楽屋裏が見られることの喜びもある。作り手と受け手の双方に望まれるべくして望まれている。
また、ライトノベル業界が成熟期に入っている証左なのかもしれない。セルフパロディが通用するのも、歴史の積み重ねがあってこそだからだ。『エロマンガ先生』第一話では、紗霧が正宗を罵倒するこんな一幕があった。

「兄さんのバカ! にぶちん! ラノベ主人公!」

ハーレム系ライトノベルの主人公は、ヒロインから自分に向けられた好意的な発言だけ、「え?なんだって?」と聞こえなくなるのが様式美。つまり「鈍感」を言い換えた罵倒語になっている。このような「お約束」の通じるお客さんが増えたからこそ、業界モノは成立する。

■今期のファンタジー系ラノベアニメも豊作

次にライトノベルの一大ジャンルであるファンタジー作品も取り上げたい。

『ソード・オラトリア』
近年勢いを増しているSBクリエイティブ GA文庫から刊行、大森藤ノ著。『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』の主人公・ベルが片想いをしている【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインと、その仲間たちの物語。下界に降りた神と人間の共存する独自の世界観。レベルやアビリティ、スキルなどロールプレイングゲームのデザインを取り入れた設定。漫画家・ヤスダスズヒトによるキャッチーなキャラクターデザインは、ヘスティアの“例の紐”がネットでも有名になったほどだ。

『ゼロから始める魔法の書』
電撃文庫からのアニメ化、作者は虎走かける。獣堕ちと呼ばれる半人半獣の傭兵が、ゼロと名乗る魔女と出会って、護衛を任される。その報酬は「人間の姿に戻す」こと。かくして、悪用すれば世界をも滅ぼしかねない危険な魔法書を巡る冒険の旅が始まる。
獣の傭兵が追っ手を振り切る戦闘シーンの殺陣や、巨大イノシシを絡め取るゼロの魔法など、第一話から重厚なファンタジーを期待させる描写が目白押しだ。

(次ページ:Web小説によって底上げされたラノベアニメの面白さ)

■Web小説によって底上げされたラノベアニメの面白さ

「ライトノベル」という言葉は1990年代はじめ、パソコン通信のNIFTY-Serve「SFファンタジーフォーラム」会議室から生まれた(読売新聞『ライトノベル進化論』より)。この頃は、『ロードス島戦記』(第一巻刊行 1988年)『スレイヤーズ』(第一巻刊行 1990年)に代表される剣と魔法の冒険譚が花形だった。その後『灼眼のシャナ』『涼宮ハルヒの憂鬱』など現代の学園を舞台にした人気シリーズが多く登場した頃に、ファンタジーラノベはいったん数を減らす。その中でもファンタジーラノベの金字塔と言われる『ゼロの使い魔』が2004年に誕生。2010年代にはふたたび増加して、現在に至るまで一大ムーブメントを起こしている。

その背景には、小説家になろう、ArcadiaといったWeb小説投稿サイトの存在が大きい。これらは無料で閲覧でき、誰もが作品を公開できる。そこで人気の出た作品は書籍で出版されて、ヒットすればアニメ化される。こうして生まれたラノベアニメは、ここ一年を振り返っただけでも『この素晴らしい世界に祝福を!』『Re:ゼロから始める異世界生活』など、ファンから絶賛されている人気作ばかりだ。『ソード・オラトリア』も、原点となった『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』はArcadiaの投稿作品である。Web小説投稿サイトはアニメ業界に今も大きな影響を与えているのだ。

Web小説投稿サイトからの書籍化が好調のため、刊行される作品点数も増えている。いちど読者の支持を獲得した作品は、Webでも書籍でも根強く人気を保ち続けているものがほとんどだ。もともと魅力的な作品がアニメという新たな媒体で表現されることにより、更に多くのファンを獲得していく事例は多い。前述した作品のほかに、

・思春期の感情の揺れをきめ細かに描く異能力ドラマ『サクラダリセット』
・時計仕掛けの地球に暮らす少年が自動人形の少女と出会い、運命に巻き込まれていくSFファンタジー『クロックワーク・プラネット』
・2000年代に一世を風靡したセカイ系の流れをくむ『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』
・ファンタジー世界の『GTO』!? 型破りな教師が主人公の学園ファンタジー『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』

が今期アニメ化されている。それぞれに個性を発揮しているラノベアニメ、いずれも見逃せない魅力に満ちている。

[かーずSP( @karzusp )]
個人ニュースサイト・かーずSP管理人。得意ジャンルは萌え系であればアニメ、ライトノベル、ゲーム、漫画のいずれも嗜む雑食系オタク。

『エロマンガ先生』
(C)2016 伏見つかさ/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/EMP