2017年04月21日 10:14 弁護士ドットコム
高齢者からお金をだまし取った罪に問われている男性が、その一部を隠して脱税したとして、東京国税局からこのほど、法人税法違反の疑いで刑事告発された。
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報道によると、この男性は、横浜市にある寝具販売会社の実質的経営者だった。訪問販売で布団を押し売りされたことがある高齢者に「布団を買ってくれたら業者からの勧誘を止められる」と持ちかけて、お金をだまし取ったとして、昨年、逮捕・起訴されていた。
男性と販売会社は、だまし取ったお金のうち、約1億6000万円を従業員名義の裏口座に隠すなどして、約4000万円を脱税していたという。お金は競馬やカジノにギャンブルに使っていたとみられる。
そもそも、どうして犯罪など、違法な方法で手に入れたお金が課税対象となるのだろうか。本来ならば、被害者に返すべきものではないだろうか。久川秀則税理士に聞いた。
「所得税法では、課税所得の定義において、合法な方法で得られたかどうかについて、特に定めがありません。
すこし難しくいえば、所得税の課税対象の所得概念においては、合法か違法かを問わず、源泉を問わず、形式を問わず、所得税の課税対象となる『所得』に該当すると解釈されています。
したがって、そのお金が合法な方法で得られたものであっても、違法な方法で得られたものであっても、所得税法上は、課税の対象となる『所得』となります。もちろん、単に、他人からお金を預かっているだけなら、『債務』であり『所得』とはなりません」
本来ならば、被害者への返金にあてられるべきお金ではないだろうか。
「もちろん、国が被害者に返金するために、財産を没収するということも立法論としてありえるでしょう。
ただ、現行の制度上は、被害者が民事訴訟によって、相手側に対して、不法行為の損害賠償請求や不当利得の返還請求などで返還を求めることになります。
もし仮に、裁判所の判決を受けてもなお、相手側が返還しない場合には、原告が申し立てることで、裁判所の差し押さえなど、強制的に取り立てることになります。なお、そうした一連の手続きは、司法の分野となり、国税局でおこなうものではありません」
今回のケースについてはどうだろうか。
「国税局はおそらく、脱税で摘発された会社が、裏の口座を持ち、そこにプールしていた違法なお金について、実質的経営者が競馬などギャンブルに費消している事実があったことから『所得』と認定して、課税せざるをえないと判断したのだと思います。
逆に、所得と認定せずに、所得税などを課さないとすれば、そのだまし取ったお金は、『所得』ではなく、単に預かっていただけということになります。
ということは、なんとか弁済さえすれば脱税犯を問われない、ということになってしまいます。現に、ギャンブルなどの遊興に費消している現実がありながら、脱税について問われないことは、大変に甘すぎる処分になるといえます」
被害者の救済されないおそれが高まるのではないだろうか。
「もちろん、被害者の損害は救済されるべきですので、この課税をおこなってしまうことで、被害者の救済されない被害額が増えてしまうところはあると思います。
おそらく、国税局の刑事告発など、一連の動きの中で、地検も交えて、『今回の事件については、脱税犯として立件すべき』で、『被害者への弁済の問題については、課税処分に特段に配慮すべきでない』という判断があったということだろうと思います。
そして、脱税と考えられる収入が、本人の自由裁量で処分可能な『所得』なのか、単に他人の金を預かっている『債務』なのかによって、課税されるか否かが決まってきます。
国税は、あと付けで『債務なのでお金を返します』というような、虫のいい言い訳は、基本的に聞いてくれません。脱税事件の処分は『本当に厳しい』ということを読者のみなさんもよく知っておいていただきたいです」
【取材協力税理士】
久川 秀則(ひさかわひでのり)税理士
青山学院大学文学部英米文学科を卒業、平成7年に東京国税局入局、外資系の銀行や証券会社の税務調査など国際課税畑を長く経験、同局法人課税課で源泉所得税審理係長を務めるなど税法通達に精通、平成19年に退職して税理士登録、幅広い税務に精通するだけでなく、中小企業経営や資金調達などにも専門分野を広げ、多方面で活動している。
事務所名 : 税理士法人 原・久川会計事務所(平塚橋事務所)
URL: https://www.zeikei-support-tokyo.com/
(弁護士ドットコムニュース)