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吉祥寺は音楽をどう愛してきた? 映画『PARKS パークス』サントラが伝える“匂い”

2017年04月22日 14:33  リアルサウンド

リアルサウンド

映画『PARKS パークス』オリジナルサウンドトラック

 吉祥寺は音楽の街、そんなイメージが広がったのは1960年代あたりからだろうか。吉祥寺を活動拠点にしたフォーク・シンガーたちが注目を集めて、彼らは「吉祥寺派」と呼ばれた。そして、現在も吉祥寺は音楽の街としての輝きを失っていない。ここ数年、注目を集める東京のインディー・シーンにおいても、吉祥寺は重要なエリアのひとつ。現在の吉祥寺の音楽シーンを俯瞰する絶好のサンプラーになっているのが、映画『PARKS パークス』のサウンドトラックだ。


(参考:映画『PARKS パークス』予告映像はこちら


 同映画は吉祥寺のランドマーク、井の頭恩賜公園の開園100周年を記念して制作されたもの。本作の企画を立ち上げた本田拓夫は、長い間、吉祥寺で愛され、2014年に惜しまれながら閉館した映画館、バウスシアターの元館長。『PARKS パークス』は吉祥寺への様々な想いが詰まった映画だ。その内容は、吉祥寺に住む女子大生の純、不思議な少女ハル、音楽スタジオで働く青年、トキオの3人が、ハルの父親が若い頃に作っていた曲を現代に甦らせようとする物語。音楽が映画のテーマになっているのが吉祥寺らしいところだ。


 そこで音楽監修を務めたのはトクマルシューゴ。これまでサントラや舞台音楽を手掛けてきた多才ぶりに加えて、10代の頃から吉祥寺のレコード屋やバウスシアターに通い、自身のレーベル、<トノフォン>のオフィスも吉祥寺に構えているだけに、本作にはうってつけのアーティストだ。トクマルは映画の企画段階から加わり、監督の瀬田なつきとアイデアを交換した。サントラに関しては、トクマルが吉祥寺にゆかりのあるアーティストをリストアップ。各アーティストの資料や音源を監督に渡して、参加アーティストを絞り込んでいった。そして、結果的に選ばれたのは実に20組を越えるアーティストたちで、そのうち何人かは映画に出演もしている。


 そのうちのひとりが、スカートというソロ・プロジェクトで活動している澤部渡だ。澤部はデビュー時から、吉祥寺のレコード・ショップ、ココナツディスク吉祥寺店でインストア・イベントをしてきた。ココナツディスク吉祥寺店は、これまで様々なインディー・バンドを積極的に紹介してきた吉祥寺の音楽シーンの重要なスポット。映画でライブを披露してサントラに参加したシャムキャッツも、ココナッツディスクにゆかりのあるバンドだ。そんな重要な店だけに映画にも登場している。


 そして、もう1カ所、映画に登場する吉祥寺の重要な音楽スポットが、レコーディング・スタジオ、Gok Soundだ。スカートをはじめ、Gok Soundでお世話になっているアーティストは多い。映画ではGok Soundに集うアーティストとして、トクマルシューゴをはじめ、Alfred Beach Sandalこと北里彰久や、高田渡を父に持つ高田漣が登場。それそれがサントラに曲を提供している。また、映画に登場するバンド、Jurassic Parksのメンバーのひとりを演じているシンガー・ソングライター・井手健介は、映画が誕生するきっかけとなったバウスシアターの元スタッフ。同じくメンバーのひとりを演じている鍵盤奏者、谷口雄(元・森は生きているのメンバーで、現在は1983のメンバー)は、吉祥寺で生まれ育った生粋の「吉祥寺派」だ。


 そのほかサントラには、大友良英、NRQといった、ジャズをベースにしながらジャンルを越境するアーティストも参加。吉祥寺はジャズの街でもあることを思い出させてくれる。また、主題歌の相対性理論「弁天様はスピリチュア」は、解体される直前のバウスシアターでレコーディングした曲がもとになっていて、現在は井の頭公園の100周年記念放送として、毎日、園内放送で流れている。映画の主題歌であると同時に、井の頭公園のテーマ曲でもあるのだ。


 本作に集結したアーティストたちはそれぞれに個性豊かだが、共通する匂いがあるとすれば、過去の音楽としっかりと繋がっていて、都会的なモダンさとローカルなアットホームさが、ほどよく混ざり合っているところだろう。それは都心からの距離感とも関係しているのかもしれない。公園をそぞろ歩くように、吉祥寺の音楽シーンを垣間みることができる『PARKS パークス』のサントラ。このアルバムをガイドブックがわりに、吉祥寺のレコードショップやライブハウスを訪ねてみるのもいいかもしれない。そうすれば、吉祥寺という街がいかに音楽を愛し、音楽に愛されているかが伝わってくるはずだ。


(村尾泰郎)