2017年04月23日 08:44 弁護士ドットコム
地域特産の高級食材、高級家電、寄付金額の50%を超える商品券ーー。これらはすべて、所得等に応じた額の寄付「ふるさと納税」をすれば実質負担2,000円で手に入る品々だ。この「お得」感が好評を奏し、現在「ふるさと納税」の返礼品を比較するポータルサイトが人気を博している。
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しかし、この流れに「待った」がかかった。4月1日、総務省が返礼品の還元率を寄付額の3割以下にするよう基準を定めた通知を出したからだ。
通知ではプリペイドカード、商品券、電子マネー・ポイント・マイル、通信料金など、金銭類似性の高いものや、電気・電子機器、家具、貴金属、宝飾品、時計、カメラ、ゴルフ用品、楽器、自転車など資産性の高いものも送付しないよう求められている。
昨年、千葉県勝浦市が1万円の寄付で7,000円分を市内で利用できる「かつうら七福感謝券」を返礼品とし、それがネットオークションで転売される事態が相次いだことを受け、今年2月には高市総務相が同市を厳しく批判した。
総務省はこれまでも行き過ぎた豪華な品や金券、資産になりやすい家電などを返礼品としないよう呼びかけてきたが、対応したのは一部の自治体にとどまっていた。今回、改めて各自治体に明確な基準を示し、呼びかけたかたちだ。
これまで豪華な返礼品で多額の寄付を集めた自治体は少なくない。特に、使い勝手がよい商品券やポイント等は寄付を集めやすく、多くの自治体が返礼品として採用している。
企業の創業の地にちなんで寄付額の50%のDMMマネーを配布した石川県加賀市(2015年3月で終了)、寄付額の50%にあたる航空会社ピーチ・アビエーションのポイントとして配布している大阪府泉佐野市などは、インターネット上で話題となり、複数のウェブサイトで「お得」として紹介されていた。
しかし、中には千葉県勝浦市のように返礼品を転売をされたり、DMMポイントを返礼品とした石川県加賀市やTポイントを返礼品とした千葉県市川市のように、インターネット上などで「換金性の高いプリペイドカードに当たる」と批判され、提供を中止した例もある。
一方、金券ではなく、1万円の寄付で毛ガニ2匹が届く北海道八雲町、1万円の寄付であきたこまち25kgが届く茨城県稲敷市(2016年で終了)など、還元率が8割に届くような品を返礼品とする自治体も数多い。
喜ばれる返礼品を提供するほど、寄付が集まり、手元に財源が残る。結果として、総仕入れ原価が高くとも、多くの自治体が高い還元率を目玉に、全国から競い合うように寄付を集めているのが現状だ。
今回の通達に従えば、大半の地方自治体の豪華な返礼品は「自粛」をせざるを得ないだろう。ただ、通達はあくまでも「目安」。今後どうなるかは自治体次第だ。
今後、豪華な返礼品の競争は終局を迎えるのか。
ふるさと納税バブルが起こった背景と今後の展望を久乗哲税理士に聞いた。
久乗税理士は、そもそも地方自治体が豪華な返礼品で寄付を集めることに対し、違和感はないという。
「自治体への寄附の制度は昔からありましたが、積極的に活用されませんでした。また、中央集権的に地方交付税が決められることも問題点とされていました。その両方を解決するべく、ふるさと納税が制度化されたのです。
自治体としては、ふるさと納税の返礼品を地元特産品にすることによって、地元の産業振興に活用したいという想いがあるのではないでしょうか」
また、自治体に返礼品の還元率を抑えるよう締め付けることは、せっかくの努力に水を差すことになるのではないかと危惧しているという。
「ふるさと納税は、自治体が自らの発想でどうすればふるさと納税という寄附が集まるか、努力が必要なもの。したがって、高額の返礼品がされるとしても、そのこと自体は問題ではないと思います。
一方で、ふるさと納税の返礼品は、納税者にとっては所得税法の一時所得になります。高額の返礼品は、自治体への介入ではなく、納税者への適正な課税を持って対応するべきなのではないでしょうか」
豪華な返礼品競争が過熱した結果、還元率の高い自治体には寄付が集まる一方、多くの自治体で財源が流出し、「多くの道府県庁所在地は失う市民税が寄付受け入れ額を上回り、赤字になっている」という指摘もある。
「単純にいえば赤字になる自治体もあると思います。しかし、ふるさと納税は、そもそも地方の税収の偏在を是正するために導入されたこともあります。ふるさと納税により寄附が増える自治体もあれば、財源が流出する自治体もあることは制度設計時から想定されていたことです。
また、ふるさと納税により失った財源の75%は地方交付税として交付されることになっていますから、その全額の財源を失っているわけではないと思います」
納税者が豪華な返礼品を見比べて寄付先を選び、納税先を選ぶことが「自分を育んでくれた「ふるさと」に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度」に反しているという批判も多い。しかし、この「ふるさとへの寄付」についても久乗税理士は、“ただの分かりやすい例“と指摘する。
「本来の趣旨は、地方税収の偏在の是正。そのため、ふるさとでない地域に寄附をしても、趣旨に適しているはず。ふるさと納税の本来の制度趣旨が取り違われているのではないでしょうか」
今回の通達で終息するかに見えたふるさと納税バブル。しかし、返礼品がある限り、制度としては続いていくと久乗税理士は語る。
「今後は、総務省の指導にある割合を上限として今後も続くと思います。
加えて、私は、返礼品に上限を設けるのではなく、今まで通りの運用にするべきだと思います。そのうえで、返礼品については納税者の一時所得として、所得税の申告をさせるべきでしょう。
高額納税者が、ふるさと納税によって何百万円にも相当する返礼品を受け取っているのは、やはり問題だと思います。でも、それは自治体への指導で是正していく問題ではないのではないでしょうか」
【取材協力税理士】
久乗 哲 (くのり・さとし)税理士
税理士法人りたっくす代表社員。税理士。立命館大学院政策科学研究科非常勤講師、立命館大学院経済学研究科客員教授、神戸大学経営学部非常勤講師、立命館大学法学部非常勤講師、大阪経済大学経済学部非常勤講師を経て、立命館大学映像学部非常勤講師。第25回日税研究賞入選。主な著書に『新版検証納税者勝訴の判決』(共著)等がある。
事務所名 :税理士法人りたっくす
事務所URL:http://rita-x.tkcnf.com/pc/
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