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スーツで相談に来る貧困男性、脱げない「プライド」 藤田孝典さんに聞く〈下〉

2017年04月16日 14:13  弁護士ドットコム

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裁判の傍聴や、高齢者の孤独死の取材を通し、性差を感じることがある。たとえば、孤独死する人は、妻に捨てられたり、先立たれた男性がほとんどだ。また、窃盗など刑事裁判の被告人には、以前はバリバリ稼いでいたものの身体を壊したり、徐々に仕事がなくなるなどして、ホームレスになったような男性も珍しくない。


【関連記事:犯罪繰り返す高齢者、失業者が陥る貧困「負のスパイラル」 藤田孝典さんに聞く〈上〉】


しかし、福祉と結びついても、うまく機能しないこともあるようだ。NPOほっとプラス代表理事である藤田孝典さんが3月に上梓した「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(毎日新聞出版)では、高齢男性が生活保護と結びついたのちに、自殺してしまった事例も書かれる。こうした男性の生きづらさはなぜ生まれるのか。解決策は何か、藤田さんに聞いた。(ライター・高橋ユキ)



(インタビューの前編「犯罪繰り返す高齢者、失業者が陥る貧困『負のスパイラル』 藤田孝典さんに聞く〈上〉」はこちら https://www.bengo4.com/internet/n_5966/)


●「失業している男性はだいたいスーツを着て相談に来る」

――高齢者の事例で気になったのは男女比です。どのくらいの比率なのでしょうか


「私たちの元に相談に来る方は、男性の方が圧倒的に多いんですよ。孤立して、誰にも相談できなかった末、やむにやまれず相談に来るというようなケースですね」


ーーなぜ女性は少ないのでしょうか


「女性は、もっと早めに周りの人が助けているのではないでしょうか。女性はコミュニケーション能力が非常に高くて、困ったら色々な人に相談して、解決策を見つけられるのだと思います」


――高齢者の孤独死の取材をしたことがありますが、孤独死する人はやはり男性が多く、妻に捨てられたり、先立たれた人がほとんどだと知りました。共通するところもありますね


「人に『助けてくれ』とか『困っている』などと伝えて『援助を受ける力』、これを僕らは『受援力』と呼んでいますが、男性と女性を比べると、男性の方が低い傾向にあります。女性は『お金が大変で困っててねぇ』など、茶飲み仲間とわいわい言いながらやっていけるんだと思うんですが、男性は『困ってます』という言葉を出すまでに時間がかかります。


私たちの元にも、失業している男性はだいたいスーツを着て相談に来ます。失業して仕事もないのだからジャージでも良いのにと思いますが、スーツを着ることで、体面、プライドを保っているのでしょう。それだけ社会が男性に対して、役割を過度に要請しているのだと思います」


●経済合理性が「21世紀とは思えない思考」を生み出す

――男性は女性よりも「経済活動をして価値のある人間になれ」という社会からの要求を受けていると


「そうですね、男性は稼いで、女性は相変わらず家事育児という、凝り固まった思想ですね。女性もそれを内面化していますから、専業主婦志向も依然として高い状況です。21世紀とは思えない思考ですが、背景にあるのは経済合理性です。経済合理性で社会が動いているなら、その役割分担を受け入れた方が良いと思い込んでいるのではないでしょうか。


でも、夫婦共働きでやっていけばいいし、それがうまく機能しないなら、社会の仕組みを変えていくしかないんです。それが今は、人々の思いと社会の仕組みにミスマッチがあり、皆が生きづらかったり、苦しさを抱えたりしているんですよね」


――男性が「受援力」を高めるには一体どうすれば良いのでしょうか


「柔軟な思考で社会と向き合い、人と付き合っていく姿勢だと思います。『こうするべき』と考えてしまうと、生き方の幅も狭く取られ、生きづらくなってしまいます」


ーー貧困問題は、誰にとっても他人事ではないということですね


「誰しもが、貧困に陥る社会構造があるんです。


相談に来られた方の中に、60歳近くになるまで、ずっと画家を目指していた方がいました。この方は生活保護を受けることになったのですが、『僕の人生は全然成功しなかったけど、死んだ後に僕の絵が評価されるかもしれないので、それはいい人生でした』と。


指標軸というか、人生ってこうあるべきだという既存の枠組みからちょっと外れて、物を見ていく視点が必要なのかなと思います」


――「受援力」を高めても、福祉を受けることに抵抗がある、こうなったのは自分のせいだ、という思いを抱く人も多いのではないでしょうか。ご著書の中で、高齢男性が生活保護と結びついたのちに、自殺してしまった事例が書かれており、衝撃を受けました


「誰しも貧困に陥ると『自分の計画性がないからこうなったんだ』など自分を責めるでしょう。『きちんと教育を受けていたら』とか、『もっと勉強を頑張っていたら』、『しっかり貯金しておけば』など、後から色々思うんです。


そう捉えてしまうのもわかります。でも全ての人間が、そんなに計画立てて理路整然と暮らしていたら、それこそつまらない社会ではないでしょうか。芸術や出版などクリエイティブな仕事もできないでしょうし、冒険ができないですよね。失敗していいんだよ、と安心して言える社会にすることが、生きづらさを解消する道だと思います」



【取材協力】藤田孝典氏1982年生まれ、埼玉県越谷市在住。NPO法人ほっとプラス代表理事、社会福祉士。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科博士前期課程修了。首都圏で生活困窮者支援を行うソーシャルワーカー。生活保護や生活困窮者支援の在り方に関する活動と提言を行なっている。近著に「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(毎日新聞出版)


【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」(霞っ子クラブ著/新潮社)、「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(高橋ユキ/徳間書店)など。好きな食べ物は氷。


(弁護士ドットコムニュース)