2017年04月23日 08:44 弁護士ドットコム
千葉県八千代市で2016年11月、前方の危険を検知して自動的にブレーキがかかる「運転支援機能」がついた日産「セレナ」に試乗した男性客が追突事故を起こし、前の車に乗っていた男女2人がケガを負った。
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報道によると、メーカーの説明書には、「自動停止機能」は、雨が降って薄暗く、前の車が黒っぽい状況では作動しないことがあると記載してあり、事故当時は同じ状況だったという。ところが、同乗した自動車販売店の店員が「ブレーキを踏むのを我慢してください」と誤って指示をしたため、男性客はブレーキをかけなかったために事故が起きてしまった。
4月14日、店長と試乗車に同乗した店員が業務上過失致傷の疑いで、運転していた男性客も自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)の疑いで書類送検された。この事故を受けて、国土交通省は同日、次のように注意を呼びかけた。
「現在実用化されている『自動運転』機能は、運転者が責任を持って安全運転を行うことを前提とした『運転支援技術』であり、運転者に代わって車が自律的に安全運転を行う、完全な自動運転ではありません」
「運転者は、その機能の限界や注意点を正しく理解し、機能を過信せず、責任を持って安全運転を行う必要があります」
今回の事故は、自動ブレーキに関する誤った認識が原因だった。自動ブレーキが作動しなかったことが原因で事故が起きた場合、誰が責任をとるべきなのか。小林正啓弁護士に聞いた。
「このような事故を、私は『ひとりチキンレース』と呼んでいます。そのままでは追突する状況で、ブレーキを我慢して、自動ブレーキがかかるのが先か、自分が先かを『勝負』するという、馬鹿げた度胸試しという意味です。
現在市販されている自動ブレーキシステムは、決して完全なものではないですから、『ひとりチキンレース』のあげく人身事故を起こせば、過失運転致傷の罪に問われることは当然にも思われます。
しかし、今回のケースは、そう単純ではありませんし、自動運転技術に対して警鐘を鳴らしているようにも見えます」
「今回の事故で、『自動ブレーキが作動する』と誤信した責任は、第一に、販売店の店員にあります。店員から自信たっぷりに『ブレーキを我慢して』と指示されれば、一見の客が『必ず自動ブレーキが作動する』と誤信するのは当然といえます。
そうだとすれば、運転席にいた客に刑事責任はなく、指示した店員こそ、運転者としての責任を問われるともいえそうです。しかし、この場合、運転席にいなかった店員に運転者としての罪責を問えるのかという、刑法学上の難問が発生します。
また、今回の事故は『人間は自動システムを過信しがちである』ことに警鐘を鳴らしているともいえます。たとえば、最近の自動車は、暗くなるとヘッドライトが自動点灯するため、手動点灯方法を忘れてしまった人や咄嗟に思い出せない人が多いようです。
おそらく、同乗していた店員も、自動ブレーキシステムの性能を試したのは、今回が初めてではないでしょう。事故以前、自動ブレーキシステムが作動する様子を何回も見るうちに過信が生じて、客に『ブレーキを我慢して』と指示するようになったと想像します」
「自動システムへの過信から事故が起きた場合、過信した人間がその責任を問われることは当然です。しかし、自動システムを過信することが人間の性(さが)であるとすれば、システムを設計する側も、人間の性(さが)を前提とした設計をおこなう義務を負うといえます。
たとえば、米テスラの開発した最新のオートパイロットシステムは、運転手が手を常時ハンドルに置いておかなければ、警報を発してオートパイロットが解除され、減速・停止されます。さらに、警告に反応しなかったドライバーが、再度オートパイロットモードにしようとしてもできないという『ストライクアウト』システムを採用したといいます。
人の手を一切借りない完全自動運転に一挙に進むことは考えられません。したがって、当面は、人の手を借りなければ安全が確保できない『半自動運転』の時代が続くでしょう。
この時代には、人がシステムを過信することによる事故が頻発すると予想されます。そのような事故を減らすためには、運転者に対する教育も大事ですが、自動システムを過信しがちという人間の性(さが)に配慮した設計思想が求められていると考えます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
小林 正啓(こばやし・まさひろ)弁護士
1992年弁護士登録。ヒューマノイドロボットの安全性の問題と、ネットワークロボットや防犯カメラ・監視カメラとプライバシー権との調整問題に取り組む。
事務所名:花水木法律事務所
事務所URL:http://www.hanamizukilaw.jp/