フェルナンド・アロンソのインディ500参戦発表は、まだドライバーや首脳陣がサーキットに姿を見せない水曜日のタイミングで行われた。
週末のバーレーンGPに備えてマシン整備に忙しいマクラーレンのスタッフたちにサーキットで話を聴いても、「発表まで全然知らなかった」と言う。しかしニュース自体は、平静に受け止めている印象だ。本業のF1を休んで他のカテゴリーに出ることに抵抗はないのかと訊くと、「優勝争いしてるわけじゃないし」と、実に正直な答が返って来た。
アロンソ自身はもちろんそこまではっきり言わないものの、チームの低迷が背中を押したことは間違いないだろう。マクラーレンスタッフの滞在先であるバーレーンGPのサーキット近くのホテルで行なわれた会見に、ザック・ブラウン(マクラーレン・エグゼクティブディレクター)とともに出席したアロンソは「先週の中国GPで、急転直下出場が決まった」と、詳しい経緯を語った。
「インディ500はルマン24時間と並んで、ずっと出てみたいレースだった。でも当分、その機会はないと思っていたんだ。早くとも来年以降だろうと。ザックとは開幕前から出場の話をしてた。でも、あくまで冗談の一種としてね。ところが中国GPの金曜日にザックやエリック(ブーリエ/マクラーレン・レーシングディレクター)たちと夕食を一緒にした際、かなり具体的な話になったんだ。それで『一晩、寝て決めるよ』と答えて、翌土曜日にOKの返事をしたわけさ」。
「ホンダはインディで素晴らしい伝統を築いてる。そしてマクラーレンはかつて、このレースに何度も出場した。今しかないこの機会を、絶対に逃すべきじゃないと思ったんだ。でもあくまで、この1戦限りだ。そのあとにはカナダGPが控えてるし、それ以上F1を休むつもりは全然ない」。1戦限りを意味する「One-off」という表現を、アロンソはかなりの回数繰り返し、自分の本業がF1であることを強調していた。
今回の唐突なタイミングの発表に対して、「アロンソの離脱を思いとどまらせるための、飴玉ではないか」という見方がある。たしかに上述したようにインディ500出場はアロンソの夢のひとつであり、今回の決定を心の底から喜んでいるように見える。しかし同時にF1での不振に苦しむマクラーレンとホンダにとっても、話題作り、プロモーションの観点から言えば決して悪い話ではない。
アロンソは「誰もがハッピーになれる、ウインウインの決断だ。僕自身、F1、そしてファンのみんなにとってね」と言っていたが、本音はそこにマクラーレンとホンダを加えたかったのではないか。
■モナコの後任は「決まっていない」
ではアロンソに代わって、モナコGPは誰が出場するのだろう。普通に考えれば、今季長期休暇を取っているとはいえ、マクラーレンとの契約が2018年末まで残っているリザーブドライバー/チームアンバサダーのジェンソン・バトンしかいない。ところがブラウンは、「まだ決まっていない。この件はエリックに一任している」と答えていた。
これはある意味、驚くべきことと言えるだろう。チームがバトンに打診していないはずはなく、それでも「決まっていない」としたら、バトンが答えを渋っている以外に理由が思いつかないからである。
だとしたらバトンはなぜ、ふたつ返事で代役を引き受けないのか。今のマクラーレン・ホンダでは、好結果が期待できないから? 2017年マシンを実際に走らせたことがないから? しかしモナコはパワー差が最も結果に反映されにくいレースであり、肉体的な負荷も今では大したことはない。バトンほどの経験があれば、今年のマシンもすぐに乗りこなしてしまうはずである。
それでもイエスと即答しないほど、もはやバトンの心は自動車レースそのものから離れてしまったのだろうか。マクラーレン養成システムに所属するオランダ出身のニック・デ・フリースもスーパーライセンスを所有しているが、いきなりモナコでF1デビューさせることはちょっと考えにくい。
バトンに乗る気がないのなら、外部から新たなドライバーを引っ張ってくるしかなさそうだ。とはいえスーパーライセンス保持者は限られており、持っていれば誰でもいいわけでもない。マクラーレンとしては、チームメイトのストフェル・バンドーンのみの出走も考えていると思われる。
今後もさまざまな波紋を投げかけそうな、アロンソのインディ500参戦。早ければ次戦ロシアGP明けから、イタリアにあるシミュレーション施設でトレーニングを開始するとのことだ。