2017年04月11日 23:12 リアルサウンド
90年代初頭にブレイクした時のレニー・クラヴィッツか! それをもっとサイケ方向にブーストかけたやつか! と言いたくなる、「超オールド・スタイルだけど今の音」な「アイスタンドアローン」で始まり、アコースティック・ギターとストリングスをまとって童謡のように歌われる「お月様の歌」で終わる、GLIM SPANKYの新しいミニアルバム『I STAND ALONE』。5曲ともこれまで以上に吹っ切れた曲の書かれ方をしているし、鳴り方をしている。
60年代ロックを今に蘇らせ新鮮に響かせる、すばらしく年齢不相応な新人としてまず注目を浴びたユニットだが、ただし、逆に言うと50歳とか60歳でGLIM SPANKYのような音を出している先輩ミュージシャンなど、ほぼいない。それに、高校生の時に『閃光ライオット』で勝ち抜いたことから始まり、下北沢や新宿のライブハウスの活動を経てデビューにこぎつけ、現在に至っているそのキャリアも、同世代のミュージシャンたちと何も変わらないものだ(現在ボーカル・ギターで詞曲を手がける松尾レミは25歳、ギターでアレンジを主に担う亀本寛貴は26歳)。なぜこの音を選び取ったのか、そしてなぜそれがこのようなすばらしいものになるのか、ここまでどのように歩んできたのかなどを、『I STAND ALONE』のことと共に訊いた。(兵庫慎司)
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■長野でひとりで「I stand alone」っていう名前でやってた(松尾レミ)
ーー1曲目の「アイスタンドアローン」って、タイトルだけでもう「ああ、GLIM SPANKYだなあ」と。
松尾レミ(以下、松尾):(笑)そうですね。たぶん、この曲を1曲目にしたいなと思ったきっかけが……前作の『Next One』を出して、大きなタイアップもあって、そういう環境にどんどん広がっていったんですけど、関係なく私たちは尖り続けているっていう気持ちを、最初に見せたくて。「I stand alone」、「孤高に立っている」っていうタイトル、そのメッセージ性っていうのは、高校生の頃からすごくいいなあと思っていて、いつかこのタイトルで曲を作りたいなと思っていたので。
ーー高校生の頃は、どんな感じでその言葉に惹かれたんでしょうね。
松尾:その「ひとりで立っている」っていうのが、自分の創作活動にすごくあてはまって。長野県の田舎だったので、ロック好きな人もいないし、興味を持ってくれるような人もいなかったので、もう関係ない、私がいいと思ったものを作り続けようっていう心意気でやっていたので。それにこの言葉がすごく当てはまったっていうのと、あと、GLIM SPANKYをやりつつ、長野県でひとりでアコースティック・ギターでライブしてたんですよ。その時に「I stand alone」っていう名前でやってたんです。
ーーあ、アーティスト名だったんですか。
松尾:はい。いろんな市とかに行って歌うんですけど、「I stand alone」っていう名前で、尖ってやってたんですよ(笑)。で、大学で上京した時に、4人だったメンバーがふたりになって、アコースティックでもふたりでやるようになったんで、その名前を使わなくなっていったんですね。でも私はその言葉が好きだから、心の中にしまっておいたんです。その言葉を使える曲が作れる時に出そうと思っていて、それが今かなっていうことで。
ーー確かにGLIM SPANKYって……望む望まないにかかわらず、結果として、自分たちって今「アイスタンドアローン」なことになってるなあと思いません?
松尾:あははは、そうですね。でも、昔から変わらない、「私は孤高でいたい」っていう思いも半分はありつつ……イベントに行ったり、テレビに出たとしても、やっぱり異色というか、周りに合わないっていうのはあって。「それもよし」っていう肯定の意味での「アイスタンドアローン」でもあるので。昔思ってた気持ちもありつつ、今の状況さえも肯定するっていう、ポジティブな要素が加わった解釈になったかな、って思います。
ーー──たとえば長野にいた頃は、東京に行けば、こんなに「アイスタンドアローン」じゃないんじゃないか、と思っていたらーー。
松尾:「思ったよりいないぞ」っていう(笑)。
亀本寛貴(以下、亀本):かなり「アイスタンドアローン」だよね。
ーーだから、今は平気だろうけど、最初は戸惑いもしただろうなあと。
松尾:いや、戸惑いはしなかったです。単純に「なんでなんだろう?」みたいには思いましたけど。
亀本:でも逆にありがたいと思ってますけどね。だって、このバンドもあのバンドもベクトルが近いってなると、ライバルじゃないですか。同じベクトルで勝負しなきゃいけないって思うんですけど、そういう人いないから。すごいなあって思う人はいますけど、ベクトルが違うので。「自分たちは自分たち」って気持ちを持ててる感じだから。
松尾:長野県にいた時は、音楽が好きな人がいないっていう孤独だったんですけど、それがちょっと違う意味も加わってきたなと。それもあってこういう曲ができたのかな、と思います。
■私たち、ライブハウスのホームがないんですよ(松尾レミ)
ーーちょっと前に、雨のパレードのライブにゲストで出たじゃないですか(2月5日、リキッドルームにて開催の『雨のパレードpresents『&』』)。雨パレの福永浩平(Vo)さんがMCで、松尾さんと同い歳だと言っていて。
松尾:そうそう、平成3年生まれ。
ーーで、「この世代で時代を変えようと思ってるんで!」って言っていて。「あ、GLIM SPANKYにも同世代で仲間意識を持てるバンドがいたのか!」と。
松尾:いや、あんまり仲間意識は持ってないですけど(笑)。でもなんか仲良くて、よく話はしていて。同世代だからこそ……やってるジャンルというか、テイストはーー。
亀本:全然違うもんね。
松尾:違うけど、同世代で「がんばろうね」って言える人かなあと思いますね。
ーーあとMCで、Suchmosとかも同世代で、よく対バンしてたっていう話もされていて。
松尾:そうですね、あのー、河西くん、YONCE……YONCEって恥ずかしくて言えないんですけど(笑)。
亀本:河西くんは違うバンドをやってたんです。
松尾:そう、OLD JOEっていうロッケンロー・バンドを。
亀本:で、そのドラムがGLIM SPANKYのドラムでもあったから。
松尾:だからよく対バンしてたんで。大学に入ってすぐの頃からの仲です。
亀本:下北とかで。で、ドラムがいい感じだったんで、僕らがデビューする直前ぐらいから叩いてもらってて。
松尾:だから、河西くんとかは同い年だし。あと誰だっけ……。
亀本:角舘くんとか。
松尾:ああ、健悟、Yogee New Wavesの。大学の同級生なんで、仲良いんですよね。
ーーきっとそれぞれ当時は、ライブハウスの人からしたら、対バンに困る人たちだったんだろうなあと思って。
松尾:(笑)はいはい、ありましたありました。
ーーという人たち同士で仲良くなったのかなと。
亀本:対バンはすごい困ってたよね。
松尾:その話を雨パレの浩平くんと楽屋でしてて。私たちも「誰と対バンさせたらいいかわかんない」っていつもライブハウスのブッキングの人に言われてたバンドで、雨パレも同じことをよく言われてたらしくて。だから私たち、ライブハウスのホームがないんですよ。仲良いバンドはいるけど、チームっていうか、その界隈には所属しなかったんで。逆に今になって、その所属してなかったバンドたちが出てきて、もう一度再会できてるって状態ではありますね。おもしろいです。
■「やってきたことはムダじゃなかった、よかった」みたいな感じがあった(亀本寛貴)
ーーあの、誰かが売れると同じようなバンドが次々と出てくるのが音楽業界だ、みたいな印象を昔は持ってたんですけど、業界の前にライブハウス界隈がまずそうなるんですよね。似たようなバンドがドッと増えて。
松尾:そうなんですよね、ほんとに。
ーーアマチュアの方がプロ以上に流れに乗る、だからそうじゃないバンドはプロ以上に浮くっていう。
松尾:ああ、確かに。
亀本:そうだよね。今Suchmosみたいなバンド、めっちゃ増えてるかな?(笑)。僕らがライブハウスでやってた時は、毛皮のマリーズとかTHE BAWDIESの人気が出始めた頃だったんで。そういうバンドめっちゃ増えた。
松尾:めっちゃいたね。あと、神聖かまってちゃんが出てきた時は、ああいうヤバい感じのバンドがいっぱいいたし。ほんと早いと思います、移り変わりは。
ーーだから、そんな中で、ここを抜け出してプロにいったらこんなことはなくなるだろうと思ったら、またもや「あれ? あんまり変わらないぞ」ってなるわけじゃないですか。
松尾:(笑)そうですね。
ーー「フジロックではウケたけど、ほかではそうでもなかったりするぞ」とか。
松尾:そうなんですよ。だからおもしろいですね。フェスによって……いつもは全然対バンしないバンドとか、たとえばアイドルとかのTシャツを着てる人が、私たちの曲でも一応ノッてる、みたいな光景が、すごいおもしろくもあり、不思議でもあるっていう。
亀本:うん。でも、2015年にフジロックに出て、2016年はいっぱいフェスに出ていく中で、だんだん「フェスに行っている人たちにも少しずつ存在を知られるようになってるぞ、僕ら」っていうのを感じるようになって。年末のCOUNTDOWN JAPANも、2015年はすごいスカスカだったんですけど、2016年はけっこうお客さんが入ってくれて。
松尾:そうだったね。
亀本:だから「やってきたことはムダじゃなかった、よかった」みたいな感じは、すごくありましたね。
ーーだから、この『I STAND ALONE』の5曲を聴くと、「あ、これでいいんだな」っていう確信を深めながら曲が作られていった感じがして。前はいろいろ戸惑いながらも「でもやるんだ!」っていう感じだったのが、もっとのびのびと「浮いてても大丈夫なんじゃん!」っていう感じになったような。
亀本:そうですね、今回は。
松尾:もうそのとおりで。なんかもう、逆に行った方が……自分たちが浮いてるって方向に行った方がいいんじゃないかと。だからそっちに完全に振り切って、好きな曲ばかりをやったっていう。ほんとに趣味というか……まあ今までも好き勝手作ってましたけど、今回、タイアップがない状態から作り始めたっていうのが、特に大きくて。ほんとに好き勝手できたんで、クリエイティブな面ではすごく楽しくて。実験してるみたいなワクワク感がありましたね。
亀本:タイアップの曲とかは……「自分たち、こんな曲できるのかなあ?」っていうぐらいの領域に行ってたんですよね。たとえば映画『ONE PIECE FILM GOLD』に書いた「怒りをくれよ」ぐらい速い曲って、デビュー前はなくて。デビューしてからドラマの主題歌で書いた「褒めろよ」から、どんどんそういうのができるようになってきて。っていうふうに、新曲を作るたびに自分たちの未知の領域に踏み込む曲が多かったし、その作業は新鮮だったっていうのはあって。で、今また次の曲を作る時に、それと同じような曲を作っても僕らにとって新鮮じゃないな、っていう気持ちになって、今新鮮だと思うことを自然にやったのがこの5曲だった、っていう流れだと思うんですけどね。
■60年代の音楽には、予測できないワクワク感がある(松尾レミ)
ーーそれにしても……いつもこういう話をしてる気もしますけども、なぜにGLIM SPANKYは好きなことを自然にやるとこういうルーツ・ロックな音になるんでしょうね。
松尾:なんか、私は……たぶんなんですけど、60年代ぐらいの、まだロックがちゃんと確立されてない時代のロックって、すごく実験的な匂いがするっていうか。いろんなミュージシャンが実験しながら新しいロックサウンドを生み出していった、その宝箱を開けたようなドキドキ感とかワクワク感がすごく魅力的で。その時代の音楽って、何を聴いても、そのミュージシャンが本当に未知の領域に踏み込んでいる感じがして、リスナーとして予測できないワクワク感があって。
あと、そのロックとすごくからみついてる、ファッションだったりとか、アートだったりとか、文学だったりとかが、すごく魅力的だなと思うので。音も好きなんですけど、それに付随するカルチャーが音楽から読み取れることが好きで。だから私はその時代の音楽に魅力を感じるんだろうなあって思います。まだ確立されてないワクワク感、新しく今にも生まれそうな何か、みたいな、そういう希望が感じられるんですよね、なぜか。
だから70年代後半から80年代のロックを聴くと、全然違う脳味噌になるというか。たとえばサイケデリック・ロックも、私は60年代から70年代前半のものが好きで。70年代からは、ジミヘン(ジミ・ヘンドリックス)とかLed Zeppelinが勢力を増してきて、激しい、歪んだ……ハードロックが確立されてきて。Deep Purpleとかが出てきて、だんだん激しくなってーー。
亀本:激しいのが嫌いなの?(笑)。
松尾:違う違う、嫌いじゃないんだけど……その、激しくなってくるのが、ロックというフォーマットがあった上に、激しさが上乗せされているような感覚になるというか。だから、激しさが上乗せされない時代のものに、とても魅力を感じてしまう、っていうのはあるかもしれないです。
ーーたとえばサイケデリックは、自分でも何がやりたいんだか、どこを目指したいんだかわからないまま作っていたと思うんですね。でもハードロックとして確立されると、自分のやりたいことがわかっていて、ある意味高性能化していくというか。
松尾:ああ、そうですね!
亀本:そうですね、ハイテク化していきますよね。
松尾:たぶんそういうことです。なので、そうなんだよなあ……たとえばPink Floydとかも、初期は違うけど、途中からハイテク化していくじゃないですか。やっぱり初期を聴きますもんね。なんか……そういう好みだな。自分の趣味。
亀本:そうだね。そこは僕と違うんですけどね。
ーーあ、そうなんですか?
亀本:はい。僕はLed Zeppelinも好きだし、Pink Floydも好きだし、70年代ロック大好きなので。
松尾:だから私は、現代のバンドも、たとえば……この前来日してたThe Lemon Twigsとか、あとTemplesとか。そういうバンドって、60年代とかの音楽を現代のサウンドにしてるから、好きになっちゃうなあっていう。
亀本:あれは現代のサウンドになってんのかな?
松尾:なってる!(笑)。