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ヤマト、未払い残業代「倍増」の可能性…裁判官が「変形労働時間制」不適切運用を指摘

2017年04月10日 11:34  弁護士ドットコム

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ヤマト運輸の未払い残業代問題で、ヤマト側の支払い金額が大幅に増える恐れがある。全社的に「変形労働時間制」が適切に運用されていない可能性があるからだ。元ドライバー2人が未払い賃金をめぐり、ヤマトと争っていた労働審判の中で明らかになった。ドライバー側の代理人弁護士によると、人によっては残業代が2~3倍になる可能性があるという。


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変形労働時間制とは、労働時間を1日単位(8時間まで)ではなく、一定期間で考える手法。ヤマトでは労使合意で、1カ月単位が採用されている。月およそ170時間(週平均40時間)を上限に、10時間、6時間、10時間…といった風に勤務時間を割り振って行く形だ。通常10時間働けば、2時間の残業になるが、変形制で所定労働時間が10時間と決まっていれば、残業代は払わなくて良い(ただし、月の上限を超えた分などは支払い対象)。


しかし、労働審判の中で、この変形労働時間制の運用に問題があることが明らかになった。裁判官が不適切である旨の発言(心証開示)をしたのだという。実際、労働審判は今年3月23日に調停が成立。2人にとって、高い水準での合意になったという。


●金額はどのくらい変わるのか?

変形制が否定されると、通常通り残業代を支払わねばならない。つまり、1日8時間を超えた労働はすべて残業代の対象となる。たとえば、変形制で所定労働時間が10時間とされていたら、12時間働いたときの残業は2時間だ。しかし、通常なら4時間。残業代の支払い対象が増える。


この2人の場合、労働審判では、会社側の提示額が72万円、90万円だったのに対し、3倍以上の301万円と276万円を要求。正確な数字は公表していないが、高い水準で主張が通ったとしている。元ドライバーの代理人・穂積匡史弁護士によると、金額の開きは基本賃金の評価と、変形労働時間制であるかどうかの部分だ。


穂積弁護士は「変形労働時間制は本来、業務時間を減らすための制度。趣旨に反した運用がなされていたということだ」と説明する。


●なぜ不適切とみなされた? どの程度影響する?

変形労働時間制を導入するには、従業員にあらかじめ勤務スケジュールを示す必要があり、任意に変更することはできない。また、スケジュールをつくる際は、労働時間が平均して週40時間を超えないようにしなくてはならない。


2人は労働審判で、勤務予定表を証拠として提出。上限は月の日数によって違うが、おおよそ170時間程度なのに、あらかじめ月220時間を超えるシフトを組まれていたり、月の途中で頻繁にシフトが変わっていたりと、不適切な運用がなされていることを主張した。


2人が働いていたのは神奈川県の平川町支店。昨年、長時間労働や賃金未払いで労働基準監督署から是正勧告を受けた支店だ。こうした運用はこの支店だけの問題だったのだろうか。


弁護士ドットコムニュースは、神奈川県にある別の支店のシフト表を入手した。あらかじめ220~250時間ほどの労働時間が設定されており、ところどころシフトが変わっていることも確認できた。また、ほかの神奈川県の支店ドライバーも同様の運用が現在も続いていることを証言した。


現在、ヤマトは従業員約7万6000人と面談し、未払い残業代の支払いを進めている。同社の広報は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「残業については、実際に働いた時間と会社側のデータとの差がないかを確認しているところだ」とコメント。未払い残業代があれば、「変形労働時間制の場合は、その形式で計算している」と回答した。労働審判でのやり取りは反映されていないという。


穂積弁護士は、「多くの支店で同様の変形労働時間制の運用が行われていると考えられる。交番表(勤務予定表)を保管しておき、会社側と交渉すれば、残業代が2~3倍になる人もいるのではないか」と話している。


(弁護士ドットコムニュース)