「ポールポジションからスタートしたはじめてのレースだったのに、今日はあまりいい一日ではなかった。スタートでタイヤの内圧に問題があったんだ。理由は詳しく聞いていないんだけど、とにかくリヤがオーバーヒートしてオーバーステアに悩まされた。2周目からはずっとスライドしていたよ」
自身初のポールポジションからスタートし、3位に終わったバルテリ・ボッタスの敗戦の弁である。いったい、何が起きたのか? トト・ウォルフ(エグゼクティブディレクター/ビジネス)は、レース後、次のように説明した。
「スターティンググリッド上で問題が発生したんだ。ジェネレーターが故障していたため、バルテリのタイヤウォーマーが作動していなかった。それで、スタート直後からタイヤの内圧が想定よりも高くなってしまった」
予選トップ10のドライバーはQ2でベストタイムを記録した際に装着していたタイヤでスタートすることが義務付けられている。そのタイヤはグリッドに着くためのレコノサンスラップではまだマシンに装着されず、タイヤウォーマーに包まれて、スターティンググリッド上で温められている。グリッド上にはガレージ内のように電源がないため、発電機を使用しているのだが、今回はそれが働いていなかったというわけだ。
つまり、ボッタスはタイヤが冷えた状態でスタートしたのだった。それでは、なぜタイヤが冷えていたのに、ボッタスのリヤタイヤはオーバーヒートし、さらに内圧が急激に上がったのだろうか。スポーティングディレクターのロン・メドウが詳しく解説してくれた。
「タイヤウォーマーにスイッチが入っていなかったために、確かにバルテリがスタート時に履いたタイヤは冷えていた。スタートまで5分ぐらいだったので、われわれはタイヤを温めることを断念した。
ただし、レギュレーションでスタート時のタイヤの最低内圧が定められているため、われわれは冷えたタイヤの状態で内圧を推奨されている設定値まで上げなければならなかった。
通常であれば、タイヤの温度が80℃から100℃の状態で内圧を設定値のプレッシャーにするので、走り始めても内圧はそんなに変化しないのだが、バルテリはタイヤが冷えた状態で内圧を規定通りに設定しなければならなかったため、スタート直後にタイヤの温度が上昇するとともに、内圧も急激に上がってしまったんだ」
メドウによれば、タイヤウォーマーは4輪とも機能していなかったという。それなのに、リヤの内圧だけが急上昇したのは、バーレーンのサーキットがトラクションを必要とするリヤリミテッドだったからだと説明した。
この日、メルセデスAMGが犯した設備の不備はもうひとつあった。それはタイヤ交換用のエアガンがきちんと作動しなかったことだ。メドウはこれについても、次のように状況を語ってくれた。
「何らかの原因で、ガンツリーの電気系に問題が生じ、エアガンを作動させる空気圧が正常に働らかなくなってしまっていた」
これが原因でメルセデスは2台ともストップ時間が余計に掛かってしまい、さらにはエアガンのトラブルとは直接的ではないにしろ、ダブルピットインの際にルイス・ハミルトンはピットロード入り口で余計なスロー走行をし、5秒のタイムペナルティを食らう3つめのミスを起こしてしまった。
バーレーンGPのメルセデスAMGは、レース序盤はボッタスがセバスチャン・ベッテルから、1回目のピットストップ直前にはハミルトンはダニエル・リカルドからプレッシャーかけられていたが、じつは2人から勝利を奪ったのは、別の「プレッシャー」が理由だったわけである。