ダンプコンディションのレースとなった2017年F1第2戦中国GPは、メルセデスのルイス・ハミルトンが勝利。ニッポンのF1のご意見番、今宮純氏が中国GPを振り返り、その深層に迫る──。今回は、ルーキーとベテランの力の差も露わに……。
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極上のマスターズ・レース。今年2戦目に満喫できたのはドライバー力が露わになる、濡れ渇きコンディションのおかげ。週末ずっとダークグレイだった上海の空の下、濃厚味を堪能できた中国GP。
金曜からはしゃぎっぱなしでいたルイス・ハミルトン、スタンドの「チームL・H地元応援団」に大サービス。余裕と自信を感じさせた彼が予選でスーパーラップを決めて63PP、アイルトン・セナの記録まであとふたつ。スローVTR画面にあったように、絶えず滑る4輪をきれいなスライド・アングルでコントロール、その感知センサー能力が際立った走りだった。
PP~全周トップ~最速ラップ~独走勝利、これが3度目のグランドスラム(完全試合)に。14年マレーシアGP、15年イタリアGPに続く記録で中国GPは5勝目。終盤20周にはベッテルと最速ラップを応酬、トップテニス・プレーヤーだけが演じられる長いラリーみたいであった。パッシングショットはなくても、二人は強いラップを見せつけたのだから。
オーバーテイクは量(回数)よりも質、F1に求められるのはそれだ。多ければいいというものではない。七つの神髄プレーがあった。
(1)8周目にマックス・フェルスタッペンがキミ・ライコネンを6コーナーでキャッチ。濡れ場で速いレッドブル、手前3コーナーから加速でまさり飛び込んでいった。
(2)11周目にフェルスタッペンがダニエル・リカルドを同じところでインサイドから。チームメイトでも躊躇せずに切り込んだ意欲みなぎる2位バトル。ちょっと油断していたのか、リカルド。
(3)20周目にベッテルがインからライコネンをそこでパス。一瞬驚くもすぐに対応し接触を避けたライコネン、“逃げ技”が上手かった。
(4)22周目にベッテルがリカルドと6~7コーナーでホイール・トゥー・ホイール接戦を。コース幅ほぼいっぱい使い、当たってもダメージを互いに避けるわずかな“タッチ・プレー”で。できる相手とできない相手を見極められる、かつてのチームメイトの3位バトルだ。
(5)28周目にベッテルが14コーナーでフェルスタッペンをかわした。限界ブレーキングに追い詰めて2位奪取成功。フェアな技と技の攻防に二人が表彰台セレモニー前の控え室で談笑……(珍しい光景だ)。
(6)33周目にフェルスタッペンが6コーナーでバルテリ・ボッタスを攻略。不用意なSCラン中のミスで気落ち気味の相手をブレーキングでばっさり。レース中のメンタルの違いがありありと出た一瞬だ。
(7)その後フェルナンド・アロンソとカルロス・サインツJr.が14コーナーで左右ジグザグ攻防戦、カートレースみたいに。失速してもクロスライン取りで抵抗する匠の技を後輩は学んだはずだ。ちなみにトロロッソよりラップ2秒劣っていたアロンソ、オーバーテイクさせない技の限りを披露。
あえて言うならば18歳新人ランス・ストロールは0周、2戦目アントニオ・ジョビナッツィは3周で消えていった。雨がらみコンディションの週末、ルーキーズとマスターズの「現在力」の差異がこの結果になった。しかしこれで落ちこむか、ここから上りつめるか、二人にエールを贈りたい。今年で中国GPの勝利が5勝目となったハミルトンも新人の年、ピットレーンのコーナーで無様なコースアウトを犯してしているのだから……。
同点のベッテル対ハミルトン、1点差のメルセデス対フェラーリ。開幕してまだ2戦だが、いままでと全く違う17年シーズンがこの先に待ちかまえていそうだ。一喜一憂せず一戦ずつを見ていこう。今年はこれからもっと、きっと、ずっと濃密な18戦になっていく――。