2017年04月26日 18:03 リアルサウンド
“naNami”とは、シンガー・ソングライター“ななみ”がカバー曲を唄う際の別名義。その最初のアルバムとしてリリースされるのが『この歌がいつか誰かの決心になりますように』である。10曲すべてがアニメソングの名曲で、それもエンディング曲ばかり。こうしたカバー作が生まれた背景には、昨年彼女が『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』で「Next 2 U-eUC-」を唄ったことがあるに違いない。
と、ここまではそう意外でもないのだが、その歌がどれもじつにしっとりと、メロウに、優しく唄われていることには驚くしかない。彼女と言えば自分の存在をすべて懸けるかのように歌に向かってきたアーティストで、そこでは感情を振り絞るように唄う瞬間が多々あった。それがこのnaNamiとしての作品では、聴く者の心を静かに癒すような歌を聴かせているのだ。
では、このカバーアルバムにはどんな意図があるのか。そして今、ななみは何を考え、何を感じ、どこへ向かおうとしているのか。ひさしぶりに会った彼女はとても朗らかな、いい表情で迎えてくれた。(青木優)
・「自分を示せるような年代のアニメソングを選んだ」
ーーまず、このカバーアルバムの企画はどんなふうに始まったんですか?
naNami:『ガンダム』で唄わせていただいたことで、カバーというか、誰かの歌を唄うことで新しい発見になることがたくさんあって。この作品の前に『デルフィニア戦記』という舞台の曲も唄わせていただいたんですけど、カバーをすることで“ななみ”をみなさんに知っていただけるんじゃないかなという気持ちも込めて、作りました。
ーーそうだったんですね。他の方の曲を唄うことで、どんな発見がありました?
naNami:このアルバムも名曲と言われている曲たちがひとつになってるんですけど、名曲って、すぐ覚えられるんですよ。この中には知らない曲もあったんですけど、練習しても、すぐに口ずさめるんです。それは素晴らしいことだな、と思って。とくにアニメの曲というのもあるし、お子さんでもすぐに唄えそうというか。そう思うと、自分の曲作りの勉強にもなりましたね。ボーカルだけでの表現というか、声だけで自分を示さなきゃいけないという行程には学ぶことがたくさんありました。
ーーなるほど。では、その名曲をアニメソングで統一したのは?
naNami:それはやっぱり『ガンダム』の曲を唄わせていただいたことがありましたね。だから、その時に応援してくださったり、知ってくださったみなさまに続けて自分を示せるような年代のアニメソングを選ばせていただきました。それに自分自身アニメが好きというのが強かったですね。
ーーそう、懐かしい曲が多いですよね。この選曲はどんなふうに進めていったんですか?
naNami:知ってる曲がほとんどなんですけど、たとえば『ルパン』の曲は知ってるけど、「炎のたからもの」は劇場版の曲なので知らなかった、といった曲もありました。全体としては、スタッフみんなで知ってるアニメを持ち寄って、その曲を聴いた時に、自分がカバーすることに意味がある曲がいいなと思いましたね。で、一番最初に「自分が今まで伝えてきた感動だったり、涙というものが表現できるカバーアルバムにしたいんです」という話はしていて。それで曲を選んでいったら、バラードも多くなって。「じゃあエンディングばかりにしてしまっていいんじゃないか」という感じになりましたね。
ーー自然とそうなっていったんですね。naNamiさんが唄いたかった曲、とくに思い出や思い入れがある曲はありますか?
naNami:2曲目の「secret base ~君がくれたもの~」ですね。これはもともとドラマの『キッズ・ウォー』の曲で、たぶんみなさんアニメソングというイメージではないと思うんですけど、私の年代がすごく大好きな『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』というアニメでも使われていたんですよ。ほかのアニメはリアルタイムでは見れていないんですけど、「君が~」は唯一自分がリアルタイムで見ていたアニメなので、思い出としてはこの曲が一番ありますね。だって「やつらの足音のバラード」(『はじめ人間ギャートルズ』エンディング曲)とか、けっこう昔ですよね? 1970年代とか。
ーーそうですね、僕もnaNamiさんがリアルタイムで聴いたのはこの曲ぐらいだろうなと思ってたんですよ。まあ「はじめてのチュウ」(『キテレツ大百科』エンディング曲)とか「想い出がいっぱい」(『みゆき』エンディング曲)は今でも聴く機会が多いでしょうけどね。
naNami:それこそ「想い出がいっぱい」も「夢を信じて」(『ドラゴンクエスト』第1期エンディング曲)も、アニメの歌ではなく、H2Oさんや徳永英明さんの名曲だと思ってました。「昔って、こんなにアニメソングをアーティストが唄っていたんだ?」ってビックリしましたね。今は声優さんが唄われてたりして、アニソンというジャンルがあったりしますからね。私みたいにアニメ自体を知らない若い人もいると思うんですけど、そういう方々にも楽曲の良さを知っていただきたいと思います。
「ボーカリストとしては曲に寄り添えないといけない」
ーー80年代から90年代にかけては、一般のアーティストがアニメのために歌を書き下ろすことが今よりもっと多かったですからね。あと、もうひとつこのアルバムに感じたのは、ボーカルなんです。こういう唄い方になるとは予想していませんでした。
naNami:みなさんの思い出がたくさんある曲たちで、聴く人はその原曲への思いが強いだろうから、一方的になりすぎてはいけないな、と思ったんです。寄り添えるような歌声がいいだろうなと。“ななみ”は今まで、どちらかというと一方的に「私はこう思う」とか「私はこのメッセージを伝えたい」という唄い方が多かったんですけど、今回はあくまでみなさんの思い出が中心にあるアルバムになってほしかったんです。私がそこに色を付けているだけで、あたたかくなれるようなアルバムになってほしくて。だから唄い方もいっぱい試したんですよ。ディレクターと「この唄い方がいいですかね?」とか話しながらでしたけど、一番寄り添えるような歌声がこの唄い方だったんですよね。それで統一することにしました。
ーーなるほど。かなり唄い込んで、これにたどり着いたんじゃないかなという気がしたんです。
naNami:そうですね、唄い込みました。普通じゃいけないだろうと思って。そのぶんレコーディングはけっこう大変でしたね。唄い方を180度変えるので、すごく慎重に、繊細に、ブレスも含めて全部が歌だと思って。おかげでいろんな発見があって、濃かったというか……。ひとつだけの唄い方は声に対して負担があるとか、学んだこともたくさんあります。今まで応援してくれてる方々には、きっと私らしさも期待していただいてるとは思うんですけど、ここでは新しい私を、懐かしく、新しく感じていただきたいなと思います。
ーーウィスパーボイスで唄っている曲も多いですよね。これはボーカリストとして相当努力したんだろうなと思ったんです。
naNami:ありがとうございます(笑)、気づいていただけて。シンガー・ソングライターとしては自己主張というか、伝えたいことの芯がはっきりしていたほうがいいと思うんですけど、ボーカリストとしては曲が軸にあって、それに寄り添えないといけないと思います。それでいろいろ工夫はしたいなと思い、時間をかけましたね。
ーーとくに気を配ったり、心をくだいた歌はどれですか?
naNami:「ロマンティックあげるよ」(『ドラゴンボール』エンディング曲)や「はじめてのチュウ」みたいなかわいらしい曲は、今までの“ななみ”では苦手なジャンルだったんですよ。でもボーカリストとしては苦手じゃダメだろうと。唄い方ももっと女性らしさを心がけましたし、「はじめてのチュウ」に関してはキテレツの<やった やったよ>というセリフがあるんですけど、いかにそれをメロディに直して曲っぽくするのかを頑張りました。いろんな<やった やったよ>を録りましたね(笑)。
ーーでは、感情や意味に入り込むのに近づくのが難しかった曲はどれですか?
naNami:ああー……「やつらの足音のバラード」はどう唄おうか?と思いました。何より、何もないところから命が生まれて、恐竜が生まれて、人類が誕生してやってきた、という歌なので、壮大なアレンジになってますし。それは今までの私の歌い方であれば得意なんですけど、ウィスパーボイスでこの壮大さを表現するのはすごく大きな課題でしたね。最後に唄いあげたいところなんですけど、最初も最後も、ウィスパーの加減で唄って。寄り添うという形では、すごく試行錯誤しましたね。
ーーその努力の跡が見られますね。では『この歌がいつか誰かの決心になりますように』というアルバム・タイトルは、どういうところから思いついたんですか?
naNami:カバーなのに、何で自分自身の主張があるタイトルなんだ?っていう感じですよね(笑)。このアルバムの懐かしい曲を聴くことで、みなさんには、そのアニメを見ていた頃の自分を思い出していただけると思うんですよ。「あの頃って自分、何してたかな?」とか「あの頃は何歳だったかな?」とか。その時食べたご飯の味だったり、その時自分が思っていたこととか、見ていた夢とか、なりたかった大人とか……曲を聴いてそういうものを思い出してもらえたら、明日からの何かのきっかけだったり、選択に関しての決心になるんじゃないのかなって。「今の自分はどうなんだろう?」とかね。それは今じゃなくて、いつかかもしれないですけど、このアルバムを聴いたことによって、何かのきっかけになればうれしいなと思って、このタイトルにしました。
「時間をかけてでも名曲と呼ばれるような曲を書きたい」
ーーこのアルバムを作って、naNamiさん自身がつかんだものはありますか?
naNami:この唄い方も悪くないなと思いました(笑)。もともと地声がすごく大きいので、ライブでも声を張り上げるのが自分の特性だと思ってたんですけど。女性の中では声が低いほうなので、そこを寄り添うという形にして、むしろ倍音を広くして、やわらかい唄い方をしました。こういうやり方で唄い方を見つけることもできるんだなと、この作品を通して学べましたね。あとシンガー・ソングライターとしては、やっぱり名曲は全部キャッチーで、誰でもすぐに口ずさめるメロディだな、と。そこは勉強になった時間でしたね。「こういう名曲を作りたいな」と思いましたし、とくに「世界が終わるまでは…」は自分が生まれた年のアニメソングなんですよ。もし自分の書いた曲が将来、それを書いた年に生まれた人が唄ってくれるようになったらうれしいな、と思って。夢が膨らみましたね。
ーーそのぐらい唄い継がれる曲が書けたら、ほんとにいいですね。で、そうなると訊きたいのが、アーティストの“ななみ”としては今後どんな歩みをしていきたいのか、ということなんですけど。
naNami:そうですね……カバーアルバムを作ったからこそ、今まで当たり前にやっていた曲を作ることが、すごく大事なことなんだなと気づかされたんです。そう思ったら、「(曲作りを)もっと掘り下げられるんじゃないかな」とも感じて。それプラス、「自分で曲を作りたい」と思う機会でもあったんですよ。ボーカリストとして唄ってみたら、シンガー・ソングライターであることが自分の核になっていたとわかったんです。それに気づいたら、曲作りができていることがうれしくて、前よりも「どんどん作りたいな」って思うようになったんですよ。それは1回シンガー・ソングライターから離れたからこそ気づいたことなんですね。なので“ななみ”としては、もっと自分のメッセージを唄えるアーティストになって、こんなふうに、いつか誰かがカバーしてくれるようないい曲を作りたいなって、すごく思いました。先輩方の名曲は最近ライブでも唄う機会が多かったので、「名曲ってすごいんだな」と改めて思って……私も、時間をかけてでも名曲と呼ばれるような曲を書きたいな、と思いましたね。
ーー前アルバム『Light in the Darkness』が出て10カ月が経ちますけど、新曲作りは進めているんですか?
naNami:そうですね、ギターを弾くたびにメロディは浮かんでくるので書いてるんですけど、歌詞が一番時間がかかりますね。常に何かネタがこぼれていないか、まだ世の中で歌になっていないことがないかを考えてます。それにこのカバーアルバムのおかげで、言いたいことを自分の言葉で書きたいと思うようになりました。今までは、子供の頃の自分とかトガってた自分とか、いろんなカケラが行き来していて、そのぶん曲にもいろんな色があって、いろんな主張をしていたと思うんです。それを“ななみ”として伝えられるような、すごく大きなひとつのものを探していきたいですね。
ーー今の話を聞いて思ったんですけど……前回のインタビューでも、大人になりつつある自分がいることを話してもらってるんです。それだけ今のnaNamiさんは、もう子供ではなくなってきた自分に気づいているんですね?
naNami:そうですね……もう子供じゃないですね(笑)。それはいろんなことを知れた上で思います。曲を作っていても思いますね。あとは……大人になったからこそなんですけど、大人は自分が大人になったことに対して自覚がないなと思いました(笑)。今日から大人っていう誕生日があるわけでもないし。でも大人になったことは、全然悲しくないです。子供の部分はまだあるし(笑)。それに大人になったからこそ書ける曲もあるだろうし、だからこそ出会える人もいるだろうし。
ーーnaNamiさんはもっと若い頃からいろんなことを経験してますからね。たぶん同い年ぐらいの子って、もうちょっと無自覚だと思うんですよ。
naNami:大学生ぐらいですものね、みなさんは。でも意外とみんな、苦労してるんだなと思います。子供の頃は、自分が一番苦労してると思ってたんですよ。「自分が一番かわいそう!」って思ってたんですけど、大人になって周りを見ていたら、みんな口に出してないだけで、ツラかったんだなって。そう思うと、口に出せてた自分は助かってたほうなんだなと思いましたね。だからこそ、そういう曲を書きたいと思いました。みんな悲しいことを経験してるんだったら、自信を持って悲しいとか寂しいとか涙についての歌を作っていっていいんだな!って。暗いアルバムになっちゃうかもしれないけど。
ーーいや、暗くはないでしょう。それよりも大切なところでつながれる作品が生まれるんじゃないかと思うし、それができる人だとも思います。といっても、生み出すのは大変なことだと思いますけれども。
naNami:ありがとうございます! 今から頑張ります。自分も曲を書いてて、今からすごく楽しみです。
(取材・文=青木優)