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Flower×レーベルスタッフ特別対談 グループの最大の強みは「パフォーマンスとボーカルの黄金比」

2017年04月23日 10:03  リアルサウンド

リアルサウンド

Flower

 6人組ガールズグループとして、LDH内でも音楽シーンにおいても独自の立ち位置を築いてきたFlowerが、4月26日に14thシングル『MOON JELLYFISH』をリリースする。同作は13thシングル『モノクロ/カラフル』とはまた別の世界観で、ベスト盤『THIS IS Flower THIS IS BEST』以降のモードを新たに示す作品に仕上がっている。これまでリアルサウンドでは、ボーカル鷲尾伶菜やFlower楽曲において歌詞の大半を手がける作詞家・小竹正人氏を招いたインタビューを行ってきたが、今回はメンバー全員に加え、グループを初期からサポートするソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズの平井拓氏も参加したインタビューを前後編にてお送りする。前編ではグループのコンセプトやメンバーたちのクリエイティビティがどう養われているかといった表現論をベースとし、大いに語り合ってもらった。(編集部)


(関連:三代目JSBやFlower手がける作詞家・小竹正人が明かす、LDHアーティストとの“絆”


■幻想的な世界観の作り込みを意識し始めたのは「太陽と向日葵」(坂東)


ーーFlowerは現在、歌詞の世界観やライブパフォーマンス、MVの演出など、独自の色を持つグループへと成長しましたが、そもそも最初はどういったコンセプトのもとに立ち上がったのでしょうか?


平井拓(以下、平井):『EXILE Presents VOCAL BATTLE AUDITION 3 ~For Girls~』でFlowerの追加メンバーを選ぶことだけは聞かされていたものの、具体的なコンセプトはまだ知りませんでした。でも、一番最初に撮ったアーティスト写真は、当時10代のメンバーたちが少し大人びた風貌で写っているという、まさに今の原型のようなものだったことは覚えています。


重留真波(以下、重留):最初から「今後こういう活動をします」とハッキリ決まっているわけではなかったですね、スタートも舞台からでした。ただ、上京してきたメンバーも可能性にかけて色々な夢に向かってがむしゃらにやっていこうとしていて、ひたすら4人用に作ったダンストラックで踊ったり、演技レッスンもやったりと、とにかくできることを増やしていました。


中島美央(以下、中島):メイクに関しては、今より濃いもので付けまつ毛も強かったりと、かなり大人っぽさをアピールしていた記憶があります。


ーー「こういうグループとしてやっていけるかもしれない、この路線で進んでいこう」と確信したのはどのタイミングですか?


坂東希(以下、坂東):最初から「バラードで踊る」というコンセプトはあったものの、Flowerらしい、幻想的な世界観の作り込みを意識し始めたのは、小竹さんが初めて歌詞を書いてくださった「太陽と向日葵」のタイミングですね。そこまでは意識こそしていたものの、Happinessの対局というイメージくらいのものだったので、さらに深いところまで追求するようになったのは、小竹さんに関わっていただいたことが大きいと思っています。


藤井萩花(以下、藤井):「白雪姫」も多くの方にFlowerの世界観を知っていただけたという意味では、大きなターニングポイントですね。この曲の歌詞は小竹さんの世界観においても特別ですし、それは小竹さんの歌詞とFlowerの歌や踊りでしか表現できないことだと感じたので、自分たちでもすごくしっくりきたという感覚を覚えました。


ーーメンバーからは「太陽と向日葵」のタイミングがターニングポイントという話が出ましたが、平井さんとしても同じように感じているのでしょうか。


平井:そう思いました。あと、僕がレコーディングを主に担当しているので、鷲尾さんの変化は比較的分かりやすい距離にいると思うので、そこについても話してもいいですか?


ーーぜひ。


平井:3万人のオーディションで選ばれただけあって、もちろん最初から歌は上手かったんです。でも、歌が上手いかどうかと言っている段階って、まだ歌う事を生業にするレベルではないと思っていて。もはや上手いのはプロであるからこそ当たり前で、今は「良い歌を歌う」という段階にいますし、世界観を表現する力が格段に上がってきているんです。もちろんそこに到るまでには並大抵ではない努力もあって、歌い合わせで譜割りを決める時に、隣で鼻歌で歌っている瞬間にその成長を感じて勝手に嬉しくなることがあります(笑)。特にその進化を感じたのは、やはり「太陽と向日葵」のタイミングでしたね。


ーー以前に小竹さんへインタビューした際、パフォーマーとボーカルの両方へ歌詞の内容や表現する世界観を伝えるという話を伺いましたが、やはりそうするようになってから歌もダンスも表現の幅がグッと広がったんですね。


坂東:FlowerやE-girlsの楽曲はイメージ先行で出来ることも多いです。そこから小竹さんが素晴らしい歌詞を書いてくださって、私たちもその歌詞のキーワードや楽曲をもとにMVの案出しや振り付けの考案をさせていただきます。


藤井:そこにFlowerは感情を乗せる割合が多いのかもしれません。


ーー感情?


藤井:Flowerは、切なさや孤独などの強い感情を表現することが多いので、パフォーマンスにも自然と力強さが加わります。それをライブなどで全編にわたって表現できるのは、自分たちならではの強みだと思います。


ーーメンバーの中で案を出しながらMVや振り付けを作っていくということですが、次第にその中での役割分担みたいなものも生まれてきましたか?


坂東:そうですね。誰がどんなところを得意としていて、苦手な部分を誰が補うかというのは、感覚的に分かるようになりました。それは衣装や振り付けなど、何においても同じかもしれません。最近では各メンバーが色々なジャンルのアートに触れてインスピレーションを受け、「この世界観を自分ならどうやって表現できるだろうね?」と話し合うことも増えてきました。


重留:それぞれ得意ジャンルが違うことも大きいと思います。初めての単独ツアー『Flower LIVE TOUR 2015 “花時計”』が今のところ1番わかりやすいのですが、のん(坂東)は小さい頃からバレエをやっていて、手足が長い(佐藤)晴美はその特徴を生かした振り付けや女性らしい表現が上手い。私と(中島)美央はアクロバットが得意ですし、(藤井)萩花はピアノが演奏できたり。衣装に関しても、専属モデルをやっている萩花や晴美に任せたりします。


藤井:クリエイティブに関しては、それぞれ好きなものも育った環境も全く違うことを改めて知れるのがすごく楽しいです。観る映画のジャンルもアートの趣味も、聴く音楽も全然違うので、6人分の個性が混ざり合う。しかもそれぞれが積極的にインプットしているからこそ、自分も負けないように色々な作品を見たり、聴く音楽のジャンルを広げてみたりしています。なので、これからもどんどんFlowerが表現できるものは変わってくると思います。小竹さんの歌詞にはすごくストーリー性があるので、自分も深みを出せる表現ができるようになっていきたいです。


坂東:それぞれ自分の好きなものでFlowerに合うと思うものがあったら、みんなで話題にすることは多いですね。


藤井:この取材の前も、のんから「面白い映像クリエイターの方がいた」という話をされましたから。


ーー1人の価値観ではなく、混ぜることでより面白くなっていると。「経験を積む」という意味では、みなさんの歌っていた年齢より大人っぽい歌詞が多いわけですが、やはりキャリアを積むたびにその説得力が増していっているように思えるんです。そこもグループの個性ですよね。


鷲尾伶菜(以下、鷲尾):そうですね。ベストアルバムやFlowerのライブで過去の楽曲を歌い直したりしていくなかで、昔では出来なかった表現が、いまは出来るようになっているなと実感することもありました。だからといって当時の良さを完璧に消すのもよくないと思っているのですが、聴くにつれて色々な案が出てきたり「じゃあ次はこう歌ってみよう」と思わされることも多いです。その気づいたことに挑戦しつづけることで、新たなパフォーマンスを手にいれたいですね。


■深い表現力や洞察力をストイックに身につけて、可能性を広げていきたい(佐藤)


ーー先日追加公演を終えたばかりのツアー『Flower Theater 2016 ~THIS IS Flower~』では、個々の強みを生かしたパフォーマンスが練り直されていたり、鷲尾さんが話してくれたような「過去楽曲の再解釈」も多く行われていました。このツアーを通した発見のなかで、特に印象に残ったものはありますか?


藤井:今回のツアーでは晴美が「さよなら、アリス」を1人で踊っていたのですが、間奏のダンスも結構長めに時間を取っていて。あれを大掛かりな演出なしで、パフォーマンスのみで乗り切るのはFlowerにしかできないことだなと強く感じました。男性目線の歌詞をどう表現するのか気になっていたのですが、晴美は歌詞の延長線上にある、追いかけられる側の女性の気持ちーー彼女もまた苦しんでいるという新しい視点を用意していて、すごく面白かったです。


佐藤晴美(以下、佐藤):8×8(8カウントを8回)を1人で踊ると聞いて、最初はどうしようと固まってしまったのですが(笑)、そこから開き直って「これを今回の課題にしよう」と思いました。萩花さんがFlowerにしかない世界観があると言っていましたが、まさにその通りで。私も踊りながらその世界観にどれだけ助けられたか。音の中でどう自分が物語を作って表現しようと考えたときに、「ただの音だったらこういうストーリーは絶対付けられなかったよな」と思いますし、自分の中でもストーリーを組み立てながらパフォーマンスすることもできました。今回のツアーを通して、自分が表現したい事とFlowerのコンセプトがすごくマッチしていて、それがグループの魅力でもあることに気づくことができました。


藤井:前回も「let go again feat.VERBAL(m-flo)」で長いこと踊ってたよね。次は無音でやってほしいかも(笑)。


佐藤:それは大きな試練になりそう……(笑)。


重留:あと、パフォーマンスの特徴でいうと、Flowerって伶菜をストーリーの主人公にして、私たちが「主人公の感情」になりたがることが多いんですよ。例えば「人魚姫」では、苦しさを全面に出してみたり、ステージ全体を使って伶菜に向けた感情を表現してみたり。そういう視点で見ていただくと、「この表現はこういう感情なのかな」と想像できて楽しめると思います。基本は立って踊るのですが、感情が高ぶるとフロア(床技)に入ることも多いです。あと、一人ひとりがソロで踊るのを見て「この子はこういう表現をするんだ」とわかるので、ライブやツアーでの体験は貴重だなと改めて思いました。


藤井:ライブを通じて思った大きなことはもう一つあって。たまに「もうちょっと明るい曲をやった方がいいよね」とアドバイスをいただき、自分たちでも必要かもしれないなと考えることがあるのですが、今の立ち位置でもっと突き抜けることで、沢山の人にFlowerを理解してもらえると思っています。『Flower Theater 2016 ~THIS IS Flower~』でやったことにアートの要素をもっとプラスしていき、唯一無二のポジションを作っていきたいと強く感じました。Flowerにとって小竹さんの歌詞と鷲尾の歌は絶対的な強みですが、パフォーマーはしっかりとそれぞれの世界観をグループにも反映させて、自分たちがいる意味や表現する価値を強くしていきたいです。


ーー平井さんはそんな彼女たちの努力や葛藤を見て、何を感じましたか?


平井:以前はレコード会社のスタッフとして「もっとこういうことを」という要望を出していましたが、いまは個々のレベルが格段に上がって、そんな口を挟む余地はなくなりました(笑)。でも、彼女たちのパフォーマンスを見た上で、しっかり感想だけは言おうと思っています。メンバーがその感想に対して必ず何かを考えてくれていて、客観的に見てもアーティストとして素晴らしいなと感じます。「アーティスト」とは、言葉の通りアートを体現できる人を表すわけですが、そういう意味では6人ともすごく「アーティスト」然としているし、彼女たちと関わって仕事をするなかで嬉しいポイントですね。


重留:拓さんみたいに、パフォーマーの感想を言ってくれる人ってなかなかいないんです。もちろん伶菜と歌のことをしっかり話し合うことも多いのですが、昔ダンサーだったのかなというくらい、パフォーマーのこともしっかり見てくださっているんです。


平井:「歌」という抽象表現に対して、Flowerは実際に歌声と表現方法を音で担保するボーカリストと、視覚で歌うパフォーマーの両方がいるんです。そのアートフォームは本当になかなかないと思いますし、これだけ形のないものを形のあるように表現できるグループは中々いないのではないでしょうか。


重留:今のお話もそうですし、すごくメンバーと同じぐらいFlowerのことを考えてくださっていますし、理想的なアーティストとレコード会社スタッフの関係だと思います。アドバイスもいただけますし、ツアーをやる度に毎会場来て下さったりと、愛情をすごく感じます。


中島:確かに、振りを付ける時は歌詞をすごく読んで、伶菜の歌声もちゃんと聴いて、そこにどうやって体で気持ちを乗せようと考えるので、ちゃんと伝わっているんだと感動しました。


ーー今回は平井さんに参加いただいてるので、スタッフが思うFlowerの最大の強みについても訊かせてください。


平井:最大の強みですか……。いまは1つの点をピックアップするのが難しいくらい総合力が高くなったので、「パフォーマンスとボーカルの黄金比」だと思います。どちらかだけを抜き出しても成り立たない次元にいるというか。変な例えですが、カフェオレとして完成したものから、ミルクだけを抽出することはできないのと同じですよね。


ーーなるほど。今後もその黄金比を武器にして成長していくと思うのですが、そこにプラスしてFlowerが身につけていくべきものがあるとすれば?


平井:歌唱力やダンス力といったものではないことは間違いないですね。少し話が逸れるかもしれませんが、表現者とそうじゃない人の区別って「感じる力」の有無だと思ってるんです。例えば失恋の話を聞いた時に「あー、恋が終わったんだな」と思うことと、その向こう側にどんなストーリーや感情があるかを考えること、つまり提示された世界観をその額面通りに読み取るのではなく、背景までしっかり感じられることが表現者かどうかの境目な気がしていて。Flowerのメンバーはまさに現在が多感な時期であり、感性がどんどん鍛えられている瞬間だと思いますし、この20代の期間をどう過ごすかで今後のFlowerが芳醇なものになるのか乾いたものになるのかを決める気がします。


重留:私もそう思います。最初は言われた言葉の意味を100%理解できないことも多かったですが、20歳を超えるくらいから、自然と興味を持つことや知識も増え、一つの物事に対してもいろんな考え方ができるようになりました。もちろん、今は贅沢な環境をいただけているからこそ、勉強する時間が自分にはあるんだと思うので、それだけは忘れないようにしたいですね。


佐藤:今の拓さんの話を聞いて「Flowerに足りないものはなんだろう」と考えたのですが、これまでは歌詞を見て切なく感じたら、それに合わせて切ないものを表現していたんです。でも、これからのFlowerは「こういう風に表現したらどう受け取られるだろうか」とか「自分はこう思っていても、その気持ちを伝えるにはそのままの表現では足りないかもしれない」という風に、見ている人の目線に立ち、考えて表現する能力を鍛えなければと思いました。メンバーも全員大人になって感じることも増えてきたので、より深い表現力や洞察力をストイックに身につけて、可能性を広げていきたいですね。


藤井:拓さんもそうだし、今関わって力を貸してくださるスタッフさんたちが、インプットの重要性を理解してくれているのは、本当にありがたいことだと思います。アーティストとして日々色々な表現をしているなかで、こちら側の意図とはまったく違う捉えられ方をされることもまだまだ多いんです。しょうがないことではあるのですが、できるならば1人でも多くの方に自分たちの本意が伝わると嬉しいですよね。


重留:まさに今回のツアーはその課題を強く感じました。メンバーの中で「軸はブラさない」と決まっていたので乗り越えられましたが、色々な意見があるんだなと勉強になりましたね。


坂東:SNS周辺も含め、今がまさに時代の変わり目だと思うので、どんどん真っ白なところに飛び込まなきゃいけないタイミングだと思うんです。周りのスタッフさんが色々なことを考えてくれているので、私たちはチャンスをいただける限りはチャレンジしていきたいですし、出来るだけ色々な意見を交換したい。


藤井:MVについても、絶対に自分たちがちゃんと納得した上で「こういう作品を作りたい」と描いたものを形にしたいですし、一欠片も無駄にしたくないんですよ。時代の変化が迫ってきているとしたら、自分たちもどこかで変わったり進化するべきだと思うので、そのきっかけとなる存在になれるように頑張りたいです。コアなシーンでは面白いことが起こっているので、より多くの人たちが質の高いものを受け取れるようになればそれに越したことはないですよね。時代を先導する女性グループを目指していきたいですね。