2017年04月20日 16:53 リアルサウンド
先週末の動員ランキング、トップ10に初登場した作品は『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』、『映画クレヨンしんちゃん 襲来!! 宇宙人シリリ』、『ReLIFE リライフ』、『グレートウォール』の4作品。国内アニメ作品のシリーズものである前者の2作品は300スクリーン以上、後者の2作品は200スクリーン前後と公開規模の差もあるが、スクリーン数以上にはっきりと前者と後者で明暗が分かれている。
参考:初登場3位『ゴースト・イン・ザ・シェル』、「母国」日本での興行を世界はどう見た?
368スクリーンで公開された『名探偵コナン』シリーズ最新作『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』は、土日2日間で動員98万8000人、興収12億8700万円という、現在のところ今年ダントツの目を見張るような好成績を記録。同シリーズが実は国内アニメ作品のシリーズものとしては異例なほど大人の観客から支持されていることは昨年の同時期の当コラム(「シリーズ最高のヒットに向けて『名探偵コナン』ロケットスタート 実は支持層は20代の大人?」http://realsound.jp/movie/2016/04/post-1504.html)でも記した通りだが、同じ東宝配給、同じアニメ作品の『クレヨンしんちゃん』シリーズと12年(!)連続で同週末に公開されていることからも、客層が重ならないという明確なリサーチ結果があるのだろう。『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』の先週末の動員は、シリーズ最高の最終興収63.3億円を記録した昨年の「名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)」と比較して105.7%と現在も着実に上昇傾向にある。ファンの間での今作への評価も高く、2年連続でシリーズの最終興収記録を塗り替える可能性が濃厚だ。
さて、今回注目したいのは、先週末に203スクリーンで公開されて、動員5万4000人、興収6800万円で初登場8位となった『ReLIFE リライフ』。主演は昨年から『四月は君の嘘』、『きょうのキラ君』とこのところ立て続けにいわゆる「ティーンムービー」に出演してきた中川大志と、『青空エール』、『キセキ ーあの日のソビトー』、『きょうのキラ君』、『サクラダリセット 前篇』、『暗黒女子』と同じく「ティーンムービー」の常連となっている平祐奈。両者は所属事務所こそ違うが、近年は明確にテレビドラマへの出演よりも「ティーンムービー」への出演を優先してきて、それらの作品で徐々に大きな役を演じるようになってきたという点において共通している。
中川大志も平祐奈も個性、実力ともに備わった魅力的な役者だが、その出演歴が示す通り、きっと20代以上の人で名前と顔が正確に認識できる割合はかなり少ないはず。つまり、彼らはかなり世代が限定された世界における「主演スター」と言える。しかし、そのような役者としての戦略が機能するのは、「ティーンムービー」が日本映画界においてブームと呼べる状況にあった昨年までだったと言わざるをえない。というのも、特に今年に入ってから公開されている「ティーンムービー」は、興収において目に見えて苦戦が続いているのだ。
少女コミックが原作の作品だけでなく、その「ティーンムービー」の範疇を少々広げてみても、今年公開されて動員ランキングのトップ3に入った作品は、『キセキ ーあの日のソビトー』、『一週間フレンズ。』の2作品のみ。それ以外では東宝作品の『チア☆ダン ~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』と『ひるなかの流星』がスクリーン数の多さも要因となってそれなりの数字を残してはいるが、いずれも昨年の同じ傾向(製作に入っているテレビ局との座組やキャスティングなど)の作品と比べて動員も興収も減少している。
その理由ははっきりしていて、現在の興行において、「ティーンムービー」は明らかに供給過多な状況にあることだ。事務所が売り出し中の若手俳優中心のキャスティングで、極端な作品ではシチュエーションはほぼ学園内のみと、他のジャンルの作品に比べて大幅に安上がりな製作費で作品が作れてしまう「ティーンムービー」。2、3年前から目立ち始めた好調な作品に続けとばかり、各映画会社はこぞってこのジャンルの作品を量産してきたわけだが、ティーンの観客数は当然のように有限である。
現在それなりの規模で公開されている作品だけでも、『ReLIFE リライフ』、『暗黒女子』、『PとJK』、『サクラダリセット 前篇』、『ひるなかの流星』、『3月のライオン 前編』、『チア☆ダン ~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』と実に7作品が公開中(驚くべきことに平祐奈はそのうち3作品に出演している)の「ティーンムービー」。各時期に1本か2本だったら観客も同一作品に集中することはあるかもしれないが、これではティーンの観客が分散して当然。「ティーンムービー」に関してはジャンルごと絶滅してしまわないためにも、各映画会社、各事務所ともに早急な戦略の見直しが必要だろう。そんなことを指摘されるまでもなく、もうとっくに水面下では見直しが始まっているとは思いますが。(宇野維正)