今シーズン、チームを移籍し、3シーズン目のスーパーフォーミュラを迎えた小林可夢偉。開幕戦の鈴鹿では金曜日の占有走行で4番手タイムをマークして幸先のいいスタートに見えたが、予選でトラブル発生。それでも決勝ではさすがの存在感を見せた可夢偉。レースを終えた感想と、KCMGのチーム代表に話を聞いた。
昨年まで2シーズン過ごしたチームルマンから今季、KCMGへと移籍した可夢偉。その移籍のきっかけは、KCMGの代表を務める土居隆二氏の存在があった。土居代表が話す。
「可夢偉とはフォーミュラ・トヨタの頃から知っていて、FルノーのマカオGPでも一緒だったり昔からよく知っている仲でした。可夢偉の方もウチに興味を持ってくれていたみたいで、僕からも声を掛けて、周りの環境も整ったところで移籍が実現しました。ウチは1台体制でメーカーのワークスチームでもなければスーパーGT500に参戦しているわけでもない。そういう環境をすべて理解して可夢偉は来てくれたんです」
KCMGは昨年のチームランキングが最下位で、今年で8年目を迎える未勝利のチーム。それでも可夢偉は開幕戦の金曜日占有走行から4番手タイムをマークし、クルマのポテンシャルの高さを示した。
予選でも上位進出の可能性が見えたが、Q1ではギヤシフトのトラブルを抱え、その状態でアタックに入ったが、アタック終盤に燃料系のトラブルが発生してコントロールラインを通過せずにピットへ。日曜日のフリー走行でも4番手タイムをマークし、改めてKCMGと可夢偉のパッケージの可能性を感じさせた。
レースでは18番グリッドから得意のスタートを決めて、1周目を終えて11番手にジャンプアップ。前の2台がピットに入ったとは言え、コース上で4台をかわしたのは、オーバーテイクが難しい現在のスーパーフォーミュラでは驚きとも言える。
その後も果敢に前のマシンにオーバーテイクを仕掛け、注目を集めるピエール・ガスリー(TEAM MUGEN)をオーバーテイクするなど見せ場を作った可夢偉。入賞まであと一歩の9位フィニッシュながら、予選をきちんと走れていれば・・・と期待を感じさせる開幕戦の内容だった。
それでも、レースを終えた可夢偉に喜んでる雰囲気は感じられない。
「オフのテストでも全然走れていないですし、今回は本当、チームが作ってくれたクルマのお陰だと思います。テストでもっと走れていればと思いますが、それはまあ、過去の終わったこと。ガスリーとのバトルは向こうもタイヤがタレて厳しそうだったけど、オーバーテイクして離していったのには驚いたんじゃないですかね。早く(中嶋)一貴のようなタイムを出せるようにクルマを仕上げたいですが、スーパーフォーミュラはそう甘くはないカテゴリーですからね」と慎重な可夢偉。
■小林可夢偉のいちばんの強み
WEC(世界耐久選手権)に参戦する可夢偉は、事前の鈴鹿、富士の公式テスト4日間のうち1日しか参加できておらず、今年の新しくなったヨコハマタイヤについても「グリップが高くなっていいタイヤになったと思います」と述べるにとどまったが、セットアップを含めてライバルよりも走行時間が少ないのは大きなハンデになっている。
KCMGの土居監督は、それでも可夢偉の姿勢に感謝の言葉を述べる。
「時間がない中でも、ファクトリーまで足を運んでくれてしっかりとコミュニケーションを取ってくれる。(WEC)スパ6時間のあとも、帰国後にひとっ風呂浴びたらすぐウチのガレージに来てくれると言ってくれていますし、とにかく可夢偉は速いだけじゃなくてGP2のパルマでもF1のザウバーでも見てきましたが、チームに好かれるんですよね。その人間性がすごいところだと思います」と土居監督の可夢偉への信頼は厚い。
その土居監督に今年の目標とコース上での可夢偉のいちばんの強みを聞いた。
「まずは予選Q3に安定して残ることですよね。そして可夢偉のすごいところは、とにかく慌てないことです。レースは想定外が起こりやすいですが、可夢偉は慌てたり焦りを見せませんし、ドライバーが焦らないとチームも落ち着いて対応できる。可夢偉も自分で話していますが、これまでの経歴でトップチームに所属したことがほとんどないんですよね。そこでいろいろなことが起きたんだと思います(苦笑)。そこで腐らずにやってきたから経験も豊富だし、引き出しが多いし、人間的にもチームやファンに好かれる。そこが可夢偉のいちばんの魅力ですよね」
チームと可夢偉はまだ開幕戦の1戦を終えたばかりだが、お互いの信頼の厚さを感じさせた。レースでもガスリーや伊沢拓也(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)と見せた可夢偉らしいバトルからも、KCMGと可夢偉が目標を達成する日は、意外と近いかもしれない。