2017年04月24日 10:23 リアルサウンド
研究所から脱走した金髪美少女と、彼女を追う双子の少女たち。この3人は能力者で、街中をめちゃくちゃに破壊しながら壮絶なバトルを繰り広げる。ここまでは、よくある“美少女能力アニメ”だ。だが、次のシーンでは白髪の老人が間に入り、「他人を巻き込むんじゃない、迷惑だ」とゲンコツをお見舞い。そしてド正論の説教を始める……。ここで、「あれっ? このパターンは初めてだ」と思った視聴者も多いのではないだろうか。
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魔法少女ものを筆頭に、“特殊能力”と“美少女”を掛け合わせたアニメ作品が激増している。だが、現在放送中のアニメ『アリスと蔵六』は、形式上そうした“美少女能力もの”でありながら、王道路線からは逸脱した様相を呈している。その一因となっているのが、年老いた蔵六の存在だ。「おじいちゃん」という、ある種異物ともいえる要素を加えることで、定番ジャンルに画期的な風を吹き込んでいるのだ。
そもそも、近年の美少女能力アニメでは、男性キャラが登場しない作品も少なくない。なので、主要キャラに男性が存在するという時点で、やや新鮮味を感じられる。重ねて、アニメ全般的に見ても、老人が主役級になる作品は珍しい。二次元でも、現実世界と同様かそれ以上に「若くて美しい存在」が支持を得やすい。そのため、多くの作品で「老い」の要素が極力避けられているのだろう。もちろん、魅力的な老人キャラが存在しないわけではないが、あくまでも主人公らを引き立てる脇役として描かれがちである。
多くの作品が「老い」を敬遠する中で、あえてそれを物語の中心に置く。それだけで、本作はほかとの差別化にある程度成功しているのではないか。
また、「少女と老人」という対極の存在を設定したことで、互いのキャラクター性もより引き立つ。もし本作に美少女キャラしか登場しないとすれば、ヒロイン・紗名の魅力が埋没してしまう可能性もあっただろう。美少女ものでは、キャラ同士の人気が拮抗しがちなのだ。だが、ツートップに蔵六を置くことで、「かわいさ」人気が割れることはない。そして、紗名を厳しくも優しく見守る蔵六への好感度も、その人気とは別ベクトルで高まっていく。
紗名と蔵六の存在は、単に「少女と老人」という記号的な対比だけでなく、「ファンタジーと日常(現実)」というふたつの世界観の対比にもなっている。人並み外れた能力を持つ紗名と、昔気質で頑固な蔵六。ふたりが生活してきた場所も、閉鎖的な研究所と、昔ながらの温かみ溢れる日本家屋と対照的だ。多くのファンタジーアニメにおいても、日常場面はほぼ必ず描かれている。しかし、それらはあくまで「ファンタジーの中での日常シーン」であって、相反するものではない。『アリスと蔵六』では、キャラクターの出自を対比させることで、ファンタジーと日常が混濁した不思議な世界観が構築されている。
「昔気質で頑固なおじいちゃん」という、アニメでは焦点を当てられにくいキャラクターを中心に配置したこと。そして、「少女と老人」、「ファンタジーと日常」というふたつの対比。こうした今までにない複数のアプローチによって、『アリスと蔵六』は“美少女能力もの”の新境地開拓に成功したといえるだろう。
■まにょ
ライター(元ミージシャン)。1989年、東京生まれ。早大文学部美術史コース卒。インストガールズバンド「虚弱。」でドラムを担当し、2012年には1stアルバムで全国デビュー。現在はカルチャー系ライターとして、各所で執筆中。好物はガンアクションアニメ。