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スコット&リバースが『ニマイメ』で表した“新しいJ-POP” キャリアと音楽性から魅力を分析

2017年04月12日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

スコット&リバース

 weezerのフロントマン、リバース・クオモと、元ALLiSTER/MONOEYESのスコット・マーフィーが、「日本語で歌う」をコンセプトに結成したプロジェクト・スコット&リバースによる、前作からおよそ4年ぶりとなる2ndアルバム『ニマイメ』が4月12日にリリースされる。


 ジャパニーズ・カルチャーやJポップ・Jロックへの造詣が元々深い、2人の生み出すメロディはどれも極上で、ちょっと湿り気のあるコード進行と共に日本人の琴線を揺さぶりまくる。それにしても、二人は何故そこまで「日本」に傾倒していったのだろうか。いわゆる「欧米ロックやポップス」と「JポップやJロック」の違いはどこにあり、魅力を感じるのはどんなところなのだろうか。


 まずは、リバース・クオモとスコット・マーフィーの経歴についてざっと振り返ってみたい。


 ニューヨーク州ニューヨーク出身、コネチカット州ストアズ育ちのリバースは、Guns N’ Rosesの影響で18歳の時にロサンゼルスに拠点を移し、そこで出会ったメンバーと共に1992年にweezerを結成する。1995年にリリースしたセルフタイトルのデビュー・アルバムは、全米で300万枚以上のセールスを記録。内向的な歌詞の世界と泣きのメロディ、メタルやパンクを通過したバンドサウンドのコントラストは、日本でも“泣き虫ロック”と形容され大きな話題となった。


 続く2ndアルバム『Pinkerton』では、ジャケットに歌川広重の浮世絵『東海道五十三次』の一幕を使用したり、タイトルが『蝶々夫人』の登場人物の名前だったり、リバースの親日的な部分が早くも作品に反映されるようになる。以降はメンバーの脱退や一時的な活動休止など、いくつかの試練を乗り越えつつ、マイペースに作品を作り続けてきた。私生活では、長年交際していた日本人女性と結婚。夫人の実家がある九州への帰省なども含め、頻繁に来日しているようだ。


 一方、アメリカ・イリノイ州シカゴ出身のスコットは1995年、16歳の時にメロディック・パンクバンド、ALLiSTERを結成する。2001年に初来日公演を行っているが、その際たまたま立ち寄った沖縄料理の屋台で、 THE BOOM の「島唄」を耳にし衝撃を受けた。アメリカでは聴いたことのない独特の響きに魅了され、たちまち日本の文化や音楽へとのめり込む。例えば、ALLiSTERが活動休止直前にリリースした『Guilty Pleasures』(2006年)では、スピッツの「チェリー」やサザンオールスターズの「TSUNAMI」、BEGINの「島人ぬ宝」を日本語で、森山直太朗の「さくら」を英語でカバー。この企画は好評で、ソロになったスコットによって引き継ぎシリーズ化されることとなる。スコット&リバースの青写真は、この時すでに出来ていたのかもしれない。


 その後も『SUMMER SONIC』への2年連続出場や、『スッキリ!!』『めざましテレビ』『HEY!HEY!HEY!』などテレビ出演も積極的に行い、2015年からはthe HIATUS・ELLEGARDENの細美武士らと結成したバンド、MONOEYES のメンバーとしても活動している。


 さて、そんな二人が共通の友人であるエンジニアを介して意気投合し、2008年に結成したのがスコット&リバースだ。


 初お披露目は、それから4年後の2012年暮れ。『RADIO CRAZY』や『COUNTDOWN JAPAN 12/13』に出演すると、Jポップ・Jロックに影響を受けたハッピー&サッドなメロディと、カタコトの日本語で一生懸命歌う二人の姿は、多くのオーディエンスに強烈な印象を残した。翌年3月には、満を辞してのデビュー・アルバム『スコットとリバース』をリリース。およそ5年かけて制作された本作は、自分たちのオリジナル曲の他に木村カエラの大ヒット曲「Butterfly」を取り上げており、QUEENやJellyfishあたりを彷彿とさせる壮大なアレンジによって、再び彼らは大きな話題となった。


 その後、ツアーやフェス出場など積極的にライブ活動~メディア露出などを行うも、2014年末に開催された『COUNTDOWN JAPAN 13/14』をもって暫し活動休止に入る。


 そして、昨年8月に活動再開。MONGOL800のキヨサクや、RIP SLYMEのPESをゲストに迎えた新曲「Doo Wop feat.キヨサク(MONGOL800)」「FUN IN THE SUN feat.PES(RIP SLYME)」を経て、このたびリリースされるのが、冒頭で述べた彼らの2ndアルバム『ニマイメ』である。


 まず、タイトルからしてユニーク。彼らにとっての「2枚目」のアルバムという意味でもあるし、自分たちは「二枚目=男前」だという意味もあるだろう。オフィシャル・インタビューによれば、「見た目だけじゃなくて、音楽もカッコいいという意味も込めている」(スコット)という。アートワークは、漫画家/イラストレーター窪之内英策氏による、描き下ろしイラスト。窪之内はマンガ『ツルモク独身寮』や『チェリー』『ピカモン』などを手がけてきたベテランで、NOKKOが2015年にリリースしたレベッカのカバー・アルバム『NOKKO sings REBECCA tunes 2015』のジャケットを描き下ろしたのも彼だ。


「今回のアルバム・ジャケット案がいくつか最初にあったんだけど、あまりピンとこなくて。そんな時(スタッフから)窪之内さんの鉛筆のスケッチを見せてもらい、「何これ、何これ、カッコいいじゃん!」って思った。CDは最近、世界的に売れなくなってきてるけど、このジャケットだったら欲しくなってもらえるんじゃないか、少なくても僕は欲しくなったので、凄くいいなって思ったんです。結果的に素敵なアルバムのジャケットになりました」(スコット)


 サウンドは、前作からの流れを汲んだポップ&キャッチーなメロディと日本語の歌詞、そしてシンプルかつエッジの効いたバンドアンサンブルが主軸となっており、前作よりも“バンド感”を強く打ち出しているように感じる。前作では、1曲ごとにゲストやサポート・ミュージシャンをたくさん呼んでレコーディングしているため、アルバムとして統一感を出すというよりは、彼らの音楽的引き出しを「これでもか!」と言わんばかりに開け放っている印象があったのだが、今作はほとんどの楽曲を現在のライブ・サポートメンバーが関わっていることにより、全体的にまとまりがある上に“ライブ感”すら感じさせる仕上がりになっているのだ。


また、今回はゲストも多彩。上述したMONGOL800のキヨサクや、RIP SLYMEのPESの他、miwaがリード曲「変わらぬ想い」にフィーチャリング参加している。この楽曲は、miwaのニュー・アルバム『SPLASH☆WORLD』にはスコット&リバースがコーラスとして参加するバージョンが、本作にはスコット&リバースがメイン・ボーカルで、miwaがコーラスするバージョンが収録されている。また「変わらぬ想い with miwa」は日本人作家も携わっており、こうしたコラボレーションは、スコットとリバースにとって「作曲面」での大きな発見もあったようだ。


「僕が一番興味深いと思ったのは、日本の作曲家はほとんどの場合、歌詞を書く前にメロディを完全に仕上げるところ。メロディだけを最初から最後まで完璧に仕上げてから歌詞に取り掛かる人をアメリカでは見たことがない。でも日本では、その完成したメロディに歌詞を当てはめていくんだ。凄く面白いと思ったよ」(リバース)


 さらに海外勢では、Death Cab for Cutieのベン・ギバードが「君はサイクロン」の作曲で、weezerのスコット・シュライナーが「本音なんだ。」のベースで参加している。この辺りは、洋楽ファンも気になるところだろう。


 それにしても本作、コード進行やそこに乗せるメロディ、キャッチーな掛け合いコーラスにライブで盛り上がりそうなキメやリフなど、「この人たちは本当にJポップ・Jロックが大好きで、研究し尽くしているのだな」と感心するところがたくさんある。以前、本サイトで行ったインタビューでリバースは、Jポップ・Jロックの魅力について「スーパー・キャッチーなメロディ。スーパー・ハイエナジーなサウンド。それからコンプレックス(複雑)なコード進行」と話していたが、まさにそうした要素がふんだんに盛り込まれているのだ。


「スコリバには、weezerだったら出来ないような、新しいことや実験的なことなど、なんでもチャレンジできる自由がある。だから、例えばスコリバで「風吹けば」や「君はサイクロン」のような曲ができたら、それをweezerのマネージャーに送って『こういうのが新しいサウンドっていうんだ』って言ってやるんだ。そうするとweezerチームはそれに刺激を受けて、次のアルバムではもっと新しいことにチャレンジする気になってくれたりするんだよ」(リバース)


 洋楽に憧れながらも、日本人ならではの解釈によって、独自に発展していったJポップ・Jロック。その魅力に取り憑かれた「洋楽アーティスト」が、このような形で作品を「逆輸出」してくるのは実に痛快だし、日本人リスナーとしても光栄だ。目標は「紅白歌合戦出場」と話すリバース。彼らの音楽が、もっとこの国のお茶の間に浸透していくことを期待したい。(黒田隆憲)