フェルナンド・アロンソのインディ500への挑戦がいよいよ始まった。バーレーンGPの後、渡米したアロンソはアラバマで行われたインディカー・シリーズの第3戦を観戦。インディカー・シリーズがどのような環境で行われているかを視察するとともに、アンドレッティ・チームのメンバーともミーティング。レース後にはシート合わせも行い、有意義な1週間を過ごした。
さらにロシアGPの後には「インディアナポリスで数日シミュレーターを試すつもりだ」(マネージャーのルイス・ガルシア)という。しかし、肝心の実車での走行は早くてもその後。アロンソのインディ500挑戦はまだ始まったばかりなのである。
果たして、アロンソはインディ500でどこまでやれるのだろうか。95年のインディ500勝者のジャック・ビルヌーブは「インディ500では経験はそれほど重要ではない」という。
「なぜなら、私は1回目の挑戦で2位に入り、2回目の挑戦で勝ったんだからね」
ただし、アロンソの挑戦は「かなり困難なものになるだろう」とビルヌーブは予想する。「インディ500の経験がないことより、オーバルの経験がまったくないことのほうが心配だ」
「というのも、オーバルのレースはロードコースとはまったく異なるからだ。オーバルのレースではスポッターが重要な鍵を握るんだ」
スポッターとは、グランドスタンドの最上部に設置された特別なエリアから、コース全体を見渡して、走行中のドライバーにオーバル全体の様々な状況を伝える役割を果たす人間だ。
F1でもF1ドライバーはレースエンジニアと無線で交信しているが、スポッターはドライバーと交信するというより、一方的に状況をしゃべり続け、その量はF1の比ではない。
そのうえで、ビルヌーブはアロンソがインディ500で成功するに重要な点を2つ挙げた。
「ひとつは、過信しないことだ。インディ500は長いレースなので、序盤と終盤では路面コンディションがまったく異なる。『今日は行けるぞ!!』と思った瞬間にコンクリートウォールの餌食になってしまうんだ。常にコンクリートウォールに敬意を払いながらレースをすること」
もうひとつ、ビルヌーブが挙げた注意点は、肉体的な疲労よりも精神的な疲労に耐えることだという。
「インディ500では信じられないほどのトラフィックに出会う。しかも超高速で。それはF1の比ではない。肉体的にももちろん疲れるけれど、それ以上に精神的に疲れる。そこに落とし穴がある」
「だから、インディ500ではトラフィックを楽しみながらレースすること。絶対にイライラせず、冷静でいられるかどうかが重要だ」
ビルヌーブが挙げた2つの注意点を守るうえで大切となってくるのが、スポッターをいかに活用するかである。スポッターを無視して走りきれるほどインディ500は甘くはないが、スポッターに頼りきってしまうと判断が遅れる。
いかに、スポッターの声を聴きながら、状況を瞬時に正確に判断するかが問われる。
このようにインディ500の注意点を語るビルヌーブだが、アロンソのインディ500挑戦は「とても素晴らしいチャレンジだ」と肯定的だ。
「何人かのF1ドライバーが『モナコGPを欠場して、インディ500に挑戦するなんて信じられない。インディほど危険なレースはない』って言っているのを聞いたよ。それが本当なら、そいつらは本物のレーサーじゃないね」
「オレに言わせてみれば、もはやモナコGPは世界3大レースのひとつじやない。20戦の中の1戦にすぎない。いまやインディ500の勝利、ル・マン24時間の勝利、そしてF1の年間王者の3つが3大勝者だね」
ちなみに昨年のインディ500を制したアレクサンダー・ロッシもまたインディ500初挑戦だった。F1王者のアロンソがどこまでやれるのか?世界中が注目している。