2017年が最後のチャンスという決意で臨んだGP2改めFIA-F2の3年目のシーズンだったが、松下信治(ART)にとって開幕バーレーンラウンドは予想外に厳しいものとなってしまった。
事前のテストで手応えを掴んで臨んでいたものの、金曜の予選ではセクターでタイムが伸び悩んでしまった。それでも6番手という最低限の位置にはつけられたと松下は語った。
「クルマのフィーリングは結構良かったんですが、セクター2はプレマだけが驚異的に速くて、どうしてこれだけの差があるのか分からない状況でした」
今季はチャンピオン争いを意識し、取りこぼしは厳禁。厳しい状況の中でもしっかりとポイントを重ねるレース巧者ぶりを身に着けることが課題になるということは、松下自身が最も良く分かっている。それだけに土曜のレース1は6番グリッドから無難なレース運びで「表彰台を狙えるはず」と今季初レースに臨んだが、予想外の展開が待ち受けていた。
スタートでは5位に浮上したものの、その後のタイヤのデグラデーションが想像以上に大きかったのだ。ピレリのマリオ・イゾラが「ここはリヤのタレが厳しくソフトタイヤはおそらく8周ほどしか保たない。だから多くのドライバーがミディアムでスタートしレースの大半を走る展開になる」と予想していたが、それ以上にミディアムのタレが大きかったのだ。
「序盤にみんなが我慢してトロトロ走っていた間は良かったんです。まだ悪いポジションじゃなかったし、勝負は後半だろうと思って様子を見ながら走っていたんですけど、単独になり始めたところで普通に走ろうと思ってもフロントが全然入らなくなって、それを庇ったせいで最後はリヤもダメになってしまって……」
ここでズルズルと順位を下げていった松下は、たまらず15周目にピットイン。ソフトタイヤに履き替えて前を追うが、ペースはなかなか上がらない。それでもレース終盤に何台かのマシンがソフトタイヤの性能限界を迎えて後退してきたおかげで、レース2のポールポジションとなる8位でフィニッシュすることに成功した。
「8位と9位じゃ天と地ほどの差がありますから、なんとか前の(ニック・)デ・ブリースを抜いてやろうと思いました。ストレートのブレーキングでいきましたが、あそこで抜けたのは良かったですね。僕にとってはこれが最低限の場所。トップ8外っていうのはあり得ないですから、今年は」
日曜のレース2は、マシンセッティングが決まり切っていないだけに厳しい状況であることに違いはなかったが、ポールポジションからスタートしなんとか首位を守りきるつもりでいた。
しかしスターティンググリッドに向かう途中で左リヤタイヤの挙動がおかしくなり、ロックしたような状態になってしまった。結局ギヤボックス周辺のトラブルで修理作業が必要となり、絶好のチャンスをフイにしてピットレーンスタートを強いられることとなってしまった。
「今までに起きたことのないトラブルなんですけど、レコノサンスラップを走っている時からリヤがスタックしてしまって、スタートしてからの左側のタイヤが変で、マシンが勝手に左に進んでいくし、左側だけがブレーキが効いているような感覚でした」
通常45分間のレース2ではタイヤ交換は行なわないのが定石だが、前日のレース1でタイヤの性能低下が極めて大きかったことを受けて、松下は1ストップの作戦を立てていた。優勝したシャルル・ルクレールも同様の戦略を採ったことからも分かるように、それ自体は間違いではなかった。しかし、今週末のARTグランプリにはレース1の勝者ロシアンタイムのようなロングランの速さもなければ、レース2の勝者プレマのような一発の速さもなかった。それが最大の問題だった。
「元々の戦略的には、プライムで出ていって思いっきりプッシュしてオプションに交換しようという戦略だったんです。デグラデーションが大きかったんで、それが計算上は一番速い戦略だったんです。前がトレイン状態で全然抜けないんで、ちょっと早めにピットインして前がクリアな状態でオプションで飛ばそうということになって、それでプッシュしたんですけど、全然ペースは良くありませんでした」
チームメイトのアレックス・アルボンも3番グリッドからズルズルと順位を下げて最後は7位。マシン自体の速さが足りないことは明らかだった。
「もし(トラブルがなく)ポールからスタートしていても、ペース的には5位くらいが精々だったと思います。このコースだけかもしれないですけど、2人ともトップ争いができる速さではなかった」
開幕ラウンドの松下は、4ポイントのみ。ランキング首位に立ったルクレールには32ポイントの差を付けられてしまった。
次のバルセロナは開幕前のテストで走り込んでおり、トップタイムも記録した場所。チーム全体として徹底的に問題点を洗い出し、雪辱に備えてもらいたい。