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Coldplayが見せた、世界屈指の一大エンターテインメント 観客と作り上げた東京ドーム公演

2017年04月30日 17:33  リアルサウンド

リアルサウンド

Coldplay(写真=Teppei)

 虹色に輝くステージ装飾と、観客もライブの一部となって生まれる圧倒的な祝祭感。Coldplayの約3年ぶり、2015年作『A Head Full of Dreams』をリリースしての日本公演は、ビヨンセやノエル・ギャラガー、トーヴ・ローらが参加した新作の雰囲気を反映させた、文字通りの「極上のエンターテインメント」だった。会場はキャリア史上初の東京ドーム。海外アーティストによるドーム公演は2017年初となる。この日は00年代後半から世界屈指のスタジアム・バンドとなった彼らの海外でのセットが、日本でも完全再現されることとなった。


 今回のライブでは『Mylo Xyloto』のツアーで初披露されたLEDリストバンド「ザイロバンド」が引き続き無料配布され、観客自身も会場の照明としてステージ演出に参加。アルバムのジャケット同様にカラフルで夢のような世界が展開されていく。オープニング・アクトとして登場したRADWIMPSが会場を湧かせると、スクリーンにツアーの出発点となったアルゼンチンから順番に各地の映像が映し出され、最後に日本のファンが登場して「A Head Full Of Dreams」でライブがスタート。観客全員のザイロバンドが黄色になって「Yellow」へと続いていく。この時点で会場一体となった大合唱が生まれるのが、彼らのライブの大きな特徴だ。Coldplayの楽曲は、この「Yellow」を含む2000年のデビュー作『Parachutes』の頃から、多くの人々で合唱できるサビの高揚感が大きな特徴だった。そして、2作目『A Rush of Blood to the Head』以降はそこにジョニー・バックランドの音響的なギターを筆頭にしたメンバーの演奏がアレンジ面で多彩さを加え、2011年の『Mylo Xyloto』からはそこにクラブ・ミュージック~ジョン・ホプキンスなどにも通じるエレクトロニカ的な要素も加えている。メロディはシンプルで壮大、けれどもアレンジはマニアック。このバランス感覚が、スタジアムでも映える楽曲の魅力を生んでいるのは間違いない。


 そして、バンドのライブを支えるもうひとつの魅力が、観客との距離の近さを最大限に追求したステージ演出だ。この日も序盤から「Every Teardrop Is a Waterfall」「The Scientist」などを披露しながら、スクリーンに観客がリアルタイムで映し出されていく。彼らのライブの主役はステージ上のバンドだけでなく、会場に集まったすべての観客でもあるということなのだろう。「Paradise」の後半ではTiestoのリミックスに繋いでアリーナ中央のサブステージに移動し、会場を広く使って「Always in My Head」や「Magic」を披露。ライブは開始早々、映像、音、照明などが融合した一大エンターテインメントと化していた。


 アルバム『A Head Full Of Dreams』にインタールード的に挿入される7曲目「Kaleidoscope」では、13世紀のトルコの詩人・ルーミーの「ゲストハウス」が朗読される。その内容はこうだ。〈人間はみなゲストハウス/毎朝新しい客がやって来る〉〈たとえ、それが悲しみの一団だとしても/できるかぎり立派にもてなしなさい〉〈どれも彼方から案内人として/あなたの人生に送られてきたものだから〉。そしてアウトロには、やや音程が外れた 「アメイジング・グレイス」が挿入される。これはオバマ前アメリカ大統領が、黒人教会で起こった銃乱射事件で命を落とした牧師の葬儀で歌ったものだ。つまり、今回の作品とツアーの最大のテーマは、各地でポピュリズムや人種問題が浮き彫りになる昨今にあって、「価値観の違う人々がどうやって共存していくか」ということ。「Everglow」ではクリスが「ここにいる人たちの思いを、シリアや、ニュースで聞く場所に送ろう」とMC。待ちに待った「Viva La Vida」ではこの日一番の大合唱が巻き起こり、続く「Adventure of a Lifetime」では大量のカラフルなバルーンを投下。観客の腕のザイロバンドもそれぞれ違うカラーにまばゆく光る。その後はアリーナ最後方で「In My Place」「Don’t Panic」などを披露。「Don’t Panic」ではドラムのウィルとギターのジョニーがボーカルを取り、そこから「新曲をやるよ」と告げて「All I Can Think About Is You」を世界初披露する。近年のColdplayは、世界的なクラブ・ミュージックの盛り上がりに呼応してシンセや四つ打ちを多用することが多かったが、この新曲はハウスなどを連想させるミニマルなビートがすべてバンドの生演奏に置き換えられ、肉感的なグルーブが前面に押し出されていた。もしかしたら彼らのモードは、徐々に変わりつつあるのかもしれない。終盤はThe Chainsmokersとのコラボ曲「Something Just Like This」や天井&スクリーンが星で埋まった「A Sky Full of Stars」を経て、『A Head Full of Dreams』の最終曲「Up&Up」でステージを終えた。


 ジョン・スタインベックの小説『怒りの葡萄』に着想を得たラスト曲「Up&Up」では、NY在住のイスラエル人監督チームが手掛けたMVの印象的な映像が映し出されていく。「地下鉄を泳ぐウミガメ」「水たまりにできた鉄橋」「宇宙でのブランコ」「土星の輪を使ったカーチェイス」「コインランドリーの洗濯機や雲の中を泳ぐ人々」――。これらは現実の問題をユーモラスに改変したパラレルワールドで、歌詞では「全部君の中で起こっていることなんだよ」と、想像力で世の中を変えることの大切さが歌われる。それはまさに、約4万5千人がザイロバンドで繋がって作り上げた、この日の圧倒的な祝祭感と共通するものだ。巨大なドームを会場にしながらも、この日集まった観客ひとりひとりがライブの重要な構成要素になり、バンドと一体となって祝祭感を生み出していく。Coldplayのライブの稀有な魅力が伝わってくるようなステージだった。(杉山 仁)