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スフィアが思い出の地・代々木で起こした、ちょっとした“奇跡” 「充電期間」の重要性も考察

2017年04月12日 14:02  リアルサウンド

リアルサウンド

『LAWSON presents スフィアスーパーライブ2017 ミラクルスフィア in 代々木第一体育館』の様子。

「今までガーッと全力ダッシュしてきたスフィアが、少しスピードを緩めて競歩みたいになるのかな」(豊崎愛生・アンコールMCより)


 スフィアが3月4日と5日に代々木第一体育館で行なった約1年ぶりのワンマンライブ『LAWSON presents スフィアスーパーライブ2017 ミラクルスフィア in 代々木第一体育館』は、彼女たちの「ちょっとした奇跡」を改めて提示した公演だった。


 筆者は2日目の3月5日公演のみを見たが、その前日である3月4日の公演では、スフィアが10周年(2019年)に向け、2017年6月からスタートするツアーの終了をもってユニットとしての音楽活動を休止する「充電期間」に入ることを発表した。このニュースは多くの声優ファンに衝撃を与えるとともに、その翌日である5日に、寿美菜子、高垣彩陽、戸松遥、豊崎愛生の4人が、どんな言葉やパフォーマンスでその思いを伝えるのかに注目が集まっていた。


 だがしかし、スフィアはそんなシリアスな場を用意するユニットではない。ライブが代表曲「Ding! Dong! Ding! Dong!」で幕を開けたと思いきや、それぞれの身体と中身、そして歌割りまでもが“入れ替わっている”という某大ヒットアニメ映画をオマージュした「ミラクルスフィア劇場『君たちの名は。』」がスタートしたことで、開演前まで緊張感を含んでいた客席が一気に笑顔に包まれた。


 ちなみにこの演出は4人が発案したもので、前日の公演では違うメンバー同士が入れ替わっていたようなのだが、この日は寿が高垣を、高垣が豊崎を、戸松が寿を、豊崎が戸松を演じ(というよりはデフォルメされたモノマネに近い)、それぞれが入り込んだメンバーに対するイメージを体現しているようで微笑ましかったこと、なぜか充電期間発表のニュースが寿のソロショットだったことなどを堂々とイジり、観客を安心させたことも伝えておきたい。


 この日は「感謝を込めたセットリスト」とメンバーが語るように、前半は最新作からの楽曲は最小限で、「GO AHEAD!!」、「GENESIS ARIA」、「Planet Freedom」とハイテンションな楽曲が続き、グループの名前を冠した代表曲「A.T.M.O.S.P.H.E.R.E」、さらに一段階ギアを上げた「HIGH POWERED」と、グループ初期から作詞家として寄り添った畑亜貴の関連曲を連続で置くフルスロットルな選曲。これまでの代々木体育館ライブよりも多くトロッコを使い、一瞬でも観客全員の近くへ向かって歌を届けたいーーそんな強い思いも伝わってくるようだった。


 中盤は各メンバーのソロ曲として、「walk on Beliver♪」(豊崎)「Live & Try」(高垣)「カラフルダイアリー」(寿)「Q&A リサイタル! 」(戸松)を披露し、それぞれのキャラクターを改めてプレゼンテーションすると、MCを挟んで最新アルバム『ISM』から、彼女たちの大人な一面を全力で引き出した「SPHERE-ISM」、「& SPARKLIFE」で後半がスタート。<Never Ending Promise また逢えるんだ>と前向きに歌う「NEVER ENDING PARTY!!!!」、「クライマックスホイッスル」でラストスパートに突入した。そして<いつだって Let me do そう自分の意思で 歩いてたい やりたいことに 優先順位はつけずに>とここからの彼女たちを歌っているかのような「LET・ME・DO!!」、ラスト楽曲「Miracle shooter」で本編は終了した。


「私たちにとって、この代々木第一体育館は欠かせない場所です」(豊崎)


 アンコールは、代々木第一体育館への感謝を込めた映像が流れ、各メンバーが手書きで贈った同会場へのメッセージが映し出されると、全てを包み込むような、この日この会場のためにあったかのような楽曲「虹色の約束」へ。観客・メンバーが一体となりサビを歌い上げる光景は、この日のハイライトというべきエモーショナルな場面だった。


 アンコールでは前日の充電発表に加え、6月のツアー日程も告知。そのうえで戸松が「昨日あやひー(高垣)も言ってくれたんですけど、解散じゃないから!」と語り、高垣もお得意のダジャレで「じゅうでん(十年)目にむけて充電するらしいよ! と伝えてください」と明るく話すなど、悲壮感は一切見せずに進行。と思ったが、最後のMCではそれぞれがスフィアについての言葉を述べ、観客も一言も聴き逃すまいとじっと耳を傾けた。


寿「4人が集まるとスフィアになるけど、4人ともお芝居もみんなで歌うのも好きで、なにより楽しいことが大好き。だから10周年はスペシャルなことをできればと思います」
高垣「初めての代々木第一体育館は不安でいっぱいだったし、その2日間が超えられないならスフィアはダメだと思ったこともあるけど、その時のアンコールで『続けられる限りはスフィアでいたい』と思った」
豊崎「皆さんへ『ありがとう』は一生かけても返せないので、長く長く続けるための充電期間です」
戸松「10周年で帰ってくる時に、個々が成長できているように。だって、ソロライブを見に行っても、みんな『こんなのいつの間にできるようになったの!?』って驚かされるんだから」


 ここで冒頭に記した豊崎のMCも入っているのだが、その間に競歩のような歩き方をしている寿・高垣・戸松の姿と、それを見守る豊崎が、スフィアを象徴するようなシーンに見えたファンも少なくないだろう。最後は「Super Noisy Nova」と「vivid brilliant door!」でアンコールを終え、ダブルアンコールでは再び「LET・ME・DO!!」を披露、この日のライブが終了した。


 声優シーンにおける2010年代は、かつてないほど人気ユニットが登場し、個々の活躍や音楽的冒険にも充実している“実りの時期”といえるだろう。そのなかで少しだけ早く登場し、群雄割拠の時代を牽引したスフィア。“追われる側”としての重圧はかなりのものだっただろうし、多忙で活動が困難になるユニットも多いなか、それぞれが人気声優として成長しながらも、ここまで積極的に活動し続けれたこともまた「奇跡」なのだ。


<もう知っているんだ 夢に大小なんてなくて 全部叶えたい自分>(LET・ME・DO!!)
<欲しいものは全部手に入れてみたいね>(Miracle shooter)


 スフィアは次のツアーをもって音楽活動の「充電期間」に入る。しかしそれは豊崎の言うように「長く続けるため」のものだ。だからこそ、ラジオや個人活動を追いつつ、自分自身も成長しながら彼女たちを待ちたい。個人としてもユニットとしても、ファンにとっても「欲しいものを手に入れるため、全部の夢を叶えるため」の充電なのだから。(中村拓海)