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『T2 トレインスポッティング』鑑賞後に聴きたい、“イギリスの今”を伝えるバンド5選

2017年04月16日 10:12  リアルサウンド

リアルサウンド

The Big Moon『Love in the 4th Dimension』

 つい先日、封切り直後に『T2 トレインスポッティング』を鑑賞。愛すべき社会不適合者たちの再結成ライブみたいな、20年ぶりの続編を心ゆくまで堪能しました。もちろん、作品自体はそんなに生易しいものではなかったです。「大人になるということ、またいかに僕たちはそれに対処するのが下手か、についての映画」と監督のダニー・ボイルが定義する『T2』では、ユアン・マクレガー演じるマーク・レントンを筆頭とした登場人物たちのパーソナルな変化(あるいは停滞)だけではなく、イギリスという国家が抱えるノー・フューチャーな問題点、傷だらけな社会の軋みが、今回もシビアに描かれています。


参考:a flood of circle佐々木亮介がロック・ヒップホップ新譜を紹介


 さらに『T2』でも、全編が一つのMVのようですらあった前作『T1』と同様、映像×音楽のコンビネーションが素晴らしいばかりでなく、前作での印象的なモノローグそのままに、この20年で世の中も音楽も変化したことをダイレクトに反映しています。その象徴的な例が、サントラで3曲、劇中で6曲もフィーチャーされているYoung Fathers。彼らは映画の舞台と同じくエジンバラ出身の3人組で、グライムにファンク、ヒップホップなどを織り交ぜた攻撃的なサウンドと、ポリティカルなメッセージ性が込められた2作目『White Men Are Black Men Too』で2015年にマーキュリー・プライズを受賞するなど、名実ともに今のイギリスを象徴する存在です。


 あるいは、映画のオープニングで鳴り響くハイ・コントラスト「Shotgun Mouthwash」のハードコアな重低音や、劇中のCMのなかで流れるグライムの代表格、ワイリーの「Wot Do U Call It」など――今回の『T2』において、説明不要のアンセムであるイギー・ポップ「Lust For Life」が、いまや“EDMのゴッドファーザー”とも言われるThe Prodigyによってリミックスされた背景には、こういった21世紀以降のイギリスにおけるストリートの現場感覚に近付けるため、原曲の暴力性をアップデートさせようという狙いもあったのではないでしょうか。


 映画の話から一瞬逸れますが、マーキュリー・プライズといえば2016年の授賞式でのこと。Radioheadなどが候補にノミネートされたこの年、本命と見られていたのは、ご存知“ジギー・ポップ”の片割れことデヴィッド・ボウイの遺作『★』。しかし、最終的に選ばれたのは、グライム・ラッパーのスケプタによる『Konnichiwa』でした。その選考理由を、審査員を務めたパルプのジャーヴィス・コッカーはこう語ったそうです。「もしデヴィッド・ボウイが審査員として、ハマースミス・アポロ(授賞式の会場)を天国から見下ろしていたら、スケプタに賞を送ってほしがるのではないか。そう考えて、私たちは受賞を決めました」。


 ブリットポップの全盛期に産み落とされた『T1』(パルプの楽曲も使われてました)から、アデルやThe 1975など一部の例外を除き、国際的な主流から外れてしまったとされる現代の『T2』に至る英国ポップ・ミュージック史の変遷とともに、同地のアンダーグラウンドが20年間で突き進んだ独自路線にも、目を見張るべき収穫があったことをこのエピソードが象徴しているように思います(ボウイの喪失とジャーヴィス・コッカーの役回りも含めて)。そして、近年のイギリスの音楽シーンでは、グライム以外にも〈独自路線〉が新たな実りを結びつつあり、その活況を知るための入り口としても『T2』はうってつけかもしれません。


 ということで、前置きが長くなってしまいましたが、今回のテーマは<『T2』を観たあとに聴いておきたい、イギリスの今を伝える5枚>。その他の挿入曲とも紐付けながら、最近の注目すべき新譜を紹介していきます。


 『T2』を彩るナンバーで、個人的にYoung Fathersと並んで印象深かったのが、Fat White Familyによる「Whitest Boy On The Beach」。秘密結社のような風貌や、過激な発言やライブ・パフォーマンスでも知られる彼らの佇まいを、曲を共作したことのあるショーン・レノンは、Wu-Tang Clanみたいだと思ったそう。そんなFat White FamilyやYoung Fathersの尖ったサウンドや反体制的なアティテュードも受け継ぎつつ、よりスタイリッシュな方向性を打ち出しているのがロンドン発の5人組であるFormation。ノーザン・ソウルやファンク、ヒップホップやハウスなどを吸収した強靭なグルーヴは、デビュー作『Look At The Powerful People』で見事に開花。「Powerful People」のMVで、The Streetsのマイク・スキナーが監督を務めているところも歴史の連なりを感じさせますが、七色のシンセとパーカッシヴなリズムを駆使したダンサブルな音作り、“カサビアンの後継者”と呼ばれるのも納得のキャッチーなポップ・センス&不良性は、新たなスターの誕生を予感させます。


 「Silk」が『T2』のトレイラーにも使われたWolf Aliceのように、ここ数年のUKロック界ではグランジをルーツに持つバンドが次々と台頭していました。ロンドンの4人組ガールズ・バンド、The Big Moonもその一つ。デビュー作『Love In The 4th Dimension』では、Wolf Aliceにも携わったキャサリン・マークスが共同プロデュースを担当しています。そんな同作について、『T2』サントラの日本盤に最高のライナーノーツを寄せていた田中宗一郎氏が「レディオヘッドの『ザ・ベンズ』とピクシーズの『ドリトル』の間にある何か」とTwitterで絶賛していましたが、それも頷ける別格の一枚だと思います。アンニュイに妖気漂わすボーカルとコーラス・ワーク、轟音と静寂のコントラストを描くギター、あとはキーボードやストリングスが入る程度というオーセンティックな作りで、曲調のレンジもそこまで広くないはずなのに、「次はどんな曲が飛び出すのだろう?」と興奮せずにいられなくなる、ソングライティング/アレンジの圧倒的な精度たるや! Elasticaとも比べられているようですが、とにかく今後が楽しみです。


 ここまでの2組に引けを取らない存在感を放つニューカマーが、やはりロンドンを拠点としているPumarosa。5月19日にリリースされるデビュー作『The Witch』にも収録される「Priestess」をジェイムス・ブレイクが絶賛し、去る2月の『Hostess Club Weekender』でのパフォーマンスも高く評価された5人組は、80sニューウェイブから今日のクラブ・ミュージックまで通過したインダストリアル・スピリチュアルと呼ばれるサウンドが持ち味。『T2』に楽曲が使用されたBlondieのデボラ・ハリーから、Yeah Yeah Yeahsのカレン・Oまで想起させるイザベル・ムニョスのエキセントリックな歌唱は、まさしく“The Witch”に相応しいもの。トリッピーな長尺曲も用意されており、ときにパンキッシュな瞬間も忍ばせつつ、緩やかに酩酊へと誘うサイケでダビーな音像は、(やや強引ですが)『Vanishing Point』にも収録されたPrimal Scream「Trainspotting」の現代版といった趣も感じさせます。


 イギー・ポップが“世界最高のロックンロール・バンド”と絶賛し、The Prodigyの最新作『The Day Is My Enemy』でもフィーチャーされていたノッティンガム出身の中年2人組、Sleaford Mods。彼らが『T2』に起用されなかったのは少し意外でしたが、さすがに直球すぎると思われたのか、音がスカスカすぎて映画で使うには無理があったのか。訛りまくったボーカルと極端にミニマルなオケという超シンプルな音楽性は、Pulpのベーシストであるスティーヴ・マッキーのスタジオでレコーディングされた新作『English Tapas』でも健在です。『T2』のハイライトであるレントンの一幕とも共振する、社会への怒りとコミカルなユーモアを交えた歌詞は、日本盤の対訳とともに味わいたいところ。精神性も含めて、スティーヴ・アルビニがかつて率いたBig BlackやRapemanに通じる魅力もあるように思います。


 最後に紹介するのは、ウェールズ出身で現在は南ロンドンを拠点にしている才媛、ケリー・リー・オーウェンス。クラブ・ミュージック人脈のダニエル・エイヴリーに重宝される一方で、The History Of Apple Pieというバンドにも参加していたという彼女の初ソロ作『Kelly Lee Owens』は、ハイセンスなアニメーションも光る「Anxi」のMVさながらに、夢の世界を彷徨うエクスペリメンタル・ポップ集。溶けそうな歌声と柔らかなシンセ、音色/BPMのどちらも心地良いビート、時折見せるアンビエントな展開のいずれも絶品で、2017年のドリーム・ポップを代表する一枚になりそうな気がします。ビョークとアーサー・ラッセルから影響を受けたという音世界は、クラブ映えするハウシーな機能性も保ちつつ、同時にベッドルームの内省も感じさせるもの。デーモン・アルバーンが『T1』に「Closet Romantic」という曲を提供していましたが、このアルバムもそんなふうに形容したくなってきます。(小熊俊哉)