2017年05月01日 10:53 弁護士ドットコム
今いる会社を辞めて、部下や顧客を引き連れて独立しようとすると、どんな問題が起こるのでしょうかーー。インターネットのQ&Aサイトにそんな相談がありました。
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相談者は、今勤めている会社で高い営業成績を納め続けているにも関わらず、会社から不当な扱いを受けました。そこで独立・起業することを決意、現在の会社の社員のうち半分近くを連れて行きたいそうです。また、今まで自分が得た顧客にも、できるだけついてきてほしいそうです。
部下を引き連れて独立する場合、どんなトラブルが考えられるのでしょうか。また、顧客情報の持ち出しにも問題はないのでしょうか。髙田英治弁護士に聞きました。
社員には転職の自由、職業選択の自由が保障されています。そのため、就業規則や退職時の合意書などで会社との競業が禁止されていない限り、社員が個人で独立して起業すること自体に特に問題はありません。
しかし、退職に際して現在の会社の社員の半分近くを引き抜き、しかも既存の顧客を連れて行くため、顧客情報まで持ち出して独立するとなると、法的に問題となる可能性があります。
まず、独立を計画した社員が、まだ会社に在職中であるにも関わらず、他の社員を一斉に引き抜くために暗躍したり、顧客情報を持ち出したりすれば、雇用契約上の誠実義務違反や競業避止義務違反、秘密保持義務違反として、損害賠償責任等を問われる可能性があります。また、退職後であっても、会社の業務運営に重大な支障を生じさせるような悪質な態様で引き抜き等が行われた場合には、会社との間で退職後の引き抜き等を禁止する特約があるかどうかに関わらず、会社の営業の利益を侵害する不法行為として、やはり損害賠償責任を問われる可能性があります。
さらに、顧客情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するにも関わらず、自ら収拾したもの以外の顧客情報まで持ち出したような場合には、刑事罰が科される可能性もあります。
もちろん、社員の引き抜きであっても、会社の正当な利益を侵害しないよう然るべき配慮がなされているような場合であれば、法的に問題となることはないと考えられます。しかし、会社の半分近くもの社員を引き抜くという今回のようなケースでは、法的に問題となる可能性は高いでしょう。
なお、独立する社員が会社から不当な扱いを受けたかどうかということと、引き抜きや顧客情報の持ち出しが正当化されるかどうかということとは、法的には全く別問題であると考えるべきです。
また、たとえ会社から連れて行く顧客が、在籍中に自らの営業活動により得た顧客であったとしても、顧客との契約当事者はあくまでも会社である以上、この点も顧客情報の持ち出しを完全に正当化する根拠にはならないと考えられます。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
髙田 英治(たかた・えいじ)弁護士
2009年弁護士登録。第二東京弁護士会所属。企業法務を中心に、会社・個人の法律問題を幅広く取り扱う。
事務所名:髙田総合法律事務所
事務所URL:http://www.takata-law.com/