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でんぱ組.incの“夢の続き”が見たくなるーー映像作品『幕神アリーナツアー2017』レビュー

2017年05月01日 21:13  リアルサウンド

リアルサウンド

でんぱ組.inc

 でんぱ組.incは、現在はメンバーがソロでライブをすることはあるものの、「でんぱ組.inc」としてはライブ活動をしていない。彼女たちのグループとしてのライブ活動の復活を待望してしまうことになるのが、DVD&Blu-ray『幕神アリーナツアー2017 電波良好Wi-Fi 完備!& in 日本武道館 ~またまたここから夢がはじまるよっ!~』だ。


 これは、追加公演である日本武道館を含めて全6公演が行われた『でんぱ組.inc 幕神アリーナツアー2017』の模様を収録したライブDVD&Blu-ray。2017年1月9日の幕張メッセイベントホールでの公演が『幕神アリーナツアー2017 電波良好Wi-Fi 完備!』、1月20日の日本武道館での公演が『幕神アリーナツアー2017 in 日本武道館 ~またまたここから夢がはじまるよっ!~』に収録されている。


 『でんぱ組.inc 幕神アリーナツアー2017』は、1月6日、8日、9日に幕張メッセイベントホール、1月14日、15日に神戸ワールド記念ホールで公演が行われ、さらに1月20日に日本武道館で追加公演が行われた。このうち私は、1月6日の幕張メッセイベントホールと1月20日の日本武道館の2公演を見ることができた。しかし、映像として改めて見ると、さまざまに新たな発見がある。幕張メッセイベントホールも日本武道館も、とにかく情報量の多いライブだったのだ。


 『幕神アリーナツアー2017 電波良好Wi-Fi 完備!』は、幕張メッセイベントホールでの最終日を収録。幕張メッセイベントホールでの公演は、中盤の「まもなく、でんぱ組.incが離陸致します♡」からメンバーがトロッコに乗り会場内を走り回るなど、演出とそれに伴う物量に圧倒されたものだ。


 今回の『でんぱ組.inc 幕神アリーナツアー2017』では、Dem Dem Big Bandが帯同して生演奏を行った。ギター、ベース、キーボード、トランペット、トロンボーン、ビオラ、チェロがそれぞれ1人、ドラム、サックス、バイオリンがそれぞれ2人クレジットされた13人編成のバンドである。アイドルのライブにおいて、生演奏が必ずしも良い結果を残すとは限らないが、管弦楽器まで揃えた大編成のDem Dem Big Bandによるサウンドは、アレンジも非常に凝られていた。そして、でんぱ組.incというグループの持つエレクトリックなイメージが薄い点も新鮮だった。


 序盤の「でんでんぱっしょん」では、メンバーが新体操のようにリボンを使うなか、彼女たちの前に降ろされた薄いスクリーンに映像も投影される。2次元と3次元が交錯したイリュージョンのようだ。「NEO JAPONISM」では、Dem Dem Big Bandの演奏が突然ファンク化する部分も現れる。


 ディアステージで働くディアガールズがダンサーとして参加した「Dear☆Stageへようこそ♡」はミュージカルのような楽曲だが、管弦楽器も擁するDem Dem Big Bandはそうしたサウンドにも見事に対応している。「あした地球がこなごなになっても」での弦楽器による伴奏も美しい。


 「Ψです I LIKE YOU」では、Dem Dem Big Bandがビッグバンドジャズを演奏。そして、一大シンフォニーと化した「W.W.D」では、ラテンのパートの挿入がユニークだ。「最Ψ最好調 !」は、CDではラテン色が濃かったものの、ライブではよりファンキーな演奏になっている。


 本編ラストの「WWDBEST」では、会場に銀テープが飛ぶ。アンコールの「ORANGE RIUM」で、ファンが一斉にオレンジ色のサイリウムを焚く光景は圧巻だ。さらにハートマークの紙も上空から舞ってくる。


 そして『幕神アリーナツアー2017 in 日本武道館 ~またまたここから夢がはじまるよっ!~』は、タイトル通り日本武道館での追加公演を収録。でんぱ組.incにとって、2014年5月6日に続く2度目の日本武道館公演だ。


 当日は開演までディアガールズがサイリウムなどを客席を歩いて売っていた。そして、客電が落ちた瞬間に目の前に広がったのは、満員の日本武道館で無数のサイリウムが輝いている光景だった。


 『幕神アリーナツアー2017 電波良好Wi-Fi 完備!』が147分なのに対して、『幕神アリーナツアー2017 in 日本武道館 ~またまたここから夢がはじまるよっ!~』は110分。40分近く短いが、そのぶん内容が濃縮され、公演の意味づけも明確にされている。


 幕張メッセイベントホールと違い、日本武道館ではトロッコやメドレーもない。しかし、幕張メッセイベントホールの客席が縦長なのに対して、日本武道館の客席は円形なので、独特の一体感がある。そして、ライブはメインステージしか使わなかったこともあり、自然とライブ中のメンバーの表情に引き込まれてしまう。序盤の「W.W.D」で、「マイナスからのスタート 舐めんな!」と歌う瞬間の相沢梨紗の気迫からして、「何かが違う」と思わせるものがあるのだ。


 「くちづけキボンヌ」のラップパートでは、本来〈学校や友達 / すべてがずっと続くと 誰もが考えてた〉というリリックの部分で、「友達」を「でんぱ組」と置き換えていることにも気づいた。〈学校やでんぱ組 / すべてがずっと続くと 誰もが考えてた〉とラップしているのだ。このラップパートの間、藤咲彩音がほとんどうつむいていることにも映像で気がついた。まるで涙を見せまいとするかのように。


 後半では、ステージから延びた花道の先で、メンバーがひとりずつファンへのメッセージを語った。そして、古川未鈴は涙をこらえながらこう言ったのだ。


「この先少しの間ライブの予定がないんですけれど、それでもでんぱ組.incはひとりひとり力をつけて、またこうやって6人でステージに戻ってこれるように頑張っていきますので、皆さんこれからもどうぞよろしくお願いします」


 古川未鈴が「この先少しの間ライブの予定がないんですけれど」と言った瞬間、現場に動揺が走ったことは忘れられない。そのファンの反応は、映像でもそのままどよめきとして収録されている。


 そして、本編ラストの「WWDBEST」では、ステージのスクリーンに歌詞が映しだされる。最後の〈夢で終わらんよっ〉という歌詞が、歌い終わった後も楽曲が終わるまで出続けていたことには強いメッセージを感じたものだ。「夢で終わらんよ」というのは、もともとは「Future Diver」の一節であり、その「Future Diver」がアンコールの最後で歌われたことにも意味はあったに違いない。


 なお、この「Future Diver」を歌う直前、古川未鈴が「でんぱ組.incはまだまだ未来へこのまま突っ走ります!」と言おうとして噛むアクシデントが起きた。会場が笑いに包まれるなか、慌ててでんぱ組.incはステージ上でその部分をやりなおしていた。映像では修正されているのだろうか……と見たのだが、そのまま収録されていた。素晴らしい。でんぱ組.incらしいユーモアに満ちた瞬間だったのだから。


 そして、この2枚のDVD/Blu-rayを収めた初回限定盤BOXセットにのみ100Pフォトブックレットが付属している。日本武道館でひとりずつ挨拶をした瞬間も記録されており、古川未鈴が「この先少しの間ライブの予定がない」と告げた後に、全員の目が潤んでいることも確認できる。


 しかし、『幕神アリーナツアー2017 電波良好Wi-Fi 完備!& in 日本武道館 ~またまたここから夢がはじまるよっ!~』を見た後に残るのは決して悲壮感ではない。むしろ、フィジカルさやボーカルの安定感など、でんぱ組.incのパフォーマンスのレベルの高さを再認識させられる。


 「WWDBEST」で「夢で終わらんよっ」と歌っていた、でんぱ組.incの夢の続きが見たくなる。でんぱ組.incのライブ活動への帰還を待ちわびることになってしまうのが『幕神アリーナツアー2017 電波良好Wi-Fi 完備!& in 日本武道館 ~またまたここから夢がはじまるよっ!~』なのだ。(文=宗像明将)