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伊藤淳史の魅力は“お人好しキャラ”だけではない 『ねこあつめの家』受けの演技を考察

2017年04月12日 11:42  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2017 Hit-Point/『映画ねこあつめ』製作委員会

 子役として俳優デビュー後、バラエティ番組『とんねるずのみなさんのおかげです』(フジテレビ系)のチビノリダー役で人気を博した伊藤淳史。その後も、俳優として着実にキャリアを積み、映画やドラマで主演を務めることも多くなった。最新作『ねこあつめの家』でも主演を務め、新人賞を受賞したものの、スランプに陥る作家・佐久本勝を好演した。キラキラと光り輝くイケメン俳優が映像界を席巻しつつあるなか、独特の存在感で主役も脇役もこなせる伊藤の魅力に迫る。


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 俗にいうカメレオン俳優でも、憑依型でもなく、伊藤といえば、愛嬌と親しみやすさで視聴者に安心感を与える特徴を持つ俳優だ。もちろん、ドラマ『無痛~診える眼~』(フジテレビ系)では、熱血漢で後先を考えない刑事を演じるなど、近年では新境地を見せつつもあるが、本人も「極端な悪人や汚れ役をやったことがない」と言っているように、確かに“憎めない、お人好しキャラ”が板についている。


 本作でも、文芸賞の新人賞を受賞し、華々しくデビューしたものの、スランプに陥り、忽那汐里演じる編集者・十和田ミチルからは静かな口調で叱咤され、挙句の果てには、占いを信じ、見知らぬ土地に現実逃避する“ヘタレ”を演じている。さらに、その場所で野良猫たちに懐かれ、収入もないのに高価な餌を購入してしまうという“お人好しキャラ”も全開だ。


 こうしたキャラクターを演じれば“伊藤の右に出るものはいない”と思わせるほど、切れ味鋭い(!?)ヘタレっぷりを披露しているが、自身のパブリックイメージと、演じるキャラクターの親和性で押し切るだけではないのが伊藤の魅力だ。劇中、伊藤演じる佐久本が対峙するのは、猫たちと、前述の編集者ミチル、そして木村多江演じるペットショップの店主・寺内洋子なのだが、この2人の女性が非常に魅力的に映る。それは伊藤の受けの演技からくるものなのだろう。


 特に木村は、伊藤が「台本を読んでイメージしていたキャラクターの上をいく演技だった」というように“強め”でありながら愛嬌たっぷりで、含み笑いが小悪魔的という、キャラクターが非常に魅力的だった。これは、伊藤が演じた佐久本が、作家という潜在的な才能を持ち合わせている人物であるにも関わらず、四方八方隙だらけで、木村からすると、攻め甲斐があったから出来上がったキャラクターのように感じる。伊藤は「余計なことを全くしなかった」と役作りについて述べていたが、佐久本という人物への理解度の高さがうかがえる。


 これまでの伊藤が出演した作品を観ていると、同じような特徴を感じることが多い。大ヒットし、自身も日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞した『映画 ビリギャル』でも、有村架純演じる工藤さやかの塾講師として伊藤は出演しているが、この作品でも、有村が紆余曲折するさやかの姿を感情表現豊かに演じているなか、隙を見せつつも“絶妙な大きさの器”で受け止め、さやかというキャラクターを非常に魅力的に映し出す役割を担っている。


 また、伊藤が『チーム・バチスタ』シリーズ(フジテレビ系)や、TBSとWOWOW共同制作『MOZU』シリーズなど、仲村トオルや西島秀俊といった主役然とした俳優の相棒役(『チーム・バチスタ』シリーズは伊藤が主演だが)としてしっくりくるのも、彼によって作り出された隙のあるキャラクターが、受けに回ることによって、「この人はこういう性格だ」ということを直接的に伝えるのではなく、自然と観ている人に染み込ませることができるからだろう。
 
 個性の強い俳優と組んでも、スポンジのように吸収し物語に深みを与え、自身が主役となっても、周囲を魅力的に輝かせ、その光に自身も照らされジンワリと人の心に染み込んでいく……。こうしたどちらもこなせる俳優というのは、なかなかいないのではないだろうか。


(磯部正和)