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「MV女優」の時代が来た? 9mm、polly、大森靖子らの作品に登場する美女たち

2017年04月29日 14:03  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)松村早希子

 MV女優(byアリスムカイデ)。インターネットの動画で、テレビCMで、街角の大画面で、ただ一瞬目にしただけでも、心に引っかかり忘れられなくなってしまう存在。音楽そのものを主役とするミュージックビデオの中で、演奏者でも作曲者でもなく、言葉を語らず、表情と佇まいだけで楽曲のイメージをより強くする。身体ひとつが剥き出しになったMVの中の彼女たちを見つめていると、台詞のあるドラマや映画よりも、身体性が直接ぶつかってくることに気づきます。


動画はこちら


■アリスムカイデ


出演:9mm Parabellum Bullet「眠り姫」/フレデリック「オドループ」など多数


 「MV女優」という肩書きを自称し、多くのMVに引っ張りだこです。本人曰く「長すぎる」手足、この世のものとは思えない小さな顔、けれども普通のモデルよりも首や肩にしっかりと筋肉の付いた、マーベルコミックのようなその肢体が画面に現れると、緊張感が走ります。可愛らしいベビーフェイスなのに佇まいはクールなファッションモデルのオーラを纏うアンバランスさと、振付けなのか即興なのか判別しかねる誰にも真似できない謎の動きに、どうしようもなく惹きつけられます。髪型のせいもあってか幽霊などこの世ならざる存在を演じることも多いですが、本人もその役割を楽しみ、髪を振り乱して生き生きと没入して、有無を言わさずどんなものでもオシャレにしてしまうパワーに満ちています。


■ハラサオリ


出演:polly「狂おしい」/大橋トリオ「 The Day Will Come Again」など


 「人間の体ってこんな形状になるんだ…!」と衝撃を受けた、関節の概念を捨て去るような動きが、映像に黄泉の世界の空気をもたらします。コンテンポラリーダンスの世界に留まらず、ベルリンと東京を行き来し、七尾旅人さんとのコラボ「兵士A」では生死を行き来する彼女。麻布の「新世界」で初めて目にした時、天上人のような美女が目の前で踊っている、目の前でお酒を飲んでいる、目の前で談笑されていることにありがたみを感じ、心から感謝しました。彼女が踊ることによってその場所の構造や空気の流れを初めて知ることができるような、空間をデザインする動き。美術大学デザイン科出身、ダンスはほぼ独学という、異色の経歴もまた彼女の存在から溢れ出す魅力です。


■来夢


出演:大森靖子「ドグマ・マグマ」/[Alexandros]「ワタリドリ」/超特急「EBiDAY EBiNAI」など


 似顔絵を描きたい欲をどうしようもなく掻き立てられるお顔、常に異世界を見ているような瞳。アニメのキャラクターのようにずっと変わらず固定された前髪。縷縷夢兎のように、女の子だけの夢を凝縮した世界の生き物。異性を必要としない、外向きの「モテ」と対極に存在して、ブラックホールのように他者を吸い込む魔法少女。ミスiD2015・自己PR動画でのふわふわした喋り方と、モデル活動で見せる、誰も壊すことのできない完璧な彫刻のように高貴な姿のギャップ。超特急「EBiDAY EBiNAI」で、待ち合わせ場所に走るそのあまりにもぎこちない動きは、ゲームをすることとアニメを観ることが一番の趣味、引きこもり気味でほとんど太陽の下で運動をすることのない彼女の「走り慣れなさ」が現れていて激萌えです。


 昨今、美女が登場するMVが増殖しています。 Instagramで映えるスイーツが流行り、自撮り映えする場所が人気スポットとなる、「パッと見た瞬間に他者に伝わる美しさ」を多くの人が求める今、いかに瞬時にインパクトを与えるか、そのファーストインプレッションに、人の心を掴めるかどうかの勝負がかかっています。YouTubeとTwitterで拡散されるために日本の音楽シーンが選択したもの、それが「MV女優」でした。美しい人の仕草、まなざし、髪の毛の流れに心奪われる、その一瞬のときめきが、この時代を作り上げていくのではないでしょうか。(松村早希子)