常勝軍団チーム・ペンスキーに今季初勝利をもたらしたのは、チャンピオン経験者たちではなく移籍後3戦目のアメリカ人ドライバー、ジョセフ・ニューガーデンだった。
2014年シリーズ・チャンピオンのウィル・パワー(チーム・ペンスキー)は、アラバマ州バーバー・モータースポーツパークでの第3戦でライバルを寄せ付けない速さを見せた。
今季2回目のポールポジションからレースをリードし続けたが、ゴールを目前に何かを踏んでしまったのかタイヤから空気が漏れ出し、ピットに向かわざるを得なかった。こうして難なくトップを手に入れたのがジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)だ。
直前のピットストップが素晴らしかったスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)に先行を許したが、リスタートから2周で相手が一瞬見せた隙を突いて2番手のポジションを取り戻していた。このオーバーバイクは、結果的にレースの行方を決定するものとなった。
■名手ディクソンを抑えての今季初勝利
ゴールまで10周以上に渡って続いたディクソンの波状攻撃をニューガーデンは跳ね除け続けた。ポジションを争いのと同時に、燃費にも気を配らなくてはならない難しいバトルだった。
しかも、4度タイトルを獲得し、通算40勝を記録してきている経験豊富なディクソンは、今年からホンダのマシンに乗っており、燃費性能ではシボレー勢より優位にあった。
しかし、ニューガーデンはディクソンを封じ込めることに成功した。前を走る彼は空力的に有利で、攻める側のディクソンは乱れた気流を浴びてハンドリングが悪くなっていた。後方を走る不利はホンダのエアロの方が大きいという見方もされている。
ニューガーデンはプッシュ・トゥ・パスを温存しながらトップをキープし続け、最終ラップにそれを使ってリードを広げ、トップでチェッカードフラッグを受けた。
昨年度チャンピオンでニューガーデンの先輩チームメイトであるシモン・パジェノーは、ニューガーデンと同じタイミングでピットストップを行いながら燃費の状況はかなり厳しく、3位キープに徹するしかなかった。
予選でファイナルに進めずに7番手スタートだったニューガーデンだったが、彼より前方の5番グリッドからスタートしていたライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)がジェームズ・ヒンチクリフ(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)と1周目に接触して後退。
ニューガーデンはヒンチクリフをパスし、パジェノーも抜いたことで1回目のピットストップを終えたところで2番手に浮上していた。
■クレバーな走りをみせるドライバーに
トラブルを避け、マシンを無傷に保てばチャンスは巡ってくる。まだ26際を若いニューガーデンだが、インディカーで好成績を挙げるために大事なポイントをキッチリ押さえている。第2戦ロングビーチでの 3位フィニッシュも8番手スタートから掴んだものだった。
今回の彼はタイヤチョイスも良かった。上位陣と敢えて異なるハードコンパウンドのブラックタイヤを選んでスタートし、次のスティントは逆にソフト・コンパウンドのレッドタイヤで走行。そして、重要な後半の2スティントではブラックを続けざまに使った。彼のブラック装着での速さが勝利に繋がった。
2013年のサンパウロでのレースを思い出す。初優勝のチャンスを掴んだニューガーデンは、磨耗したタイヤで戦う佐藤琢磨にアタックしたが攻略できず、逆にタイヤを消耗したため、ラスト5周で2位から5位に転落してしまった。
しかし、その後のニューガーデンは着々と力をつけていった。常勝軍団を束ねるチーム・ペンスキーのロジャー・ペンスキーが2015年のインディカー復帰早々にインディ500で優勝したファン・パブロ・モントーヤをレギュラーから外してでもニューガーデンが欲しいと考えたのは、2016年のアイオワでの戦いぶりを見た時だっただろう。
骨折した手をギブスで固めていながら、2位以下を寄せつけずに圧勝したレースだ。あの時、誰もが本格派のアメリカ人スターが誕生したと思った。“最強のレーサーになりたい”という純粋な情熱に溢れた走りだった。
バーバーでの勝利の後にニューガーデンは言った。
「ゴール前に凄いバトルが始まるだろうとワクワクしていた。僕とウィルとディクソンの3人による優勝争いだ。僕のマシンはとても速かった。ウィルは確かに非常に強いと映っていたが、彼にチャレンジすることはできたと思う」
パワーに不運が襲いかからなくても彼には勝つ可能性があったというのだ。今シーズン、彼らの白熱したバトルが何度も見られることを楽しみにしたい。