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藤原竜也、「乗らないでー!!」の悲痛な叫び 『リバース』冴えない男役をどこまで極める?

2017年04月24日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ドラマ『リバース』(TBS系)は、“イヤミス(読んでイヤな気持ちになるミステリー)の女王”と呼ばれる湊かなえ原作らしく、主人公の心をえぐるように追い込んでいく。その不安定な心境を、見ている者にこれでもかとぶつけるように演じる藤原竜也の存在が光るドラマだ。


参考:藤原竜也×三浦貴大、イメージ覆す演技で好評価! 『リバース』人間ドラマに期待


 藤原が演じるのは、実に冴えない男・深瀬和久。良かれと思って行動したことは、ことごとく裏目に。自分で自分に魅力や価値を見いだせないコンプレックスの塊だ。たとえば、第1話では、踏み切りを渡ろうとすると、向こうから渡ってきた人が落とし物をする。もちろん深瀬は拾って渡すのだが、その間に再びバーが下がって渡れない。しかも、大して感謝もされない。それでも正しい行ないをしたのだ、と心に言い聞かせて自尊心を保とうとする姿が、実に切ない。また、転がってきたサッカーボールを蹴り返そうとすれば、天井や壁にバウンドし、自分にぶつかりそうにもなる。善人であろうと行動するほど、巡り巡って自分に災いとなって返ってくる。そんな深瀬の宿命を示唆しているかのようだ。


 だが、そんな深瀬にもたまにはいいことが起きる。コツコツと続けてきた勉強は大学デビューのきっかけをくれた。といっても、自分自身が変わったわけではない。唯一の親友ができたのだ。それが、広沢由樹(小池徹平)だった。そして将来有望で活動的な、いわゆる学校ヒエラルキーの頂点にいるようなメンバーとゼミ仲間にもなれた。明るい性格でリーダーシップのある谷原康生(市原隼人)、なんでもそつなくこなすクールな浅見康介(玉森裕太)、議員の父を持つセレブな村井隆明(三浦貴大)、そしてマドンナ的存在の村井の妹・明日香(門脇麦)も。自分も派手ではないけれど、真っ当に生きていればいいことがある。やはり善人として生きてきてよかった……深瀬がそう思えたときこそ、次の瞬間に落とし穴が待っているのだから、このドラマはしんどい。


 苦戦した就職活動で、ようやく手にした内定通知。大喜びで親友の広沢に報告するも、ちょうどその日に広沢は不合格の知らせをもらったばかりだったと、タイミングは最悪。浮かれたばかりに親友を傷つけたと反省するも、ゼミ仲間とのスノボ旅行となると、またもや深瀬は浮かれてしまうのだ。一つひとつの行動は、誠実に対応しようとするのに、最終的に“どうしてこんなことに”というのが、深瀬の行動パターン。その結果、たったひとりの親友・広沢は行方不明になり、半年後に遺体となって発見されてしまう。


 それから10年しても、深瀬の性格は変わらない。数少ない特技である、おいしいコーヒーを淹れることで、職場の仲間になんとか入り込む姿は、大学時代と同じだ。心許せる友人はおらず、もちろん恋人もいなかった。そんなときコーヒー専門店『クローバーコーヒー』のマスター夫婦のはからいによって、越智美穂子(戸田恵梨香)と付き合うことに。広沢と過ごしたとき以来の、潤いのある日々に浮かれる深瀬。ああ、このパターンは……という視聴者の予想を裏切らず、“深瀬和久は人殺し”と書かれた告発文が幸せな毎日に水を差す。


 しかも、今いちばん失いたくない存在の美穂子のもとへと届くのが、イヤミスらしいところ。隠すことは裏切ること。美穂子に嫌われたくない一心で、自分を正当化しながら10年前の秘密を話す決意を固めた深瀬。そして、広沢が行方不明になったスノボ旅行の様子が語られた。深瀬の記憶として……。


 パーキングエリアで浅見がふざけて深瀬の肩を押して道行く女の子にぶつかったり、村井の別荘にあった豪勢な焼肉セットを深瀬が「これ村井のお母さんが用意してくれたのかな?」と何度聞いても誰も答えてくれなかったり。細かな言動が、仲間ではあるがヒエラルキーが確実に存在していることを感じさせる。とはいえ、地味グループにいた深瀬にとっては気にするほどのことでもなかった。


 だが、深瀬が谷原のすすめるビールを飲めないと、断ったところで空気が変わる。「体質なんだから仕方ない」と、深瀬をかばい自分もビールを飲まないという広沢。「体質じゃなくて、性格の問題」と、眉間にしわを寄せる谷原は、なぜか昼間に単独行動をしたり、明日香と仲がいい広沢を責め始める。谷原の気を収めるべく、ビールを飲むことにした。そんな空気が読める広沢が、なぜ単独行動をしていたのか。その真相は“深瀬の記憶”では、明確になっていない。


 遅れて合流する村井を、やむを得ず広沢が飲酒運転で迎えに行ったこと。そして、誰からともなく飲酒をしていた事実は警察に話さないという空気が生まれたこと。思い出せる限りの事実を伝えるも、その誠意は美穂子に伝わることなく、距離が生まれてしまう。それどころか、当時この事故(と処理されている事件)の担当刑事だった小笠原俊雄(武田鉄矢)に追いかけられる深瀬。「もう出るんで」と車に乗り込み逃げようとした瞬間、小笠原も助手席へ。「乗らないでー!!」という悲痛な叫びは、滑稽なほどの動揺だった。物理的な行動を拒む以上に、精神的な追い込みに参ってきている証拠だろう。


 不自然な形で捜査が打ち切られた事故。「誰かが事件ではなく事故で処理したがっているのだ」と小笠原はにじり寄る。友人たちへの疑惑が徐々に深まっていく深瀬。自分の記憶は、果たして真実なのだろうか。善意のつもりが悪意につながっていたと気づくほど、恐ろしいものはない。次週、告発者によって最初の犠牲者が出るという。ストーリーの結末が気になるのはもちろんだが、藤原扮する深瀬の事件に翻弄される姿が楽しみだ。(佐藤結衣)