ホンダを巡って、2つの噂が錯綜している。
ひとつは、ホンダがメルセデス(HPP)に対し救いの手を求めているのではないかというものだ。開幕前から引きずっている性能不足だけでなく、F1バーレーンGPでは信頼性不足も露呈させてしまったため、メルセデスに対してコンサルタント業務を依頼するのではないかという説だ。
しかし、長谷川祐介ホンダF1総責任者は、この噂を「それはないです」ときっぱり否定した。ただし、ホンダのある関係者は「ホンダはこれまでも必要に応じて、外部からの協力は受けてきましたし、今後もその方針は変わりありません。ただし、それがどこのだれかについては、お話することはできません」と、外部との接触については否定はしなかった。
そこで浮上してくるのが、イルモア・エンジニアリングとの関係である。イルモアという名前は創業者のマリオ・イリエンとポール・モーガンの名前の一部を組み合わせたもので、F1ではメルセデスと結びつきが深かった。
メルセデスのHPP(ハイパフォーマンスパワーユニット)の前身はイルモアだった。だが、2001年にモーガンが飛行機事故で他界した後、分社され、2005年にHPPがイルモアから独立して以降は提携はしていない。
逆にアメリカのインディカー・シリーズのエンジン開発で2006年からホンダと密接な関係を築いてきた。
F1では2014年にルノーと共同でパワーユニットの開発を開始。昨年、ルノーが大幅にパワーユニットを改良してきたのはイルモアの力があったからだと言われている。しかし、イルモアとルノーとの関係は今年に入って解消されていたことが判明。そこでホンダとの提携が囁かれ始めたのだ。
つまり、イルモアとの提携がどこかでイルモアとの結びつきが強かったという印象があるメルセデスに勘違いされたのではないかと考えられる。
もうひとつは、ホンダの救済策についてだ。これは昨年、FIAとF1マニュラクチャラーが、「現在のパワーユニット規則を2020年まで維持すること」を確認したのに伴って、「各社のパワーユニットの性能差が出た場合に、ある程度縮めること」で合意していたからだ。
FIAによれば、「2017年の最初の3戦が終了した段階で、各パワーユニットのポテンシャルをバルセロナ(カタロニア・サーキット)でのシミュレーションにかけて、もしその差が0.3秒を超えるようであれば、ストラテジーグループの介入が検討される」という内容だった。
ロシア入りする直前、FIAのコミッションミーティングに参加した長谷川総責任者は、「F1コミッションミーティングでは具体的な話は何も出なかった」と語っている。
さらに長谷川総責任者は「(救済策の噂が出ること自体)技術者としてはとても恥ずかしい。ホンダからお願いすることはない」とも語っており、ホンダから他チーム、あるいはライバルメーカーに打診することはないと考えられる。
では、この噂はどこから立ち上がったのか。考えられるのは、マクラーレンサイドだ。ホンダにとっては恥ずかしい処置でも、マクラーレンにとっては受けられるアドバンテージはどんな理由であれ、手にしたい。しかも、それが合法であれば、なおさらだ。
いずれにしても、この2つの噂はホンダが苦境に陥らなければ、立ち上がらなかった噂。したがって、ホンダも胸を張って詳細を説明することができない。それによって、噂が一人歩きしてしまった感がある。