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SHE'Sがバンドで伝えた“踏み込む意志” 聴き手との距離縮めたツアーファイナル公演

2017年04月16日 15:02  リアルサウンド

リアルサウンド

SHE'S (写真=西槙太一)

 嗅覚や味覚などの感覚から過去の記憶が蘇る心理現象“プルースト効果”になぞらえて名付けられたSHE'Sの1stフルアルバム『プルーストと花束』。その収録曲は、作詞作曲を手がける井上竜馬(Key/Vo)が自身の過去と向き合ったからこそ書けた歌詞、彼のソングライティングに導かれるようにしてメンバーが自分の色を出していったからこそ生まれたサウンドの幅広さが形になったものばかり。つまり、バンドが一歩自身の内側に踏み込む表現に挑んだ証のようなアルバムとなった。そんな作品を携えた10公演に及ぶ全国ワンマンツアーは全箇所ソールドアウトの大盛況。たくさんの人たちと“自分そのもの”のような音楽を分かち合うことによって、SHE'Sというバンドはどのように成長していったのだろうか。


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 今思うと、この日のセットリストは一日の始まりから終わりまでを進んでいくような、時系列に沿った流れになっていた。まず、ライブの前半を飾ったのは朝~昼のパート。「Morning Glow」、「海岸の煌めき」、そして「Freedom」による冒頭は、バンド一丸となってリズムをガシガシ刻みながら、同じ呼吸を共有しながら熱量を高めていくような展開だ。気合いの溢れたエネルギッシュなサウンドは、黎明期~現在のバンドの物語を象徴するような「Freedom」の〈理屈じゃないものに動かされてる〉という歌詞も相まって、胸に迫り来るよう。4人が生み出す音の層は以前よりも分厚いが、井上もそれを上手に乗りこなしているようで、彼の歌声は会場の奥まで気持ちよく伸びていた。


 メンバー同士で火花を散らし合うような前半戦を経て、「Say No」以降は“次はあなたの番です”と言わんばかりに「たくさん一緒に歌いましょう」「歌おう!」などとフロアからの歌声を求める箇所が特に多くなる。メンバー曰く今回のツアーには初めてライブハウスに来るという観客も多かったらしく、フロアの雰囲気から察するにそれはこの日も同様だったが、7曲目ともなると緊張もいい感じに和らいできた様子。「Say No」や「Night Owl」のような曲では観客の合唱とバンドのサウンドが混ざり合いながら起承転結を描いていき、「グッド・ウェディング」「Evergreen」のようなオーガニックテイストの曲はたくさんの笑顔の中で温かく軽快に鳴らされていった。そうしてステージとフロアとの距離が縮まっていくなか、ポロポロと鍵盤を弾きながら「そうか、ちょうど1年ぐらいか」と呟く井上。そのあとには「Tonight」誕生の経緯が話され、同曲と「Ghost」が披露されたわけだが、その2曲により場内の空気がスッと塗り替えられたのは言うまでもない。「寂しいという言葉では表せない、やるせない夜に聴いてホッとするような曲を書きたいと思って書いた曲」という彼の言葉通り、寂寞や喪失をごまかさずに鳴らすこの2曲だからこそ寄り添える孤独の存在は確かにある。息を呑んでステージを見つめるいくつもの切実な眼差しがそのことを静かに物語っていた。


 本編のラストに奏でられたのは、アルバムの最後に収録されている曲「プルースト」。先述のようにこの日のセットリストは時系列に沿ったような曲の並びになっていたが、「自分の感情に素直でいられる場所は絶やさないようにしたい」「全部ひっくるめて生きていくから。嫌なことも思い出したくないことも、たまに思い出しながら生きていくから」と井上も話していたように、彼らがこのライブを通して表現したかったことは、朝が来て、夜が来て、もう一度朝が来て……と情け容赦なく流れゆく時のなかで、喜び、悲しみ、笑い、悩み、面倒くさい感情を抱えて生きる自分たちを含む人間の性(さが)を肯定することだったのではないだろうか。朝焼けのオレンジに染まるステージ。その軌道で円を描くようなワルツのリズム。〈別れが出逢わせ 回っていく〉というフレーズ。ここから再び1曲目の「Morning Glow」に戻っても違和感のないようなラストシーンは無常の日々の循環を意味しているようだ。1年前にはメジャーのフィールドで闘うことに対する意思表明として鳴らされていた「遠くまで」が「一緒にいてくれますか?」という願いの歌として唄われていたのも、そういう日々を重ねた上での変化の証として受け取ることができた。


 「各地で言い続けてきたけど……どうして他人なのに他人じゃない感じになるのかな。こんなに人を好きになるなんて思わなかった。人のために何かしたいっていう気持ちを知れたよ、みんなのおかげで。この先どんなに大きくなっても唄い続けるんやなって思う。今のところ」。フロアへ穏やかな視線を向けながらそう語る井上。自分自身、そしてバンド自身の奥へ踏み込みながら音楽を紡いでいったアルバムだったからこそ、その曲たちは聴き手の元まで辿り着き、いくつもの共鳴を生み出した。『プルーストと花束』というアルバムの結末として、それはあまりに美しく、そして人間くさい。元々メンバーのビジュアルもMVやアーティスト写真の作風もスタイリッシュであるため、「こんなに喋る人だとは思わなかった、ライブはこんな感じなのか、とよく驚かれる」そうだが、それは4人がMC中に見せる関西出身者特有の軽妙なやりとりや明るいテンションによるものだけではなく(もちろんそれも健在だったが)、バンドの根っこにある誠実さゆえの泥臭さによるところが大きいのだと思う。ステージ前方に躍り出て泣きのギターソロをこれでもかと炸裂させる服部栞汰(Gt)も、1曲目から満面の笑みで叩いていた木村雅人(Dr)も、縁の下の力持ちポジションの広瀬臣吾(Ba)も、アンコールラストには「ギター!」「あなたに歌います!」といつになく大きく声を張り上げた井上も、それぞれに充実しきった表情をしていた。


 そしてバンドは既に未来を見ている。アンコールではミニアルバム『Awakening』(“目覚め”を意味する作品タイトルも象徴的だ)のリリースを発表。それに収録される新曲をいち早く披露したほか、秋にはストリングスを携えたホールツアーを開催することもアナウンスされた。この日の時点で4人の演奏はBLITZのキャパに収まりきっていない感じがあったし、これからも彼らの鳴らす音楽は広く大きくなっていくことだろう。しかしこのツアーで見せてくれた“踏み込む意志”を絶やさなければ、同時に、彼らの鳴らす音楽と聴き手の距離はどんどん近づいていくはずだ。


 メジャー2年目。変化の春。こうしてSHE’Sはまた一歩踏み出した。(蜂須賀ちなみ)