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アイドルネッサンスが初オリジナル曲を歌う意味ーー「交感ノート」お披露目ライブを観た

2017年04月24日 13:23  リアルサウンド

リアルサウンド

アイドルネッサンス

 アイドルネッサンスにとって初のオリジナル曲「交感ノート」を、4月2日に渋谷WWW Xで行なわれた『シブヤでオリジナルネッサンス!!』で聴いた。まずは、この「交感ノート」に触れる前に、アイドルネッサンスがオリジナル曲を歌う、ということの意味を説明したい。

 2014年に結成したアイドルネッサンスは、これまで1950年代から2010年代までの古今の名曲を歌とダンスで表現する“名曲ルネッサンス”をテーマに活動してきたグループである。Base Ball Bear「17才」にはじまり、最新カバー曲であるジャパハリネット「物憂げ世情」まで、2017年4月現在でカバーの持ち曲は全71曲にも上る。昨年、11月6日にZepp DiverCityで開催したワンマンライブ『お台場で迸るネッサンス!!』は、グループ史上最大キャパシティを誇る会場での公演。スペシャルバンドとゲストを迎え、彼女たちが目指した一つのゴール地点であり、これまでのキャリアを総括した集大成のようなライブであった。そのライブ終盤でメンバーの石野理子から発表されたのが、オリジナル曲への挑戦であった。

「新しいアイドルネッサンスをみなさんに見せていくために、私たちが成長していくために。来年、2017年春にオリジナル曲に挑戦し、CDとして発売することが決定しました」

 会場に集まった全員が固唾を飲む、あの瞬間の空気は今でも忘れられない。それは、オリジナル曲初披露となった『シブヤでオリジナルネッサンス!!』においてもそうだった。どこか心が落ち着かない、緊張感に満ちた空気が立ち込めていた。アイドルネッサンスが、オリジナル曲を歌う。これは新しい挑戦であり、見方を変えればコンセプトを崩し、一から始めるということ。何色にも染まっていない彼女たちが、白い制服に身を包み『17才』で鮮烈なデビューを果たしたのが3年前。長い月日をかけ、一つひとつ、丁寧に、彼女たちの世界観を築き上げてきたのは、この会場に集まった全員が痛いほど分かっていた。それほどまでに、アイドルネッサンスが今回のオリジナル曲で背負うものは大きい。

 「交感ノート」は、この日のライブでは6曲目とラストの2回歌われた。作詞、作曲は「17才」を手掛けたBase Ball Bearの小出祐介。メロウな優しい打ち込み音に、エレクトロニカをベースとした淡く、温かな電子ピアノ。派手に盛り上がるアイドルソングというわけではなく、極めて少ない音数で構成されているのが分かる。開かない踏切の前にいる私と僕、女の子と男の子の刹那の感情の揺れ。一番の歌詞では女の子、二番では男の子の心情が描かれ、三番では二人の気持ちが重なり合う。

<“ねぇ、交換しよう?”/君に伝えたいよ>

 サビではこのフレーズが繰り返され、ラストは「ねぇ、おはよう」と言葉を交わす。踏切と心の壁を表したサビの振り付けも印象深い。タイトルが表す通り、交換ノートを“交感ノート”と表現する、“青春”を歌い続けてきた小出らしい楽曲だ。楽曲の季節は初夏。サウンドは違えど、「交感ノート」を聴き終えた後に覚える感情は、どこか「17才」に似たまっさらなものだった。以前、アイドルネッサンス運営チームの照井紀臣氏のインタビュー取材(http://realsound.jp/2016/10/post-9932.html)に同席した際、彼はこんなことを話していた。

「まさに青春真っただ中で、良くも悪くも日常的な香りがする子たちだったので、Base Ball Bearの曲に描かれている、青春時代の弾ける雰囲気、加えて葛藤や切ない感情などの部分が似合いそうだと考えました」

 小出は、アイドルネッサンスのYouTubeチャンネルに上がっている動画を全て見た上で、楽曲の制作に着手し、本番前のリハーサルにも顔を出し、最後まで音響を確認したのだという。Base Ball Bearのアルバム『光源』レコーディング、バンドのツアーも並行して行われていることを考慮すると、恐ろしいスケジュールだ。


「名曲をまた作ればいいんです。それだけです。きっと楽ではないでしょう。でも、喜びはあるはず。一緒にいい作品を作りましょう」

 オリジナル曲制作発表時、小出がアイドルネッサンスメンバーと会場に集まったファンに向けた、手紙の内容を思い出す。「交感ノート」披露後、新井乃亜は楽曲の制作に多くの人が携わっていることを涙ながらに、言葉を選びながらファンに伝えた。それは、今回の新衣装を見てもそうだ。「17才」の衣装を長袖仕様にした復刻バージョンとも言える今回の衣装は、以前の新井のスカート生地を切り取り、そこに各メンバーの名前を刺繍し、新衣装の左肩に縫い付けている。セットリストを見てもそう。「17才」からはじまるセットリストは、全て音源化された楽曲で固められている。これまでのグループの歩みを認め、確かめながら、新しい一歩を踏み出す覚悟を感じさせた。

 この日、会場入場時にスタッフから「交感ノート」の歌詞カードが配られた。つまり、ファンは「交感ノート」というタイトルと歌詞の内容を知った上で、彼女たちのパフォーマンスを観ることになった。そして、筆者が驚いたのは楽曲披露前に行われた、メンバーによる歌詞の朗読だった。「オリジナル曲の歌詞を共有して、みなさんと私たちで同じ気持ちになって。オリジナル曲初披露の瞬間を迎えたいと、私たちメンバーもみんなそう思って」。新井はそう説明していた。アイドルネッサンスは歌詞の世界観を重んじるイメージがある。3月4日に新宿ReNYで行ったレギュラー公演『アイドルネッサンスを届けるネッサンス!!』では、KANの「REGIKOSTAR ~レジ子スターの刺激~」による歌詞の世界観を演劇にして表現もしていた。

 楽曲に抱くイメージは、人それぞれに違う。それは、ライブやCDジャケット、MVによってだんだんと塗り固められていく。ここまで書いておきながら言うのも何だが、「交感ノート」の印象を語ることには、少し憚る気持ちもある。そう思ってしまうほどに、メンバーによる朗読の時間はオリジナル曲の歌詞を共有するという、最初で最後の尊い時間だった。まさにそれが“交感”するということであったからだ。これから、それぞれが思い思いの「交感ノート」を育てていくこと、そしてこれから彼女たちと「交感ノート」の物語が始まる。

 ライブの最後には、「交感ノート」のほかにも小出がアイドルネッサンスへ3曲のオリジナル曲を制作していることが発表された。小出の溢れるバイタリティーには驚くばかりだが、彼女たちの思いを真正面から受け止めた誠実さには感銘を覚える。アイドルネッサンスは「交感ノート」と共に新たなスタートを切った。季節はもうじき初夏を迎え、またアイドルネッサンスの熱い夏がやってくる。(渡辺彰浩)