2017年04月14日 12:13 弁護士ドットコム
自民党の若手議員が中心となった小委員会がまとめた「こども保険」構想が3月下旬、報じられた。NHKや日経新聞などの報道によれば、年金、介護、医療と同様に、企業や労働者から社会保険料を上乗せで徴収し、保育や幼児教育の負担を減らすために使う仕組みだという。上乗せ分は当面0.1%で、約3400億円の財源を捻出する。
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自民党内では、「こども保険」が出る前、「教育国債」を高等教育無償化につなげる提案もなされていた。しかし、国債の発行は次世代への負担の先送りにすぎないことから党内でも異論が噴出し、教育財源を保険料から徴収するという「こども保険」が浮上してきたようだ。
しかし、子育て世帯ではない人からすれば、不公平感もあるのかもしれない。今回の構想を税理士はどう評価するのだろうか。新井佑介税理士に話を聞いた。
「今回の『こども保険』構想は、少子化問題の解決策に一石を投じることで議論を深化させたという点において評価しています。低所得世帯の子どもが十分な教育を受けられない『貧困の連鎖』を私たちの世代で解決することについては大賛成です。以前より議論されている将来世代への負担の先送りである『教育国債』構想よりはだいぶマシではないでしょうか」
新井税理士はこのように評価する一方で、ある懸念もしているそうだ。
「税理士としての立場からは、『こども保険』構想について違和感を感じるのも事実です。まず『こども保険』は、端的にいうと社会保険として(一定の高齢者を除いた)国民全体より徴収したお金を子育て世代に再分配する仕組みです。この再分配が給付という形で実施されればバラマキにもなりかねませんね。
私が違和感を感じたのは、この所得の再分配こそ『税』のもつ機能だからです。所得の再分配は『保険』のもつ本来的な機能ではありません。
保険とはリスクに備えることですが、そもそも子育てをリスクと捉えて子ども保険でそのリスクを担保すること自体、多くの方が違和感を覚えるのではないでしょうか。私見ですが、『子ども保険』構想は、保険という名前を借りた『所得の再分配』が本質だと考えています」
そうであれば、税金として議論すればいいのではないか。
「以前から、税方式による子育て支援構想は、消費税の一部をあてることが検討されています。しかし負担と給付の関係が明確でない点や経済への影響もあり、納税者である国民の理解が得られづらい状況が続いています。
ほかにも、16歳未満の子どもを扶養している場合に、税の軽減が受けられる『年少扶養』制度を復活させようという声もあります。しかし、この制度は、高額所得者ほど軽減額が大きくなる逆進性があり問題点もあります。
そこで、比較的国民の理解が得られやすそうな『こども保険』というネーミングで所得の再分配を図る意図が『こども保険』構想にあるのではないでしょうか」
どのような制度を導入するにせよ、負担増を嫌がる人はいそうだ。
「今回は、所得の再分配という点にフォーカスして『こども保険』構想を考えてみました。現在議論されている税方式・社会保険方式・国債方式は、それぞれメリットデメリットがあります。
子どもは将来の私たち、そして我が国を支える希望です。そして子どもを巡る環境は待ったなしの状況です。どの方式にせよデメリットはあります。このデメリットを乗り越えていくには、『国民全体で子育て世代を支える』という一種の覚悟と寛容さが私たちに求められていることは間違いありません」
【取材協力税理士】
新井 佑介(あらい・ゆうすけ)公認会計士・税理士
慶応義塾大学経済学部卒業。金融機関との金融調整から新設法人支援まで、幅広く全力でクライアントをサポート。趣味はサーフィンとスノーボード、そして登山。好きな言葉は「変わり続ける勇気」
事務所名 : AAG Arai Accounting Group / 経営革新等支援機関 新井会計事務所
事務所URL: http://shozo-arai.tkcnf.com/pc/
(弁護士ドットコムニュース)