ロシアGPの予選後に最も注目を集めていたのは、フェラーリの2008年フランスGP以来のフロントロウ独占とメルセデスAMGの失速だが、その次はフェルナンド・アロンソの発言だった。
Q2のアタックを終えてピットに戻る際、アロンソが無線で「信じられない」と語ったため、直後のテレビ局がミックスゾーンでの質問は、何が信じられなかったのかを問うアナウンサーが多かった。そこでアロンソはこう言った。
「ストレートでどれほど失うのか、それが信じられないということだ。第1セクターでは、1.3秒失っている。そこにはひとつのコーナーしかないのに」
元王者だけにアロンソの発言は信憑性があり、だれもが信じてしまう。しかし、第1セクターには実際には4つのコーナーが存在する。1コーナーは緩やかだからカウントしなくてもいいが、3コーナーと4コーナーは、どこからどう見てもコーナーである。
アロンソのこの手の、いわゆる数字を使って、いかにも正しそうで、じつは結構見当違いなコメントというのが今年に入って目立っている。例えば、中国GPではこんなことも言っていた。
「バックストレートでは、300m後ろにいるクルマが抜いてった」と。
時速360kmを秒速に換算すると100mとなり、300m後方のマシンが約1000mのバックストレートで前者に追いつくためには、DRSを考えないと秒速130mは必要となり、それを時速に換算すると時速468kmのスピードが出ていないと追いつかない計算となり、現実にはあり得ないのである。
こうした理論的に正しくない発言というのは、文系の人間にはもっともらしく聞こえるかもしれないが、エンジニアがたくさん仕事しているF1のパドックでは通用していない。
某チームのエンジニアは、今年の中国GPのレース中にマクラーレンのレースエンジニアが「フェルナンド、前のサインツはいまコース上で最速だ」という無線に対するアロンソの「ならコーナーでは僕が最速だ!」という発言を揶揄して、「マクラーレンはPUで苦しんでいるけど、F1界最速のコーナーリングをするドライバーがいるから大丈夫だろう」と冗談交じりに語っていたほどである。
コーナーリングスピードというのは、現在はGPSデータで全チームがそれぞれを把握しており、チーム関係者には嘘は通じない。
ロシアGPの予選後、テレビの会見後に開かれた記者たちとの会見でも、予選後の無線について質問が飛んだ。するとアロンソは「(無線を放送する権利を持っている)FOMは僕らの無線を楽しんでいるようだから、明日からはもう何も言わないよ」とトーンダウン。
果たして、アロンソは黙っていられるのか。それとも……。