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涙なしには見られない! 再ブレイク中の沢尻エリカが『母になる』で圧巻の演技

2017年04月13日 17:33  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 沢尻エリカ主演ドラマ『母になる』が4月12日初回放送を迎えた。同枠では、『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』、『東京タラレバ娘』と、恋に仕事に奔走する女性を描いた華やかな作品が続いていた。視聴者も登場人物たちと一緒に笑い、泣き、彼女たちの境遇に自身を重ねる、楽しみに溢れたドラマだった。そんな2期続いたポップなカラーから一変、本作は真逆とも言っていいほどグレーなトーンに包まれている。


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 その中心に座るのは、本作が2年ぶりの連続ドラマ出演となる沢尻エリカだ。2007年公開の映画『クローズド・ノート』舞台挨拶の一件以来、ネガティブなイメージがつきまとい、復活作『ヘルタースケルター』で確かな演技力を見せるものの、パブリックイメージとして“エリカ様”の印象が拭い去られていなかったのは事実だろう。しかし、本ドラマでは、彼女が“エリカ様”と呼ばれていたことを忘れるほどの母親像を確かな演技力で体現している。


 第1話は「2008年春」のテロップと共に、川に浮かぶ子供服トレーナーと靴が映し出されるところから始まる。哀しみにくれる柏崎結衣(沢尻エリカ)と、その夫・柏崎陽一(藤木直人)。回収されたトレーナーを見つめる、憔悴しきった沢尻の表情には絶望が刻みこまれていた。彼女たちの息子・広(コウ)が誘拐され、生死も分からない中での着用品の発見。始まって数分、沢尻のファーストカットを観ただけで、このドラマにのしかかるテーマの重さが分かる。


 その後、時代は2001年に移り、書店員の結衣と研究者の陽一。出会い・結婚・出産までが描かれる。バスの中での視線のやり取り、書籍注文のやり取りから互いの手が触れてしまう瞬間、名前を知ったときの喜び……他人だったふたりの距離が縮まり結ばれていく様子は、観ているこちらが恥ずかしくなるほどだ。特に、誕生日のお祝いで買ったケーキのクリームが結衣の顔についてしまう、そのクリームを陽一が拭き取ろうとする、指先が唇に触れ見つめ合い、初めてのキスをするーー。この一連のシーンは、沢尻の表情がエロティックかつとてもかわいい。しかし、そんな甘美な想いにこのドラマは浸らせてはくれない。冒頭3分で提示した“絶望”がこの先にあると知っているからだ。


 結衣と陽一はコウを授かり結婚。陽一の母親(風吹ジュン)にも暖かく迎え入れられ、幸せの絶頂を過ごしていく。そして、事件の起きる2008年に舞台は戻る。第一話では、すっきりした青空が映し出されることがなく、全編にわたってグレーな色合いに包まれていた。それに伴う、言い知れぬ不安感。そして、ついにコウが誘拐される時が訪れる。結衣が目を離したすきに連れ去られてしまい、その犯人は陽一の大学の教え子だった。「わたしが目を離さなければ、あの生徒の言葉を真摯に聞いていれば……」。どちらにも重くのしかかる“責任”。ここまで描かれてきたふたりの幸せが形作られていくのを観てきたからこそ、ガタガタと音を立てて崩れていく様は非常に辛く、もどかしい。


 結衣はコウが誘拐される前に参加した同窓会の席で感じたことを打ち明ける。「ずっと言えなかったけど同窓会が楽しかった。コウが生まれてから熱いラーメンを食べてなかった。同窓会で自由な人を見て、明日の予定がある、お酒は飲める、ご飯は自分のペースで食べられる、自分の時間を自分のためだけに使える、それが楽しかった。帰りたくないかも、子どものいない人生もいいかも、産むのが早すぎたかも……そう思ってしまった。私がそんなこと思ってたから……でも、今はコウに会いたくて仕方がない」。それまで結衣は健気な母親であり、決して責められるようなことはしていない。それでも感じてしまう良心の呵責。我が子を失うことの絶望を、泣きながら体現した沢尻の演技は圧巻の一言だった。思わずもらい泣きしてしまった視聴者も少なくないだろう。


 そこからときは移り2017年。陽一とも別れ、ラーメン屋で働きながら一人暮らしをする結衣にコウ(道枝駿佑)が生きているという報せが届く。コウは児童養護施設で保護されており、13歳の少年に成長していた。コウを抱きしめ、9年ぶりの抱擁を交わすふたりだったが、コウの目にはどこか不穏な光が。コウは誘拐犯から解放されたのち、小池栄子演じる門倉麻子に育てられていたのだった。


 永作博美が主演を務めた『八日目の蝉』、これから公開される映画『光をくれた人』など、育ての母と産みの母の苦悩・葛藤はこれまでも数多く描かれてきた。第1話では、不気味な存在感を見せるに留まった小池栄子だが、次週より沢尻との演技バトルが始まりそうだ。(文=石井達也)