バルテリ・ボッタスの初優勝は、スタートで決まったという見方がある。しかし、実はフェラーリ陣営はできうる限りの対抗策を採り、それを全て跳ねのけてボッタスが自らの力で勝利を掴み取ったというのが真実だ。
第1スティントの序盤からボッタスはハイペースでベッテル以下を引き離していった。ボッタスはタイヤの温まりが良く、逆にフェラーリは前後の温まりのズレによるマシンバランス悪化に苦しんだ。
ベッテル(以下、VET)「ボッタスと較べてどこが遅い?」
フェラーリ(以下、FER)「セクター1だ」
ベッテルが必死にボッタス追撃を試みる一方で、ボッタス陣営は冷静にベッテルとのギャップを伝え続けていた。
メルセデス(以下、MGP)「良い仕事をしているよ。さっきのラップはVETより0.1秒速かった、Good job」(17周目)
MGP「Good job、さっきのラップはVETより0.5秒速かったよ」(19周目)
ボッタスは20周目を過ぎたあたりからリヤタイヤのグリップ低下を訴えていたというが、メルセデスAMGはフェリペ・マッサの後ろに戻って新品タイヤの最初の一撃をトラフィックで台無しにしないよう、ステイアウトをさせていた。25周目、ボッタスの前に周回遅れのダニール・クビアトとケビン・マグヌッセンが見えてきた。
ボッタス(以下、BOT)「彼らのせいでタイムを失っている!」
これを見たベッテル陣営は、ピットストップが近いことを見て取ってプッシュを指示した。
FER「PUSH NOW、落ち着いていけ。このレースのとても重要な局面だ」
しかし、ボッタスが27周目に先にピットインしてしまい、アンダーカットのチャンスはなくなった。となれば、引っ張ってレース終盤にフレッシュなタイヤで攻勢を仕掛けるしかない。
FER「ステイアウト。ペースはとても良いぞ」
32周目には一度ピットインをしようとしたものの、ボッタスが再びマグヌッセンら周回遅れのクルマに引っかかりつつあるのを見て咄嗟にピットインを見送った。もしボッタスが大きくタイムロスするようなことがあれば、逆転のチャンスもでてくるからだ。
FER「BOX、BOX。いや、ステイアウト、ステイアウト」
MGP「クリティカルな局面だ。クビアトをできるだけ早くパスする必要がある」
しかし、ボッタスがそれほど大きなロスを喫しなかったのを見て、33周目、フェラーリ陣営はピットインに踏み切った。
FER「BOX NOW。コンファームだ」
第2スティントのスーパーソフトは、メルセデスAMGのペースは振るわずフェラーリが優勢。ボッタスは38周目のターン13でフロントをロックアップさせてフラットスポットを作ってしまう。そのことはすぐにベッテルに報告された。
FER「BOTはターン13でワイドになって左フロントに大きなフラットスポットを作ったぞ」
ボッタスは「無線の交信を減らして欲しい」とレースエンジニアのトニー・ロスに伝える。ドライビングにより深く集中したかったからだ。
「ここはちょっと特殊なサーキットで、リズムに乗って走ることが速くコンシステントに走る重要なキーポイントなんだ。でも周回遅れのせいで一度リズムを失ってしまうと速さを失い、そのリズムを取り戻すのに数週かかってしまう。無線でああやって頼んだのは、自分の仕事に集中して一つ一つのコーナーを完璧に走るよう心がけたかったからなんだ。そうやって周回遅れで失うタイムを最小限に抑えたかったんだ」
42周目にはパワーユニットの性能をさらに引き出しペースアップするための方策がロスから許可された。
MGP「2本のストレートで早めにオーバーテイクボタンを押せ」
一方、ベッテルは終盤に向けてコンマ数秒ずつジワジワとギャップを縮めてくる。
FER「第2セクターはとても良い。プッシュし続けて彼にプレッシャーを掛けろ。ミスをするかもしれないぞ。さっきのラップは0.4秒遅かった」
50周目、ボッタスの前にエステバン・オコンを先頭とした7位争いの周回遅れ3台が見えてくる。これがベッテルにとっては最後のチャンス、ボッタスにとっては最後のピンチになることは明らかだった。
FER「残り2周、前にトラフィックがいるぞ」
ボッタスとベッテルのギャップはついに1秒を切り、ベッテルはDRS圏内に入ってくる。しかし最終ラップ、ボッタスがターン2手前でフェリペ・マッサを処理したのに対し、ベッテルはターン3でマッサの後方に抑えられてしまい、勝負はあった。
MGP「イエ~~~~~! ブリリアント! よくやった!」
BOT「ハハハ、XXX! ハァ、80戦もかかったよ。すごかっただろ? ファクトリーのみんなもありがとう。みんなの力がなければ成し遂げられなかったよ」
こうしてボッタスはキャリア81戦目にして初優勝を掴み取った。外からは地味なレースに見えたかもしれないが、それは数々のピンチを自力で乗り越えた末の勝利であり、決してスタートで決まったような簡単な勝利ではなかった。