2017年04月24日 06:02 リアルサウンド
日本を代表するヘヴィメタルバンド・LOUDNESSが、4月18日に全米ツアーのために訪れたアメリカの空港で入国を拒否されていたと報じられた。それを受け、SNS上でも様々な議論が交わされ波紋を呼んでいる。
共同通信4月20日付の報道によると、バンドは18日にシカゴで入国することができず、数時間後に帰途に就いた。公演を行う予定だったシカゴのライブハウスは店の公式サイトで「米政権による外国人への入国審査方針が厳格化したため」と説明。所属事務所は「『コンサートをする以上、ビザが必要だ』と言われたようだ。できれば仕切り直して改めてツアーを行いたい」としている。 (参考:共同通信「ラウドネス、米ツアー中止」)
今回、筆者は国外でのライブ経験を多数持つミュージシャンに話を聞くことが出来た。彼は今回の報道を踏まえ、「韓国やドイツ、スウェーデンなどでライブを行った経験がありますが、ビザを取得したことは一度もないです。去年の6月にスウェーデンの3万人規模のフェスに出演した時もビザは取りませんでしたし、ライブやフェスに参加する時は観光として入国しています」と語った。
同氏曰く、演奏に対する対価が発生する場合はビザが必要とされているが、大半はビザを取らずに入国しライブを行っており、過去にはアメリカに入れた実例もあるとのこと。ただし、場合によっては入国を拒否されることもあり、不明瞭な部分も多いようだ。そもそも他国のアーティストがアメリカで興行を行う場合、どんなビザが必要になるのだろうか。
アメリカ合衆国国務省のホームページでは、アーティストがアメリカ国内で賞金や賞品、費用以外の報酬を受け取る場合、“Pビザ”(Performing athlete, artist, entertainer)が必要と記載されている。この“Pビザ”を取得していなかったため、LOUDNESSはアメリカに入国することができなかったと見られる。
“Pビザ”を取得するためには、審査による適格基準のクリアやUSCIS(米国市民権・移民業務局)への申請といった手続きを行う必要があり、大変な手間がかかる。(参考:アメリカ合衆国国土安全保障省)そのほか出願料として190ドルを支払う必要があり、場合によっては審査が長期化する上、申請が認められない場合もある。ただし、運用上の理由で特例的に入国が容認される場合もあるようだ。
「ビザが必要と定められているものの、運用上はグレーゾーンが大きかったのではないでしょうか。僕らがドイツの大型フェスに参加した時は、審査の担当者も観光客がフェスに来ているということを理解しているのか、なにも言わずに通してくれました」(前述のミュージシャン)
アメリカではテロ対策の一環として入国の審査が年々厳しくなっている。2015年に“ビザ免除プログラムの改定及びテロリスト渡航防止法”の施行、2016年には“ビザ免除プログラムの厳格化”など、審査の基準が度々更新されてきた。前述のライブハウスのコメントにもあるように、トランプ政権下で審査の厳格化が一層進んでいる可能性は高い。
一方、海外のアーティストが日本でライブを行う場合は“就業ビザ”が必要となる。外務省のホームページによれば、就業ビザの“興行ビザ”という区分が該当する。前述のミュージシャンは、日本のビザを取得できなかった海外バンドの例を挙げた。
「かつてフィンランドのメタルバンドがライブ公演で日本を訪れた際に、ビザを取得していなかったため、入国を止められかけたことがあります。ただ、そのバンドは報酬をもらわないという条件で入国、お金を取らないフリーライブをすることでツアーを続行しました」
各国によって基準が違うため一概には言えないが、日本を含めて、ビザの審査が厳しいのはアメリカに限った話ではなさそうだ。
今回の報道を受けて、「就労ビザを意識するバンドが増えるのではないか」と同氏は指摘。「例えば、出演キャンセルに伴う損害賠償、ツアー中に宿泊するホテルや交通手段のキャンセル料など、ツアー中止に伴う被害は甚大です。規模感や知名度にもよると思いますが、バンド側も“他国でライブを行う”ということを、よりシビアに捉えていく必要があるのかもしれません」と語った。
これまでは、バンドの知名度やその国々によって基準の緩さがあるため、ビザを取らずに海外公演を行うバンドは少なくなかった。しかし、今回の報道で入国できないリスクが明らかになった今、特に米国で一定規模のツアーを行う場合、ビザ取得は必須のものとなりそうだ。(泉夏音)