4月14~16日、イギリス・シルバーストンではWEC世界耐久選手権、ELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズ、ワールド・シリーズ・フォーミュラV8 3.5という各シリーズ開幕戦とともに、FIA-F3ユーロピアン選手権(ユーロF3)の開幕戦が開催される。ヨーロッパにおける2017年シーズンが本格的に始まるが、今回はユーロF3の直前プレビューをお届けする。
まずはエントリーリストをご覧いただこう。ミュッケ・モータースポーツとTスポーツが17年シーズン、参戦を断念したことで、今季は僅か5チームしかユーロF3に顔をみせていない。
しかも、モトパークとカーリンは1チーム最大4台という規則の枠を使いきらない3台体制に留まっている。結果、ユーロF3の年間参戦は原稿執筆時点で18台に過ぎない。
カーリンはハンガリー・ハンガロリンクとオーストリア・レッドブルリンクのテストに4台目のドライバーとして、14シーズンに同チームからユーロF3を戦い、16シーズンはアーデンでGP3を戦ったジェイク・デニスを招聘。
ただし、デニスによると「(ハンガロリンクの)テスト直前になってチームから誘われた」とその理由を語り、17年シーズンをカーリンで戦うという契約は結んではいないようだ。
現状18台とは少々寂しい限りだが、少数精鋭とは言えないまでも注目のドライバーは少なくない。
たとえば元F1チャンピオンのネルソン・ピケの息子で、16年からVARでユーロF3で戦うペドロ・ピケが今季も参戦を継続。さらに“皇帝”ミハエル・シューマッハーの息子、ミック・シューマッハーがプレマから新規参戦する。
また、久しぶりに日本人ドライバーが複数名参戦する。
ひとりはホンダ育成ドライバーで、F3経験のある牧野任祐(ハイテック)。もうひとりは昨年FIA-F4イタリア選手権を戦った佐藤万璃音(モトパーク)だ。佐藤は国内自動車メーカーの支援を受けないドライバーで、F3は未経験。
言葉が適切かどうかは分からないが、日本のモータースポーツファンとしては、“キャリア”と“ノンキャリア”の切磋琢磨にも注目したいところだろう。
タイトル争いに絡むと見込まれるドライバーを挙げよう。
まずは、16年シーズンのユーロF3で王座に就いたランス・ストロール(ウイリアムズF1)に次ぐランキング2位となったマキシミリアン・ギュンター(プレマ)。今季はユーロF3を戦いながら、DTMドイツツーリングカー選手権のメルセデス陣営の一員としてテスト/リザーブ・ドライバーを務めている。
元レッドブル・ジュニア・ドライバーで、昨シーズンはランキング6位につけたカルン・アイロット(プレマ)も、最強チームへ移籍してタイトルを狙う。そのプレマから移籍したラルフ・アロン(ハイテック)は、かつて全日本F3選手権で活躍したマルコ・アスマーのドライビング・サポートを受け、2シーズン目の挑戦となる。
もうひとり、ジョエリ・エリクソン(モトパーク)も外せない。16年シーズンのルーキー・チャンピオンシップでトップ、かつ総合ランキングでも5位となったエリクソンは今季、必ずやタイトルに絡むだろう。
このほかに変わり種として、レッドブルF1チームの最高技術責任者を務めるエイドリアン・ニューウェイの息子、ハリソン・ニューウェイ(VAR)の継続参戦や、元オーストリア皇太子のオットー・フォン・ハプスブルクの孫にあたるフェルナンド・ハプスブルク(カーリン)のデビューが決定している。
規則についてFIA国際自動車連盟は、ユーロF3をより公平に実施すべく、17シーズンよりエンジンを抽選制にした。
これは各エンジン・チューナーが特定チーム/特定ドライバーへ、高性能なエンジンを供給しているのではないか? という疑念を払しょくするためだ。もちろん、メルセデス・ユーザーはメルセデスの中で、フォルクスワーゲン・ユーザーはフォルクスワーゲンの中で、それぞれエンジンが割り当てられる。
事情通によると、メルセデス・エンジンには“Aスペック”と“Bスペック”が存在し、16シーズンまでは高性能の“Aスペック”が特定チームに供給されていたという。一方、フォルクスワーゲン・エンジンにはそうした差がなく、どれも同じ性能を発揮しているので、抽選制による弊害は生じないだろうとの観測である。
また2017年のF3はシャシー側にも大きな変更があった。FIA-F3規則に準拠するF3シリーズであるユーロF3、全日本F3ともにフロントウイング、フロントノーズ、リアウイング、リア・ディフューザー、サイドポンツーンなどのエアロパーツにアップデートが施されている。
さらに、安全性をさらに高めるため、ドライバーの足元を固定するレッグパッドの導入。側面衝突時にドライバーの身を守るモノコック側面へのザイロン・パネル追加などもあった。
17年シーズン直前、GP2がFIA-F2に改称した流れで、近い将来にはGP3もFIA-F3(ユーロF3)に統合されるのではないかという観測もある。
時代の端境期にある17年シーズンのユーロF3ではあるが、マックス・フェルスタッペン(レッドブルF1)やランス・ストロール(ウイリアムズF1)といった若手を輩出してきたミドルフォーミュラ・レースの中でも、半世紀前からその姿を大きく変えていないチャンピオンシップの動向を注視したい。
2017年FIA-F3ヨーロピアン選手権 開幕戦シルバーストン エントリーリスト
NoDriverTeamMachine1ジョーエリ・エリクソンモトパークダラーラF317・フォルクスワーゲン3マキシミリアン・ギュンタープレマダラーラF317・メルセデス-ベンツ5ペドロ・ピケVARダラーラF317・メルセデス-ベンツ7ラルフ・アロンハイテックダラーラF317・メルセデス-ベンツ8チョウ・グァンイゥプレマダラーラF317・メルセデス-ベンツ11牧野任祐ハイテックダラーラF317・メルセデス-ベンツ17ハリソン・ニューウェイVARダラーラF317・メルセデス-ベンツ21ジェイク・デニスカーリンダラーラF317・フォルクスワーゲン25ミック・シューマッハープレマ【R】ダラーラF317・メルセデス-ベンツ27ジェハン・ダルバラカーリン【R】ダラーラF317・フォルクスワーゲン31ランド・ノリスカーリン【R】ダラーラF317・フォルクスワーゲン33佐藤万璃音モトパーク【R】ダラーラF317・フォルクスワーゲン34ジェイク・ヒュースハイテックダラーラF317・メルセデス-ベンツ47カイバン・アンドレス・ソーリモトパークダラーラF317・フォルクスワーゲン53カルン・アイロットプレマダラーラF317・メルセデス-ベンツ55ダビッド・ベックマンVARダラーラF317・メルセデス-ベンツ62ファーディナンド・ハプスブルクカーリンダラーラF317・フォルクスワーゲン96ジョリー・モーソンVAR【R】ダラーラF317・メルセデス-ベンツ99ニキータ・マゼピンハイテックダラーラF317・メルセデス-ベンツ
※エントリー・リストは2017年4月11日時点。【R】はルーキー・ドライバー。