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欅坂46はデビュー後1年でどう成長したか 代々木公演にみた“総合力”の向上

2017年04月17日 15:02  リアルサウンド

リアルサウンド

欅坂46『デビュー1周年記念ライブ』の様子。

 欅坂46が4月6日に国立代々木競技場第一体育館で行なった『デビュー1周年記念ライブ』は、けやき坂46やスタッフ、ファンも含め、1年で培った“総合力の高さ”を感じさせる公演だった。


 デビューから1周年が経ち、4枚のシングルでいずれも違った表情を見せてきた欅坂46。12月に有明コロシアムで行なわれた初ワンマンは、MCも極力排除し、演出と振り付け、楽曲の力強さで見るものを圧倒した公演だったことは記憶に新しい。しかしこの日は、祝祭的なムードも交えつつ、先輩グループである乃木坂46のバースデーライブにも似た様相で、1stシングル『サイレントマジョリティー』から最新作『不協和音』まで、順を追ったセットリストでライブが進行していった。本稿では、そのなかで特に気になったポイントと、幕間に公開された撮り下ろしインタビュー映像の発言をピックアップしながら、グループの現在地を記したい。


「こんなに辛いと思わなかった」(平手友梨奈)


 そんな平手の独白から、スタジアム級のクラブアンセムのようにファンがシンガロングする「overture」を経て、デビュー曲「サイレントマジョリティー」を披露するところからライブはスタートする。彼女たちの1年目は、「サイレントマジョリティー」でアイドル・音楽シーンに衝撃を与えるところから幕を開けた。センターに立つ平手は、いくつもの重圧と戦い、押しつぶされそうになりながら、1年間の4作でセンター・グループの象徴としての役目を果たし、このステージを迎えている。


 欅坂46については、平手1人に物語を背負わせようとする論が目立つが、決してそんなことはない。その重さや辛さは、メンバー全員がしっかりと支え合って乗り越えてきたものだ。そんな意思を映し出すように、ステージサイドのビジョンには、けやき坂での結成1周年直前ライブや『TOKYO IDOL FESTIVAL 2016』でのステージ、先述の有明コロシアムワンマンなど、彼女たちが1年で駆け抜けた舞台でのパフォーマンスが映し出されていた。


「自分はどっちかを選べないし、どっちにも居場所があるって幸せなことなのかもなって思いました」(長濱ねる)


 ライブ前半では、欅坂46において平手に次ぎ大きな物語を背負わされたメンバー・長濱ねるにフォーカスが当たる部分も目立つ。両親の反対により一時はオーディションを辞退したものの、乃木坂46のコンサートを共に観覧することで最終的には許しを経て、少し遅れてグループへ合流し、けやき坂46結成のきっかけとなった彼女。その間に『欅って、書けない?』(テレビ東京)で欅坂46との兼任が発表され、メンバーの多くが涙したことも含め「欅坂46は長濱ねるも入れて21人選抜」という、ファンやメンバーとの絆も生まれた一年だった。


 この日は「手を繋いで帰ろうか」の後にステージへ登場するが、彼女以外のメンバーがステージから姿を消し、バスが走り去る演出から「乗り遅れたバス」がスタート。続いて幕間の映像で先述の発言を含めたインタビュー映像が流され、けやき坂46による「ひらがなけやき」、長濱のソロ曲「また会ってください」が歌い上げられた。自身の経歴も活かし、現在はゴールデンのクイズ番組に数多く出演するなど、グループの認知をさらに広げる役目を果たしている長濱。けやき坂46の活動も含め、2年目以降のグループについても、引き続き彼女が鍵を握る存在であることは間違いない。


「いま1列目に立ったら、下がっていく方の人間だと思っちゃってる」(小林由衣)


 欅坂46がライブ前に円陣で掲げる言葉は、「謙虚! 優しさ! 絆! キラキラ輝け欅坂46!」というものだ。そのコンセプトを一番体現しているのが、今泉佑唯と小林由依によるユニット“ゆいちゃんず”なのかもしれない。どこか大人しく柔らかな印象を受ける彼女たちが、得意とするギターを手に、2人だけのハーモニーを奏でる。デビュー前の2016年1月30日、同じ代々木第一体育館で行なわれた『ALL LIVE NIPPON Vol.4』でのグループ初ライブ、1曲目でステージに立ったのはこの2人だった。当時は持ち曲もなく、カバー曲を披露したゆいちゃんずは、今やグループ内で最も持ち曲の多いユニットとなり、この日も「渋谷川」「ボブディランは返さない」「チューニング」と、それぞれテイストは違うものの、いずれもアコギの音色が心地よい楽曲で会場を優しく包み込んだ。


 欅坂46は、ともすれば歌詞や衣装から“反体制的なコンセプトをもつアイドル”と括られることが少なくないが、もしかすると、根本には総合プロデューサーである秋元康がAKB48「翼はいらない」のMVをはじめとして度々表現する“フォークの精神”があるのかもしれない。そのエッセンスが他の48・46グループよりも色濃く反映されているのは、表題曲以外にも、このユニットが存在するという要素も大きいだろう。


「最初は自分が与えていただいた(二列目中央)というポジションの意味がわからなくて。(中略)キャプテンに任命いただいて、ちゃんとしなきゃという意識が芽生えた。こんな私でも、欅坂の力になれるなら何でもしたい」(菅井友香)
「後ろにも前にも横にもメンバーがいるのは大きい。グループを一番把握しやすい真ん中を与えていただいていたのかなと思います」(守屋茜)


 グループの絆と調和については、先日キャプテンと副キャプテンに任命された菅井と守屋がもたらしている部分も大きい。どこかおっちょこちょいな菅井と、情熱的な守屋は、正反対に見えてグループ随一の“真面目さ”を持ちあわせている2人だ。欅坂46は、全員がフロント経験者になるのかというくらい、毎作フロントメンバーが入れ替わる。だが、それでも不自然に見えないのは、常に菅井と守屋が中央にいる安心感からだろう。


「今まで3列目だったメンバーが『二人セゾン』でフロントに行ってから、ダンスもすごくキレが良くなった。というか色々レベルアップした」(長沢菜々香)


 こうして1年の節目を迎え、各曲のパフォーマンスを見ると、先述したようにフロントが毎作変わっているという面や、入れ替わりもなく21人選抜がずっと続いていることも含め、他のグループにはない団結力の高さを感じる。それは演出に関しても同じだ。渡辺梨加を主役とする「キミガイナイ」では、無数の球体照明がプログラミングされ、幻想的な風景を演出。曲前には歌詞にも記されているマーラーの交響曲が流れるなど、歌詞と連動した演出が行われたり、「僕たちの戦争」では、現役美大生メンバーである佐藤詩織の手がけるグラフィックを画面に投影するなど、各メンバーになるべくスポットを当てようという気概も見ることができた。


 演出のハイライトは、メンバーが昨夏放送のドラマ『徳山大五郎を誰が殺したか?』(テレビ東京系)内での制服衣装を着て歌唱し、曲中には1年の思い出が詰まった写真がビジョンに映し出された「制服と太陽」といえるだろう。全体としては、昨年のワンマン同様、48・46グループ内で唯一の演出として、各楽曲のクレジットが作詞作曲だけではなく、編曲までしっかりとビジョンに表示されていたのも興味深い。こと日本のポップスにおいて、歌番組などでは編曲家のクレジットが表示されることはなかなかない。クリエイターの顔をしっかりと立て、フックアップしてみせる欅坂46チームの姿勢は、近い将来アイドル・J-POPシーンにおけるパワーバランスを変容させてくれると信じたい。


「初めて“ダンス曲”に挑戦したのが『語るなら未来を……』で、ダンスを覚えるのが大変で時間もなくて、ボロボロな状態でした。楽しい時間を一緒に過ごすのも大事ですけど、辛い時を乗り越えたから一つになったと感じます」(齋藤冬優花)


 「サイレントマジョリティー」で大きな話題を呼んだTAKAHIROによる振り付け。以降どの楽曲でも、彼による歌詞の世界観を最大限に表現したコレオグラフが付けられており、この一年でどのグループにも負けない強靭な武器となった。そのダンス面の核となるメンバー・齋藤冬優花は、TAKAHIROから絶対的な信頼を受け、「語るなら未来を……」のMV撮影では彼と意見交換をしながら、各メンバーに振りの意図を伝えるなど、パフォーマンスの底上げにも大きく貢献している。


 本編ラストに披露された4thシングル表題曲「不協和音」は、その努力が結実した楽曲といっていいだろう。格闘技にも似たハンドスタイルを多く取り入れ、これまでよりも数段飛ばしで難易度が上がった振り付け。MVはカット割りが細かく、テレビ番組でも寄りの画が多いが、ライブで見ると改めてその難しさに驚くとともに、「不協和音」はライブの場で初めて完成するのだと思わされる。これらを当たり前にパフォーマンスできるのは、齋藤を筆頭にして、日夜TAKAHIROとともに1年間ダンススキルや表現力を磨き上げたからこそだ。これがあと2、3年と続けば、アイドルシーンでも稀有なパフォーマンス集団へと進化するだろう。


 この日のハイライトは「不協和音」だと多数のファンは挙げるだろうが、個人的には4thシングル収録曲で、ライブ初披露となった「エキセントリック」についても記しておきたい。クラブジャズ風のトラックに合わせ、Aメロでは90'sJ-POP風のラップが入り、以降はシニカルな歌詞とともに<I am eccentric 変わり者でいい>とマジョリティーの中での孤独が歌い上げられる。一人ひとり違うユルめのヒップホップウェアに、力強さとは真逆の振りやフロア(床技)を使ったダンスと、衣装も演出も異質さを感じさせるものだった。秋元康氏は、755でこの曲について「表題曲になるかもしれなかった曲」と綴っているが、パフォーマンスを見てその理由が今一度理解できた気がする。


 この日は様々な発表ごともあった。まず大きなものとしては、けやき坂46のメンバーが増員すること。これは欅坂46をしばらく21人のチームとして固定していくことへの決意表明のように思えるし、以前記した“別働隊としてのけやき坂46の可能性”(http://realsound.jp/2017/04/post-11858.html)を補強するトピックといえるだろう。


 そして、「W-KEYAKIZAKAの詩」が撮影当日欠席となった高瀬愛奈の為に再撮影されること、「overture」のコーラスをファンに歌わせ、以降のライブで使用することも伝えられた。いずれも、グループ内、およびグループとファンの絆をより強固にするためのものだろう。冒頭に1年で培った“総合力の高さ”を感じたと綴ったが、2年目以降はさらに深まった絆を武器に、ときに成長痛も経験しながら彼女たちは邁進し、こちらの想像をきっと超えてくれる。今回のライブは、その確信を得るには十分すぎる時間だった。(中村拓海)