2017年04月29日 09:13 弁護士ドットコム
「まさか逮捕までされるようになるなんて」。こう驚くのは、首都圏在住の会社員Yさんだ。彼の趣味は「オンラインカジノ」で遊ぶこと。海外にサーバがあるため、法律上は「合法」で、場合によっては「グレー」とされるくらいに思っていた。
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ところが、昨年3月、海外のオンラインカジノで賭博したとして、男性3人が賭博の疑いで京都府警に逮捕された。無店舗型のオンラインカジノで個人客が逮捕されたのは全国初だとされている。
事件報道以降、Yさんはビクビクしながらも、オンラインカジノをやめられずにいる。だが、オンラインカジノの決済サービスを提供していた企業「ネッテラー」も、日本在住の人に対して、利用停止に踏み切るなど、状況は激変している。
海外にサーバがあるオンラインカジノを日本国内で遊ぶことは違法なのだろうか。カジノを含む賭博法制(ゲーミング法制・統合型リゾート法制)にくわしい山脇康嗣弁護士に聞いた。
まず、オンラインカジノが問題となるケースとしては、次の(1)(2)があります。
(1)海外のカジノをネットカフェなどの店舗に設置されたパソコンなどを使って利用する場合(いわゆる「店舗型オンラインカジノ」)
(2)海外のカジノを自宅のパソコンや個人所有のスマートフォンなどを使って利用する場合(いわゆる「無店舗型オンラインカジノ」)
そして、海外のカジノをオンラインでプレイする場合、利用客が賭博罪で処罰されるかについては、2つの法的論点があります。
1つは、「国外犯処罰」の問題です。刑法の賭博罪には、国外犯処罰の規定がありません。したがって、日本人が、米ラスベガスなど海外でカジノをしても、処罰されません。
しかし、店舗型であろうが、無店舗型であろうが、海外のカジノをインターネットなどを介して日本国内で利用する場合、実行行為の一部として「賭ける」という行為が、国内でおこなわれています。そのため、国内犯として処罰が可能とされます。
次に、「必要的共犯」の問題です。必要的共犯とは、犯罪の構成要件が、はじめから複数の行為者の関与を予定している犯罪を意味します。
具体的には、賭博の相手方が、海外の合法カジノ業者である場合に、利用客だけを処罰できるかということが問題になります。
(1)の店舗型オンラインカジノでは、ネットカフェなどの店も処罰されるので、必要的共犯の問題は生じません。実際、これまでも多くの摘発例がありました。
それに対して、(2)の無店舗型オンラインカジノについては、捜査機関にとって、必要的共犯の論点のハードルが高く、これまでは利用客の摘発がされてきませんでした。そのため、昨年3月の京都府警による摘発は、非常に注目されました。
海外のカジノとの関係で、賭博罪の必要的共犯の論点について、正面から判断した判例はいまだありません。
しかし、学説上は、次のような理解が有力です。
つまり、「必要的共犯とは、犯罪の構成要件が、はじめから複数の行為者の関与を予定しているという意味である。つまり、予定しているのは、他の関与者の『犯罪』ではなく『行為』にすぎない。
だから、必要的共犯の一方(胴元)について『犯罪』が成立しないとしても、『行為』がある以上は、他方(利用客)について犯罪として賭博罪が成立しうる」というものです。
一般論としてですが、日本政府も、オンラインカジノについて『賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法第185条の賭博罪が成立することがあるものと考えられ』ると答弁しています(「賭博罪及び富くじ罪に関する質問主意書」に対する平成25年11月1日付答弁書)。
また、最高裁判所は、賭博罪の保護法益を「勤労の美風」としています。その観点からは、無店舗型オンラインカジノであっても、日本国内で現金の勝ち負けが起きる以上は、「勤労の美風」を害しうるといえます。
以上のとおり、店舗型オンラインカジノについて賭博罪が成立することは明らかであり、無店舗型オンラインカジノについても、賭博罪が成立する可能性が高いといえます。
なお、ここまで述べたことは、あくまでも賭博罪の成否についてにすぎません。海外のオンラインカジノは、そもそも公正なゲームが提供されているか自体が疑わしく、その点からも、利用することは賢明ではないでしょう。
ちなみに、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(IR推進法)によって解禁が目指されているのは、ランドカジノ(店舗型カジノ)であり、海外にサーバがあるオンラインカジノは、基本的に想定されていません。
オンラインカジノは、規制の実効性などの点で特殊性があり、ランドカジノと同一に捉えられません。したがって、オンラインカジノの解禁の是非は、IR実施法によってランドカジノが合法化され、大きな社会的問題が発生しないことが確認された場合の、将来的な検討課題です。
その際は、オンラインカジノだけに限定した検討ではなく、ソーシャルゲーム、オンラインゲームおよび賞金付きゲーム大会なども含めた、広く統一的なゲーミング法制の構築の検討が望まれます。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
山脇 康嗣(やまわき・こうじ)弁護士
慶應義塾大学大学院法務研究科修了。慶應義塾大学大学院法務研究科専門法曹養成プログラム(租税法専修)修了。入管法・外国人技能実習法・国籍法・関税法・検疫法などの出入国関連法制のほか、カジノを含む賭博法制(ゲーミング法制・統合型リゾート法制)や風営法に詳しい。第二東京弁護士会国際委員会副委員長、日本弁護士連合会人権擁護委員会特別委嘱委員(法務省入国管理局との定期協議担当)。主著として『詳説 入管法の実務』(新日本法規)、『入管法判例分析』(日本加除出版)、『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規)、『外国人及び外国企業の税務の基礎』(日本加除出版)がある。「闇金ウシジマくん」「新ナニワ金融道」「極悪がんぼ」「鉄道捜査官シリーズ」「びったれ!!!」「SAKURA~事件を聞く女~」「ゆとりですがなにか」など、映画やドラマの法律監修も多く手掛ける。
事務所名:さくら共同法律事務所
事務所URL:http://www.sakuralaw.gr.jp/profile/yamawaki/index.htm