雨に翻弄された2017年F1第2戦中国GP。開幕戦オーストラリアGPで入賞を逃したマクラーレン・ホンダは、ここでもトラブルに見舞われポイント獲得とはならなかった。そんななか、このレースを“キャリアベストレースのひとつ”と表現したフェルナンド・アロンソと、終始苦戦を強いられたストフェル・バンドーンの戦いを、無線から振り返る。
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「クルマが勝手にリセットしたよ。勝手にオフになってまたオンになって、今はオンになっている」
フォーメーションラップ開始直前、ダミーグリッド上のアロンソが無線で報告した。開幕前のテストで散々経験した、ハーネス不良によるシャットダウン症状の再発かと思われたが、なんとか問題なくフォーメーションラップのスタートを切ることはできた。
「ターン11にオイルが出ているかもしれない。訂正、11番グリッドにオイルが出ていて滑りやすいかもしれない」
マクラーレンのピットからの情報も錯綜していて、車体リセットの原因も説明されないまま決勝のスタートとなった。
アロンソは13番グリッドからアグレッシブな走りで8番手まで浮上してみせたが、同じようにポジションを上げていたストフェル・バンドーンはハースと接触し、15番手まで後退してしまった。
「クルマは大丈夫?」とバンドーンはチームに損傷具合の確認を依頼。
「リムはダメージを負っているようだがシャシーにダメージは確認できない。ピットインしたときに確認する」
ランス・ストロールの事故でVSCが出たのを見たアロンソは、スタート前に「路面はあっという間に乾きそうだ」と報告していたことからもここでギャンブルに出て、ピットに飛び込んだ。
「ピットインするよ?」
「OK、BOXしろ」
しかし、温まりにくいソフトタイヤでまだ湿った路面を走るのは容易なことではなかった。思わず「XXX! クルマをコース上に留めるために集中力が必要なんだ!」とエンジニアからの無線を遮ってドライビングに集中する。
上位勢のピットストップもあり、アントニオ・ジョビナッツィの事故処理のためのセーフティカーが解除される際にはアロンソは6番手まで浮上してきた。
しかしスタートからスーパーソフトを履いていたカルロス・サインツはすでにしっかりと温まったタイヤで圧倒的な速さをみせ、アロンソを抜いていった。
「フェルナンド、前のサインツは今コース上で最速だ」
「ならコーナーでは僕が最速だ!」
「ポジション7。後ろのペレスとは4.5秒差」
「あぁ、雨がもっと必要だ」
レース後、「コーナーでは僕が最速」発言の理由を聞くと、アロンソは「ストレートではサインツとの差が開き、コーナーで追い付いていたんだから、コーナー最速は僕ってことになる」と答えた。
もちろん、レース全体を通してサインツが最速だったわけではなく、このレース序盤の限られたコンディションでのみの話ではあるのだが。
アロンソが上位の3強チーム5台とサインツからジワジワと離されながらも7位を走行していると、後方で苦戦を強いられていたバンドーンが無線で訴えてきた。
「パワーを失った。またパワーサイクルをやる?」
「OK、燃料のトラブルだ。バックオフ、バックオフ。ピットインしてくれ」
開幕戦では制御系のセンサーエラーのためERSの発電が止まり、マシンを再起動して回復させたバンドーンだったが、今回は燃料タンクの不具合による燃圧低下でどうすることもできずリタイアを余儀なくされた。
20周目、ソフトタイヤを履くアロンソを抜けない8位ペレスが、状況打破を狙って早めのピットインに向かった。しかしアロンソのタイヤはまだまだ問題なく、計算上は走ろうと思えば最後まで走り切ることもできるはずだった。
「ペレスがピットインした。タイヤはどうだ?」チームからアロンソに無線が飛ぶ。
「タイヤはOKだよ」
レースエンジニアのマーク・テンプルは、アロンソに周囲のドライバーの状況を随時伝えていく。
「10秒後方のマグヌッセンは我々と同じ周回のオプションタイヤ(=スーパーソフトタイヤ)、我々と同じペースだ。さらに8.5秒後方のペレスもオプションだ」
「後ろは僕らより柔らかいタイヤを履いているんだから、彼らが入ったら僕らも入れば良い。急ぐ必要はないよ」
「マグヌッセンがピットインした。ペレスやオコンと較べてもペースは良いぞ」
33周目、一度ピットインして後方に下がったサインツが、ふたたび追い付いてきてバックストレートで仕掛けてくる。アロンソはマシンを左右に振ってなんとかトウを外そうと抵抗を試みるが、ターン14で止まりきれず先行を許してしまった。
「すまない、ブレーキングでクルマがどこに行くか分からなかった」
「了解、気にするな」
そうやりとりをしていた瞬間、左リアのドライブシャフトに異変が生じた。
「あ、ドライブシャフトだ、ドライブシャフトトラブルだ」
「OK、安全な場所に止めてスイッチオフしてくれ」
土曜の夜にも同じ左リアのドライブシャフトを交換しており、問題を抱えていることは分かっていた。だからアロンソも瞬時に直感しドライブシャフトだと無線で報告した。
サインツに先行を許したとはいえ、7位で手堅くフィニッシュできるはずだったレースを落としてしまった。
「開幕戦での言葉を繰り返したくないけど、今回も僕のキャリアでベストなレースのひとつだった」とアロンソ。
今のマクラーレン・ホンダにとって千載一遇のチャンスを逃すことになってしまった。その痛手はあまりに大きすぎた。